第34話 周りから見たら私達もカップルっぽくない?

「ところでこれから俺はどこに付き合えばいいんですか?」


「今日は見たいと思ってた映画があるからそれに付き合って貰おうと思ってさ」


「……案外普通なんですね」


 映画という単語を聞いた俺は思わずそう言葉を漏らした。とんでもない無茶振りに付き合わされる事も覚悟していたため正直拍子抜けだったのだ。


「あっ、もしかしてラブが付くホテルに連れて行かれるとか思ったりした?」


「そ、そんな事ないですって」


 嘘だ、本当は頭の中でその可能性もあり得るかもしれないとほんの少しだけ考えていた。そんな俺の考えを見透かしているのか夏乃さんはニヤニヤした表情になる。


「へー、ちょっとは思ったりしてくれたんだ」


「時間がもったいないので早くいきましょう」


「もう、しょうがないな」


 これ以上何か喋ると盛大に墓穴を掘りかねないと判断した俺は強引に話を終わらせる事にした。特に追撃してこなかった事を考えると夏乃さんは俺を揶揄って満足したのだろう。

 それから俺達はバイクで毎度お馴染みの場所となったいつものショッピングモールへと向かう。そして駐輪場にバイクを停めて映画館を目指して歩き始める。


「そう言えば今日は一体何の映画を見るつもりなんですか?」


「最近よくテレビとかでCMをやってるつばめの鍵閉めが見たいんだよね」


「ああ、今めちゃくちゃ学校でも流行ってますよ」


「うん、私の友達も皆んな見て良かったって言ってたから前々から気になってたんだよね」


 ここ最近SNSなどでめちゃくちゃ話題になってたアニメ映画のため俺も見たいと思っていた。つばめの鍵閉めは男子高校生の主人公がヒロインの女子大生と日本各地を回って災いを鎮めるロードムービーだ。

 何年か前に若者を中心に大流行したあたなの名はや天候の少女と同じ監督の作品な事もあり見る前から期待値はかなり高い。ちなみにしっかりと恋愛要素もあるためカップルでこの映画を見に行く人も多いとか。


「せっかくだから売店で何か飲み物とポップコーンを買って行こうよ」


「じゃあポップコーンはキャラメルと塩を半々で買いましょう」


「うん、そうしようか」


 俺達は自動券売機で映画のチケットを買った後、売店に並んでジュースとポップコーンを買った。そして映画館の中に入った俺達は予約したシートにゆっくりと腰掛ける。


「やっぱり周りはカップルだらけだな」


「周りから見たら私達もカップルっぽくない?」


 俺のつぶやきを聞いた夏乃さんはそんな事を言い始めた。恥ずかしくなってしまった俺はそれを誤魔化すために否定する。


「どっちかというとヤンチャな姉に振り回される弟とかに見えそうな気がしますけど」


「むー、つまらない事を言わないでよ」


 夏乃さんはちょっと拗ねたような顔でそう口にした。機嫌を損ねすぎると後が怖いため俺は慌てて謝る。


「いや、今のは俺達がまるで本物の姉弟に見えるくらい親密って事を言いたかっただけで別にカップルに見える事自体は全く否定してないので」


「そっか、じゃあそういう事にしておいてあげる」


 ひとまず機嫌が直ってくれたようなので一安心だ。しばらく予告やCMを見て待っているうちに映画館の中が暗くなって本編が始まる。

 博多に住む主人公がヒロインの女子大生と出会うところから物語はスタートし、序盤から中盤にかけて広島の厳島神社や京都の伏見稲荷、名古屋の熱田神社で災いを鎮めていく。

 そこまでは明るい雰囲気の物語だったが東京の明治神宮でヒロインの身に悲劇が起こった事で一転して暗い方向に話が行き始める。

 そこからしばらくの間シリアスな展開が続いたためドキドキしながらスクリーンを見つめる俺だったが、終盤に平泉の中尊寺でヒロインを救った事で最大の山場を越えて映画は大円団を迎えた。


「めちゃくちゃ良かったですね」


「うん、途中はどうなる事かと思ったけどちゃんとハッピーエンドで終わって安心した」


 シートを立った俺達がそんな会話をしながら出口に向かっているとよく見知った顔とばったり遭遇する。


「あっ、お姉ちゃんと結人君だ」


「えっ、凉乃と兄貴!?」


「おい、何で結人が夏乃さんと一緒にいるんだよ」


「二人ともやっほー」


 俺と兄貴はお互いに驚いたような表情を浮かべていたが凉乃は相変わらずマイペースであり夏乃さんもいつも通りのテンションだった。


「今の時間帯って兄貴は部活の練習してるはずだろ、何で凉乃と映画館なんかにいるんだよ?」


「何言ってんだ、今日は職員会議があるからどこの部活も休みだぞ。ちゃんと話を聞いてなかったのか?」


 あっ、なるほど。それで通学路の人通りが普段より多かったのか。多分朝か帰りのホームルームで担任が職員会議のアナウンスをしていたに違いないが今日は一日中ボーっとしていたせいで耳に入ってなかったようだ。


「ここに立ち止まってたら通行の邪魔になりそうだし、とりあえず映画館の外に出ようよ」


 二人して睨み合っていた俺と兄貴だったが夏乃さんの言葉を聞いてようやく我に返った。


———————————————————


なろう版に追いついて書き溜めが無くなったので若干ペースが落ちます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る