第37話 そっか結人は私を助けようとしてくれたんだ

「結人を合コンに参加させるのは私的にはあまり賛成できませんね、そもそも高校生を居酒屋に連れて行くのはどうかなと思いますよ」


「言われてみれば確かにそうか、現に後輩君は思いっきり制服姿だし」


 夏乃さんと真夜さんはそんな会話をしていた。確かに制服姿で居酒屋に行ったらその瞬間に追い返されそうな未来しか見えない。まあ、合コンに参加する気はないためどうでも良い事だが。


「あっ、一人参加出来るってメッセージが返ってきたぞ」


「ちなみにどんな人ですか?」


「英語の授業で知り合った同級生の葛原くずはらって奴なんだが」


 葛原という名前を聞いた瞬間、夏乃さんの表情が明らかに曇る。


「……もしかしてその葛原って人は経済学部でテニスサークルに所属してる人だったりします?」


「よく知ってるな、もしかして知り合いか?」


「まあ、一応は。せっかく参加出来るって言ってくれてるところ申し訳ないですけど何か適当な理由を付けて断った方がいいですよ」


「夏乃がそこまで言うって事は結構やばい系……?」


「ええ、新歓祭の時に結構強引に勧誘しようとしてきたので」


 なるほど、多分葛原という奴は脳と下半身が直結しているタイプに違いない。


「うーん、でも合コンに欠員が出てめちゃくちゃ困ってるって誘い方をしてしまったからな。下手な断り方をすると後々トラブルになりそうだし」


「そうですね、あのタイプは絶対根に持ちそうなので」


 二人は困り顔になっていた。俺としても夏乃さんとそんなヤバそうな奴を絶対に鉢合わせなんてさせたくない。ならば俺が取る行動は一つだ。


「じゃあ合コンには俺が参加します、なのでその人にはひと足先にメンバーが見つかったって理由で断っておいてください」


「後輩君、急にどうしたんだ?」


「そうだよ、結人はさっきまで全く乗り気じゃなさそうだった気がするんだけど」


「ちょっと社会経験をしたくなっただけですよ」


 夏乃さんを守りたいからとは恥ずかしくて流石に言えそうになかったため俺は適当な理由を口にした。すると真夜さんはニヤニヤした表情を浮かべる。


「あっ、ひょっとして後輩君は夏乃を守ろうとしてくれたんじゃないか?」


「えっ、そうなの!?」


「そ、そんな理由じゃないですって」


 突然そんな事を言われて思いっきり動揺した俺は慌てて否定をしたが多分バレバレに違いない。


「別に恥ずかしがる必要はないぞ、後輩君の行動は本当に立派だ」


「真夜先輩の言っている事は本当なの……?」


「……はい、そうです」


 夏乃さんから目を見つめられて耐えられなくなってしまった俺はあっさりと白状した。うん、多分俺には嘘や隠し事をするのは向いてなさそうだ。


「そっか結人は私を助けようとしてくれたんだ」


 そう口にした夏乃さんは顔を真っ赤に染めて少し恥ずかしそうにしていた。えっ、夏乃さんってこんなに可愛かったっけ。


「二人だけの世界を形成してイチャイチャしてるところ悪いけどそろそろ移動するよ」


「そ、そうですね」


「わ、分かりました」


 しばらく無言で見つめ合っていた俺と夏乃さんだったが真夜さんの言葉によって一気に現実へと引き戻された。


「とりあえず葛原にはひと足先にメンバーが見つかったって言って断っておいたから」


「特に揉めたりはしませんでした?」


「うん、来るメンバーとかをまだ伝えてなかったおかげか割とあっさり引き下がってくれたよ」


 ひとまずはこれで安心だ。まあ、これから飛び込みで人生初の合コンに参加しなければならなくなったためそういう意味では全く安心できないが。


「それで今はどこに向かってるんですか?」


「後輩君の服の調達だよ、流石に制服で参加はさせられないしね」


 俺の質問に対して真夜さんはそう答えてくれた。それから本屋近くにあった衣料品店へと来た俺達は早速服を選び始める。


「後輩君にはこれとか似合うんじゃないか?」


「組み合わせ的にはこっちも似合うと思う」


 しばらく二人から着せ替え人形のごとく色々な服を試着させられた。夏乃さんも真夜さんもかなりノリノリな様子だ。最終的には今どきの男子大学生風な見た目になった。


「うん、良い感じになったじゃん」


「ああ、これなら後輩君も大学生に見えるな」


 二人は満足そうな表情を浮かべている。確かに今の格好なら居酒屋でも追い返されたりはしないはずだ。


「あっ、ついでだから結人はこれも掛けておいて。男女兼用で度も入ってないから」


「夏乃さんは何で伊達メガネなんか持ち歩いてるんですか?」


「ファッション用で最近買ったんだよね。まあ、実はまだ一回も使ってないんだけど」


 そう言って夏乃さんは黒い眼鏡を手渡してきた。ひとまず俺はそれを掛けてみる。


「うん、やっぱり結人にはよく似合う」


「だな、インテリ男子感があって中々格好良いぞ」


 二人から褒められてあまり悪い気はしなかった。これで準備は整ったため俺達は会場の方へと移動し始める。


「そうそう後輩君は夏乃の同級生って設定にしておいてくれ」


「確かに結人が高校二年生って名乗るのはまずいですもんね」


「分かりました、じゃあ俺は今晩だけは早穂田大学の一年生になるのでよろしくお願いします」


「私と夏乃でしっかりフォローをするつもりだからそこは安心してくれて大丈夫だ」


 俺一人だとボロを出してしまう可能性が非常に高いためフォローしてくれるのはめちゃくちゃ有難い。


「あっ、大丈夫とは思うけど同級生って設定だから合コン中は私に敬語で話しかけちゃ駄目だよ」


「分かりました、ちょっと心配ですが全力で頑張ります」


 合コン中は普段凉乃と話す感じのノリで夏乃さんと話す事にしよう。

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