第28話 そんな事を言っている割に結人の体はもう既に準備万端みたいだけど?

「結人も納得してくれた事だし、早速脱いで貰おうか」


「あの、一言も納得したとは言ってないんですけど……?」


「うーん、このままだと埒があきそうにないからお姉ちゃんが脱がせるね」


「ち、ちょっと!?」


 迫ってくる夏乃さんに対して必死の抵抗を試みる。普段なら女性の夏乃さんに力負けする事なんてまずないが熱のせいであまり体に力が入らない。

 しばらく拮抗していたパワーバランスだったがだんだん俺が劣勢になり始める。そしてついにホックを外されてズボンを一気にずり下ろされてしまう。


「……ベッドの上で夏乃さんが俺に覆い被さってズボンを脱がしてる姿を母さんなんかに見られたら一体どう言い訳するつもりですか?」


「結人の童貞を奪おうとしてましたとか?」


「さらっと凄まじい嘘をつこうとしないでくださいよ、てか言い訳の内容の方がはるかにやばいと思うんですけど……」


 確かにはたから見たら俺が夏乃さんから逆レイプされかけているようにしか見えないが。すると夏乃さんはとんでもない事を口にし始める。


「なら今から私と本当にエッチしちゃえば嘘じゃなくなるよね?」


「えっ……?」


「それに風邪って誰かにうつせば治るっていうし治療の一環って事でさ」


「うつせば治るって医学的根拠は無いはずですけど、それに万が一するとしても何も避妊せずにするのは流石に無理ですって」


「ああ、坐薬を買ったついでにこれも買ってきたからその辺の心配はいらないよ」


 夏乃さんがビニール袋から取り出した長方形の箱には大きな字で0.01と書かれていた。使った事はないがそれが何なのかを俺は知っている。


「……何で風邪の看病でコンドームなんか買ってくるんですか」


「薬の棚の隣に置いてあったからつい買っちゃった」


「ついって軽いノリで買えるようなものじゃないと思うんですけど」


 レジでコンドームを買うなんて恥ずかし過ぎて今の俺には無理だ。


「とりあえず避妊って懸念事項も無くなったわけだし今からエッチしても何も問題ないよね」


「いやいや、問題しかないでしょ!?」


 俺のパンツの中に手を突っ込んできた夏乃さんを俺は全力で止める。俺は凉乃が好きなのだから夏乃さんと関係を持つのは流石にまずい。


「そんな事を言っている割に結人の体はもう既に準備万端みたいだけど?」


「これはあくまで生理現象です」


 俺の下半身は痛いほどに主張をしていた。こんな状況で勃起するなという方が無理に違いない。


「心配しなくても私が全部リードしてあげるから」


「ま、まさか本気ですか!?」


「うん、もちろん」


 夏乃さんはそう言い終わったタイミングで俺からパンツを剥ぎ取る。何とか耐えていた最後の砦がついに陥落してしまった。

 凉乃に申し訳ないと思いつつ心のどこかで夏乃さんとそういう関係になれる事を喜ぶ自分も存在していたため、もう俺は自身の気持ちがよく分からない。以前だったら絶対こんな気持ちにはならなかったはずなのに。

 そんな事を考えながら夏乃さんが俺の上に跨ったまま服を脱ぎ始めている姿をぼんやり眺めているとだんだん意識が遠のき始める。

 多分風邪をひいて体調が悪かった状態で色々と無理をした事が祟ったのかもしれない。いや、夏乃さんと浮気しようとした俺に神様が罰を与えたとも考えられる。


「凉乃ごめん……」


 そうつぶやいたところで俺の記憶は途絶えた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「……あれっ?」


「あっ、結人起きたんだ。もうお昼だよ」


 目を覚ますとベッド脇には手にお盆を持った夏乃さんが立っていた。眠る前の事がよく思い出せなかった俺だったがだんだん記憶が蘇る。

 そうだ確か夏乃さんから初めてを奪われそうになったタイミングで意識が遠のいてそのまま気絶したんだ。俺は慌てて体を確認するが特に何もされた形跡はない。


「そう言えば私が結人の部屋に来た時からすやすや寝てたけど一体どんな夢を見てたの?」


「えっ……?」


「いや、寝言で凉乃ちゃんに謝ってたから気になってさ」


「べ、別にそんな大した夢じゃないです」


 ひとまず俺はそうごまかした。どうやらさっきまでの事は全部夢だったらしい。まあ、夏乃さんが俺を誘ってくるなんて夢以外の何ものないだろう。

 ここ最近一人でやってなかったし欲求不満なのかもしれない。夏乃さんが帰った後でサクッと一回だけ抜いておこう。最近新しい幼馴染もののエロ漫画をダウンロードしたばかりなのでおかずには困っていない。


「お粥を食べたら薬を飲んで安静にしておくんだよ」


「ま、まさか薬って坐薬とかじゃないですよね?」


「当たり前じゃん。あっ、それとも結人はお姉ちゃんに坐薬を入れて欲しいのかな?」


「そんなマニアックなプレイには興味がないので」


 俺は慌ててそう否定した。そうだよな、普通は坐薬なんて買ってこない。多分熱と欲求不満が重なって変な夢を見てしまっただけだ。


「私は十三時過ぎから英語の授業があるしそろそろ帰るね」


「はい、今日はわざわざ来て頂いてありがとうございました」


 部屋から出て行こうとする夏乃さんの横顔をチラッと見る俺だったがその表情はどこか悲しげだった。よくよく見ると目元も腫れていて少し赤い。

 一体何が悲しかったのかは知らないがとにかく胸が痛んだ。声をかけようか一瞬迷う俺だったが考えているうちに夏乃さんは部屋から出てしまった。

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