第31話 好きな人と通話する事にいちいち理由なんて必要?

 夏乃さんから運動公園で告白されて以降の事はほとんど覚えていない。あの後も夏乃さんとは色々と話していたはずだが内容なんて何一つ思い出せなかった。

 生まれて初めて女の子から告白されたのだから無理もない事だろう。いや、正確に言えば俺を兄貴と勘違いした女子から中学生の時に何回か告白された事もあったがあれは流石にノーカウントだ。


「……夏乃さんの好きな相手が俺っていくら何でも予想外過ぎるだろ」


 二人で箱根旅行に行った日の寝る前にした恋バナの時に夏乃さんは好きな相手をめちゃくちゃカッコいい人と言っていたため俺の事とは思うはずがなかった。

 もし自分の事だと思っていたとしたらとんでもないナルシストだろう。とにかく夏乃さんから告白されるなんてあまりに非現実的過ぎていまだに頭が追いついていない。

 そのせいで家に帰ってからずっと机に向かっているというのに英語の課題が何一つ進んでいなかった。もう二時間以上は経っているはずなのにそもそもまだ問題集すら開いていない。


「ひょっとして全部夢とかじゃないだろうな……?」


 試しに自分の頬をつねってみたが普通に痛かった。うん、絶対夢じゃないわ。夏乃さんは俺の事なんて恋愛対象として見ていないと思っていたし、逆に俺も夏乃さんの事をそういう対象とは意識していなかった。

 夏乃さんは実妹である凉乃と似た顔立ちをしているがパーツが明らかに整っているため相当美人だ。だから夏乃さんの事をテレビに映る女優やモデルのように手の届かない存在だと思っていた。ほんの数時間前までは。


「告白されてから思いっきり意識するなんて俺もマジで単純だよな」


 凉乃の事が好きなはずなのに夏乃さんから告白されて何も手がつかなくなるくらいドキドキしている俺は本当に最低な人間かもしれない。

 一人で自己嫌悪に陥っていると机の上に置いていたスマホが着信音とともに激しく振動し始める。画面には結城夏乃と表示されていた。出るかどうかで少しの間迷う俺だったが意を決して応答ボタンを押す。


「……もしもし?」


「やっと出てくれた」


 電話をかけてきた夏乃さんの声は割といつも通りだった。愛の告白した後だというのに何でそんなにも落ち着いていられるのだろうか。

 ひょっとして全部ドッキリでしたというパターンだったりして。もしそうなら悲しいが今まで通りの関係に戻るだけなのでそれはそれで安心したりもする。


「あっ、分かってるとは思うけどあの告白は夢でもドッキリとかでもないから」


「そ、そんな事思ってませんよ」


「ふーん、それならいいけど」


 俺の誤魔化しに対して夏乃さんはそう口にしたものの多分信じていないに違いない。どうやら夏乃さんは全てお見通しのようだ。


「それで夏乃さんは何で急に電話なんてかけてきたんですか?」


「好きな人と通話する事にいちいち理由なんて必要?」


 突然夏乃さんがそんな事を言ってきたせいで俺はスマホを床に落としそうになってしまう。今の言葉はあまりにも破壊力が強過ぎた。


「俺をあんまり驚かせないでください」


「ごめんごめん、好きな相手だからつい意地悪しちゃった」


「だから言ったそばからぶっこんでくるのは辞めてくださいって……」


 あまりにもドキドキし過ぎたせいで俺のHPはゼロになる寸前だ。これ以上やられると死亡して所持金が半分になった挙句教会送りになってしまうかもしれない。


「結人がドキドキしてくれてるみたいで嬉しいよ、あそこまでして全く意識されてなかったら悲しかったし」


「意識するなっていう方が無理ですよ、てか隠す気無いんですね」


「もう告白までしたんだから結人への好意をわざわざ隠す必要もないかなと思ってさ」


 夏乃さんはそう言い切った。もしかして夏乃さんは今後ずっとこんなテンションで俺と接するつもりなのだろうか。


「そう言う訳だからこれから覚悟しておいてね、絶対に私の事を選ばせてみせるから」


 夏乃さんは一方的にそう言い終わると通話を切ってしまった。しばらく放心状態になっていた俺だったが隣の部屋からの物音を聞いて我に返る。兄貴が部活の練習を終えて帰ってきたらしい。


「てか少し冷静になって考えてみたら俺達の関係ってかなり……いや、めちゃくちゃやばいよな」


 俺が好意を抱いている凉乃は兄貴が好きだが、兄貴は夏乃さんしか眼中にない。そんな夏乃さんはというと俺の事を狙っている。

 うん、見事なまでの四角関係だ。誰が誰と付き合っても凄まじい修羅場になる未来しか見えなかった。まるで昼ドラのような相関図を脳裏に思い浮かべた俺はただただ頭を抱える事しか出来ない。


「……とにかく兄貴にだけは絶対バレないようにしないと」


 万が一そんな事になったら過去最大級の兄弟喧嘩が勃発する事は火を見るより明らかだ。いや、下手をしたらそれどころでは済まない可能性だって十分に考えられる。

 痴情のもつれは本当に恐ろしいと聞くし、冗談抜きで血の雨が降りかねない。そうなる事だけは絶対に避けたかった。


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本日2話目の更新です〜

もし良ければ現在カクヨムコンに応募している作品


『自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話』

https://kakuyomu.jp/works/16817330660304307892


もよろしくお願いします〜

カクヨムコンの読者選考を突破できるか怪しいので読んでフォローと★を入れて頂けると非常に喜びます!


大体文庫1冊分(10万文字)くらいの長さで完結している作品で本作を楽しめている方には刺さる内容だと思います!!

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