第38話 じゃあ特別に私が童貞を卒業させてあげようか?

「まずは乾杯しようか」


「よっしゃー」


「うぇーい」


 メンバーが全員揃ったところでいよいよ合コン開始となったわけだが俺以外の男性陣の異様なテンションの高さには着いて行けそうにない。


「当然イッキだよね」


「皆んな初っ端からテンション高すぎ」


 男性陣を煽り始める黒髪ショートのお姉さんの様子を見つつ夏乃さんは周りに合わせて普段よりもほんの少しだけ高めのテンションでそう口にしていた。

 ちなみに俺と夏乃さん以外はアルコールの入ったグラスを手に持っていたため二十歳以上なのだろう。乾杯を終えた俺達は順番に自己紹介を始める。

 まずは女性陣からであり真夜さんと夏乃さんが自己紹介をする。言うまでもなく二人ともかなり美人なため俺以外の男性陣のテンションは高かった。


「次は私の番ね、文学部三年生の上白石里緒かみしらいしりお。好きな男の子のタイプは年下かな、よろしく」


 女性陣の中で最後に自己紹介をした上白石さんは俺の方を見ながらそう口にした。黒髪ショートヘアで口元にほくろのある上白石さんも二人に負けず劣らず美人だったため俺はドキッとさせられてしまう。

 すると夏乃さんがテーブルの向こう側から俺を睨みつけてきた。美人なお姉さんから見つめられドキッとしない方が難しいのでそこは許して欲しい。

 続いて今度は男性陣の自己紹介に移る。一人は理工学部の三年生でとにかくチャラそうであり、もう一人は商学部の二年生でこっちも完全にパリピだ。

 そしていよいよ俺の自己紹介の番がやってきた。とりあえず学部は早穂田大学を受ける場合の第一志望を名乗る事にする。


「政治経済学部一年生の九条結人です、よろしくお願いします」


「よろしく」


「仲良くしようぜ」


 男性陣二人は初対面にも関わらずかなりフレンドリーな感じだった。見た目はあれだが中身は案外良い人なのかもしれない。


「へー、結人君って名前なんだ」


「……上白石先輩はさっきから結人に熱い視線を向けてますね」


「もしかして後輩君狙いですか?」


 上白石さんに対して夏乃さんと真夜さんはそんな事を聞いていた。


「うん、結人君みたいな子が好みだからさ」


「そ、そうなんですね」


 夏乃さんは抑えようとはしていたが隠しきれなかった不機嫌オーラがほんの少し体から出ている。夏乃さんの機嫌をあまり損ねたくはないので上白石さんへの対応は注意が必要だ。

 それからフリートークに移行して自由に話し始める。夏乃さん以外のメンバーとは今日が初対面であり全員年上な事もあって最初は緊張していたが、一時間が経った頃には場の空気にも割と慣れていた。


「へー、結人君と夏乃ちゃんって幼馴染なんだ」


「そうなんですよ、夏乃とは幼稚園児くらいの頃からの付き合いです」


 俺はかなりアルコールが入ってハイテンションな上白石さんと話している。席替えのせいで上白石さんの隣になってしまったため話さざるを得ない。

 夏乃さんは理工学部の先輩と話しつつもさっきからこちらを頻繁にチラチラ見てきているため多分俺の事が気になるのだろう。


「結人君ってこういう場はあまり慣れてない感じ?」


「何で分かったんですか?」


「言動とかを見たらバレバレだよ」


 やはり場慣れしていそうな上白石さんには簡単に見抜かれてしまったらしい。俺のそんな反応を見て上白石さんはニヤニヤした表情になる。


「もしかして結人君ってまだ童貞?」


「ど、どうでしょう?」


 ストレートに聞かれて答えるのが恥ずかしかった俺はそう濁した。まあ、今の受け答えでバレバレだと思うが。


「へー、やっぱりそうなんだ。じゃあ特別に私が童貞を卒業させてあげようか?」


「いやいや、あんまり俺を揶揄うのは辞めてくださいよ」


「私としては割と本気なんだけどな」


 そう言って上白石さんは妖艶な表情でこちらを見つめてくる。これ以上迫られると理性的な意味でまずいので辞めて欲しい。夏乃さんも視線だけで人を殺せそうな眼光を俺に向けないでくれよ。

 その後もしばらく六人で盛り上がっているうちにあっという間に時間は経過し、気付けば合コンの終了時間がやってきた。

 これでようやく家に帰る事ができる。そう思っていた俺だったがいつの間にか二次会でカラオケに行く話になっていた。ちなみに真夜さんと商学部の先輩は普通に帰るらしい。

 本当は俺も帰りたかったのだが上白石さんが一緒に行きたいと言って聞かず、それなら夏乃さんと理工学部の先輩も行くと言い出したのでこうなってしまったのだ。


「結人、さっきからずっと上白石先輩にデレデレしてるでしょ」


「それは向こうからグイグイ来てるから仕方なく対応してるだけですって」


「今は同級生って設定なんだから敬語は出さない」


「分かったよ」


「さっきから二人でこそこそと何話してるの?」


 俺と夏乃さんがカラオケに移動しながら小声で話していると上白石さんが絡んできた。かなり酔っているせいかテンションがめちゃくちゃ高い。


「別に大した事は話してないですよ」


「ですです、夏乃さんとこの後のカラオケで何を歌うか話してただけなので」


 俺と夏乃さんはひとまずそう口にして誤魔化した。

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