第33話 ふーん、結人は私に嘘をつこうとしたんだ
保健室で体育の授業をサボった後も一日中全くと言っていいほど集中出来なかった。だから帰りのホームルームが終わって須崎や神村、水橋と話した内容すら全く覚えていない。
何かしらのやり取りをした気はするが本当に何一つ記憶に残ってないのだ。そろそろ切り替えないと学校生活に支障をきたしてしまいそうな気がする。
いや、突き指をしたり授業の内容が全く頭に入ってこなくなった時点でだいぶ支障が出てるか。
「結人、待ってたよ」
「……何で今日もいるんですか?」
校門の前にはにこやかな表情を浮かべた夏乃さんが立っていた。多分今の俺はかなりマヌケな表情を浮かべているに違いない。今まで二日連続で来た事はなかったため完全に油断していた。
「好きな人とは毎日でも会いたいからに決まってるじゃん」
「よくそんな恥ずかしいセリフを堂々と言えますね」
「だって私美人だし」
夏乃さんは自信満々な表情でそう口にした。自意識過剰ではなく本当に美人だからタチが悪い。そう思っていると夏乃さんは強引に腕を絡ませてくる。
「じゃあ行こうか」
「ち、ちょっと急に腕を組んでくるのは辞めてくださいよ」
「ひょっとして嫌だった?」
「嫌ではないですけど……」
「だったら別にいいじゃん」
うん、多分これ以上何を言っても無駄だろう。そのまま歩き出す俺達だったが普段の時間帯よりも通学路の人通りが多い事に気づく。
まだテスト期間ではないはずなのになぜこんなにも多いのだろうか。そんな事を考えていると夏乃さんは急に立ち止まる。
「そう言えば結人の体から他の女の子の匂いがするのは気のせい?」
「……気のせいだと思います」
一応心当たりはあったが俺は咄嗟にそう誤魔化そうとした。確かに保健室で凉乃と密着したがそれだけで匂いなんてうつるなんて思えない。
「うーん、凉乃ちゃんの匂いに似てる気がするんだけどな」
「そ、そうですかね……?」
「もう一回同じ事を聞くけどさ、結人の体から他の女の子の匂いがするのは本当に気のせい?」
「……気のせいじゃないです」
夏乃さんからじっと目を見つめられて耐えられなくなった俺は呆気なくそう白状した。上手く言葉に出来ないが隠していたらとにかくやばい事になりそうな予感がしたのだ。
てか凉乃とは本当に一瞬だけしか密着しなかったというのに何故バレてしまったのだろうか。マジで夏乃さん怖過ぎるんだけど
「ふーん、結人は私に嘘をつこうとしたんだ」
「ごめんなさい……」
「これは流石に何か罰を与えないとちょっとお姉ちゃん許せそうにないな」
夏乃さんは俺に対して非難の視線を向けながらそう口にした。隠し通せると思っていた数分前の自分を殴りたい気分だ。
「……なるべく優しめの罰でお願いします」
「罰は後からゆっくり考えるとして何で凉乃ちゃんの匂いがするのかをまず教えてもらおうか。あっ、もし嘘をついたり隠そうとしたら罰が増えるからね」
「実は保健室で……」
「……まさか凉乃ちゃんを保健室に連れ込んでそのままベッドインしようとしてたの?」
「いやいや、俺が凉乃にそんな事するわけないでしょ。たまたま保健室でばったり会っただけですって」
さらっと凄まじい事を口にした夏乃さんに俺は思わずツッコミを入れた。学校の保健室で男女がベッドインするとか完全にエロ漫画の世界だけの話であり、現実世界ではまずあり得ないだろう。
「それなら何で結人の体から凉乃ちゃんの匂いがするのかな? 凉乃ちゃんにかなり密着しないと匂いなんてうつらないと思うけど」
「ドジな凉乃が段差につまずいて転びそうになったのを後ろから抱き寄せて助けただけでとくにやましい事は一切無かったですから」
包み隠さず素直そう答えると夏乃さんはふくれっ面になった。そんな顔をされると一応人助けをしたはずなのに凄まじく悪い事をしてしまった気分になる。
「えいっ」
「ちょっ!?」
なんと夏乃さんは何の脈絡もなく突然抱きついてきたのだ。人目の多い通学路で夏乃さんからいつまでも抱きしめられているわけにはいかない。
「あのー、周りからめちゃくちゃ見られてるのでそろそろ離してくれませんか?」
「今一生懸命私の匂いで上書きしてる最中だからもう少しだけ我慢して」
そう言って夏乃さんは中々離してくれなかった。夏乃さんが満足するまでしばらく抱きしめられ続けたせいで顔から火が出そうだ。
「よし、今回はこのくらいで勘弁してあげるよ」
「これで今回の罰は終わりって事でお願いします」
「何言ってるの、今のは罰に含まれないから」
「えー、どう考えても今のは罰でしょ」
「私みたいな美女からハグされたんだからむしろご褒美だと思うんだけど?」
公衆の面前であんなにも凄まじい羞恥プレイを受けたというのにあれが罰としてカウントされない事には正直納得いかない。
だが夏乃さんに抗議をしたところで無駄な事は分かりきっている。そのためこれ以上何を言っても無駄だ。ひとまずクラスメイト達に見られていない事を祈っておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます