第27話 じゃあ早速だけどズボンとパンツを脱いで貰おうかな

 目を覚ました俺は激しい頭痛や咳、強い倦怠感に襲われていた。


「まさか風邪か……?」


 嫌な予感がした俺は机の引き出しから体温計を引っ張り出して脇に挟む。


「37.8度もあるじゃん」


 体温計には平熱よりもかなり高い数字が表示されていた。やはり俺は風邪を引いてしまったようだ。どう考えても昨日雨に打たれて全身びしょ濡れになった事が原因だろう。


「……学校に行くのは多分無理だな」


 これだけ酷い体調だとまともに授業を受けられる気がしないし今日は学校を休む事にしよう。決して凉乃の顔を見るのが辛いから休むわけではない。俺はマスクを着用するとダイニングに向かう。


「あら、結人おはよう……って顔めちゃくちゃ真っ赤だけど大丈夫!?」


「いや、熱が38度近くあるからあんまり大丈夫じゃない」


「傘もささずにびしょ濡れで帰ってくるからそうなるのよ」


 母さんは呆れつつも心配したような顔でそう口にした。その通り過ぎて何も反論出来なかった事は言うまでもない。


「そう言えば兄貴は……?」


「ああ、綾人なら朝ごはんを食べて朝練に行ってたわよ」


「兄貴は風邪引かなかったんだな」


 兄貴も俺と同じように雨に打たれて全身びしょびしょになっていたためもしかしたら風邪を引いているかもしれないと思っていたが大丈夫だったようだ。

 まあ、昨日は俺が後でシャワーを浴びていたため順番が逆なら風邪を引いていたのは兄貴かもしれないが。


「とりあえず今日は学校を休むから学校に電話しておいてくれない?」


「ええ、分かったわ。また後で連絡しておくから安静にね」


「ありがとう、よろしく」


 俺は冷蔵庫からスポーツドリンクの入ったペットボトルを一本取り出すと部屋に戻る。


「あっ、そうだ。夏乃さんにも連絡しとかないと」


 夏乃さんは時々学校の前で俺を待ち伏せしている事があるため連絡しておかないと待ちぼうけさせてしまう可能性がある。今日来る可能性はあまり高くないと思うが万が一があっては申し訳ない。

 俺は机の上に置いてあったスマホを手に取ると、LIMEで夏乃さんにメッセージを送信する。すると一瞬で既読になった。


「まだ一秒も経ってないのに早過ぎるだろ」


 もしかしてたまたま俺とのトーク画面でも開いていたのだろうか。そんな事を考えていると着信音が鳴ると同時にスマホが激しく振動し始める。画面には結城夏乃と表示されていた。


「もしもし夏乃さん?」


「結人、体調は大丈夫?」


「38度近く熱があって体がかなりだるいので正直あまり大丈夫では無いですね……」


 現に今も倦怠感のせいで辛くてベッドに寝転びながら通話しているわけだし。


「そっか、それは安静にしとかないと駄目だね」


「メッセージにも書いた通り今日は学校を休むので校門で待ち伏せしてても俺とは会えませんから注意してください」


「あっ、ひょっとしてお姉ちゃんと会えないのが寂しかったりする?」


「そうですね」


 熱のせいで頭がぼーっとしていた俺は適当にそう答えた。普段なら夏乃さんの発言を聞いてツッコミを入れるところだが今はそんな元気がない。


「いつものきれがない事を考えると本当に体調悪いんだ」


「そういうわけなのでもう切ります」


「……うん、また後で」


 切り際に変な事を言っていたような気もするがあまりにも体調が悪すぎて何がおかしかったのかを考える余裕すらなかった。

 その後友達に学校を休むと連絡を入れた俺はスマホを枕元に置いて目を閉じる。本当は凉乃にもメッセージを送りたかったが夏乃さんに連絡先を消されたせいでそれはできない。

 何度か連絡先の再登録を試みたりもしたが夏乃さんから何かを吹き込まれたらしい凉乃から拒否されて叶わなかった。


「凉乃って昔から夏乃さんの言う事はめちゃくちゃ素直に聞くからな」


 だから凉乃の連絡先はもう諦めるしかない。それからしばらくベッドの上でうとうとしているとインターホンの鳴る音が聞こえてきた。

 何か荷物でも届いたのかな。そんな事を思っていると部屋の外から足音が聞こえてくる。母さんの足音とは少し違う気がするけど一体誰だろう。

 一瞬兄貴が忘れ物でも取りに戻ってきたのかなと思ったりもしたがそれならわざわざインターホンを鳴らす必要なんてないから違うはずだ。誰の足音なのか気になる俺だったがすぐに正体が判明する。


「お待たせ、特別に結人の看病をしに来てあげたよ」


「今日のこの時間帯って授業でしたよね……?」


「それなら自主休講したから大丈夫」


 足音の主は夏乃さんだった。確かドイツ語の授業だった気がするが自主休講なんてして本当に大丈夫なのだろうか。


「じゃあ早速だけどズボンとパンツを脱いで貰おうかな」


「……えっ!?」


 突然の要求に俺は思わずそう声をあげた。ちょっと夏乃さんが何を言っているのかよく分からない。


「それとも私が脱がせてあげようか?」


「そもそも何で俺が下半身をむき出しにする必要があるのかをまず詳しく教えて欲しいんですけど」


「ごめんごめん、ちょっと言葉足らずだったね。さっきドラッグストアに寄ったらこれを見つけてさ」


 そう言って夏乃さんは手に持っていたレジ袋から何かを取り出す。長方形の箱のパッケージには大きな字で坐薬と書かれていた。


「いやいや、それは流石に勘弁してくださいよ」


「でも結人も早く楽になりたいでしょ? 坐薬って内服薬よりもよく効くから」


 どうやら夏乃さんは本気らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る