26話 光金竜

 黄金に覆い尽くされた森林。そんな森林と見劣りしない程の巨大な黄金の体を持つ光金竜の姿はとても美しい。

 

 光金竜の歩いた場所は黄金となり、竜は徐々にその黄金の範囲を広げていく。

 

 そんな光金竜の前に現れたのは、アリーゼとその一行だった。

 

 ※

 

「赤炎竜の討伐ご苦労だった。アリーゼとその一行達よ」

 

 ベルセルク王は満足気な笑みを浮かべ言った。しかし、その数秒後に眉間にしわを寄せて、こう言った。

 

「赤炎竜も雪原竜も討伐してもらって悪いのだが、ベルセルク王国周辺に光金竜の影響が出始めているんだ。ベルセルク王国総出で今も冒険者や大砲を使って光金竜と戦っているんだが、森ほどの大きさのある光金竜に苦戦を強いられているのだ。ので、アリーゼとその一行に光金竜の討伐に参加して欲しいのだ。金はいくらでも積もう」

 

「分かりました、その光金竜の討伐に参加させていただきます」

 

 アリーゼは余裕そうな笑みを浮かべて言った。

 

 ※

 

 次の日、私達は光金竜のいる森へ来ていた。まぁ赤炎竜や雪原竜などの狂暴さはなく、光金竜は私達を認識してもただノソノソとゆっくりとどこかへ向かって行っている。

 

 木々を薙ぎ倒しながら辺り一帯を黄金化していく光金竜に、現場に駆けつけていた冒険者達は頭を抱えていた。

 

「状況はどうなってる?」

 

 アリーゼはこの現場の指揮を執っているであろう人間に聞く。

 

「それが何千発の大砲や最高位の魔法を撃っても光金竜の進行方向は変わらずで……」

 

「この方向は——まさか!?」

 

 なにかに気づいたアリーゼは言う。

 

「どうしたの? アリーゼ」

 

「この光金竜が向かっている方向は、恐らくいや確実にベルセルク王国だ」

 

「え、待ってそれめちゃくちゃヤバいじゃん!」

 

 私がそう言うと、現場の指揮を執っていた男はその場でしゃがみこむ。

 

「もうどうしようもないんだ、魔法を至近距離で撃ってもビクともしないんだ。もうどうしようも……」

 

 光金竜の恐ろしい程の耐久性を目の当たりにした男は言う。それを見たムートはアリーゼに問いかける。

 

「もうここの指揮は死んでいるのと一緒だ。どうする? アリーゼ」

 

 ムートの問いかけにアリーゼは頭を掻きながら、悩ましい表情を浮かべる。が、彼女は何か思いついたのか、この状況を打開する案を男に提案する。

 

「そこの男、大砲の玉と魔法を撃てる冒険者はどれくらい居る?」

 

「大砲は残り千発、魔法を使える冒険者は300人程度だ……何をするつもりだ?」

 

「そうか、それなら十分だ。なぁに簡単な作戦だよ」

 

 ※

 

 アリーゼの提案した作戦、それは光金竜が逃げないよう竜の周辺に冒険者を配置させ、光金竜の後ろの方向には全ての大砲を並べる。そして、アリーゼと私とムートは前線で光金竜を食い止める事になった。

 

 いやいやいや! デカすぎるでしょ! 全身が見えないし!

 

 私がこの作戦の無謀さに慌てていると、アリーゼは余裕を残した笑みで、

 

「そこの男、私たちが転移したら一斉に光金竜に魔法と大砲を撃つんだよ」

 

 え? 転移? どういうこと?

 

「さ、今から光金竜の真上に転移するから、しっかり掴まってて!」

 

 彼女はそう言って、私とムートの手を取る。

 

「ちょっと待ってまだ心の準備が——ッ!? ぎゃああああ!」

 

 私が気づいた時には、私達は上空500メートル以上はありそうな所へ転移していた。——そして、アリーゼは掴んでいた私とムートの体を光金竜の背中に向けて投げやがった!

 

 凄まじいスピードで降下する中で私は体をバタバタとする。そんな中、私の周りには冒険者達が出した大量の魔法陣が出現していた。

 

 出現した魔法陣から放たれる大量の魔法の中で、私はフィジカルブーストを唱え、魔法と魔法の間を避けながら、光金竜の背中に向けて斬撃をぶつけた。

 

 大量の魔法と砲撃、私とムートの斬撃が光金竜に放たれ、とてつもない爆風と爆音が鳴り響く。

 

 爆風に吹き飛ばされないよう私は光金竜の体にしがみつき、竜の巨体に剣を突き刺し、しがみ続ける。

 

 光金竜は甲高い咆哮をし、その巨大な体で暴れ始める。木々がなぎ倒される中、辺りの物が次々と黄金化していく。

 

「クッソ! ここから一体どうすれば良いんだよ!」

 

 私がそう嘆きながらしがみついていると、

 

「ミズシマ! アリーゼが来るまで持ちこたえろ!」

 

 とムートが言う。あのバカエルフは何やってんだよ本当に‼︎ ——ッ!?

 

 私が竜の体にしがみ続けていると、竜の力なのか自分の周りに黄金の人型の化け物達が出現し、襲いかかってくる。

 

 私は自分の身体能力と反射神経で、人型の化け物達の攻撃を避ける。

 

 クソッ! コイツらやけに素早い! 攻撃が避けづれぇ!

 

 なんとか安定して立てる場所に来た私は剣を構え、襲いかかってくる黄金の人間の攻撃を避けながら、相手に斬撃をぶつける。

 

 倒しても倒してもまたゾンビのように出てくる黄金の人間に、私は苦戦を強いられる。

 

 次々と四方八方から来る攻撃を受け流しながら、まずは10体いる黄金の人間のうち2人を瞬間的速さで斬り刻む。

 

 まずは2匹!

 

 カウントしていきながら私はまた1人倒す。しかし、黄金の人間達は剣を作りだし、私に向けて斬りかかってくる。

 

 チッ、こうも多人数になると、扱いが困る!

 

 竜の背中に力を込め、勢いよく踏み込みを入れる。私のスピードを認識できない黄金の人間の首を刈り取っていく。

 

 敵を一掃出来たと思った束の間、黄金の人間が再び出現する。一気に体力を消費したせいで息切れが凄い……倒しても倒しても復活するとかどうしようもねぇ……。

 

 息を切らしながら私は黄金の人間を倒し続ける。そして、竜の体に剣を突き刺し、その突き刺したことで生まれた傷を裂きながら突っ走る。

 

 しかし、突っ走る私の前に立ちはだかる大量の黄金の人間。絶望的な状況で諦めかけた時、空から再び大量の魔法陣が発生し、そこから魔法が大量に放たれる。

 

 雨のように降り注がれる魔法攻撃に、黄金の人間は次々と吹き飛ばされる。そんな絶好なチャンスを見逃さなかった私は直ぐに走り出し、光金竜の頭部まで突っ走る。

 

 そして、光金竜の頭まで来た私は剣で数百の連撃をぶつける。

 

 ※

 

 ムートとミズシマちゃんが良い感じに暴れているのを降下しながら見た私は、剣を抜く。

 

「少し本気を出そうか」

 

 私のスキル「神龍」その能力は森羅万象を司る力。このスキルの複数ある力のうち一つの力、それはこの世界を創世したと言われている神龍達の力を使えること。

 

「火神龍ガルゲイユ」

 

 私はそう神龍の名を呼び、全身に煮え滾る炎の鎧を纏う。そして、手に煌々と燃える炎の塊を生み出し、それを作り変え燃えたぎる剣へと変える。

 

 勢いよく降下する中で私は炎の剣を構える。

 

「龍閃!」

 

 魔法が光金竜に向けて打たれている上空で、疾風のごとく炎の刃を光金竜の頭部に向けてぶつける。

 

 振り下ろした斬撃は凄まじいほどの爆風と、巨大な炎の柱が立つくらいの威力をたたき出した。

 

 ※

 

 私はアリーゼの放った斬撃で木に吹き飛ばされた。飛ばされた方向に視線を送ると、辺りは炎により焼き尽くされていた。

 

 危なかったフィジカルブーストをかけてなかったら死んでた……。

 

 そして、そんな攻撃をもろに受けた光金竜の全身のうち約五割ほどがアリーゼの攻撃により消し飛んでいた。

 

 危うくあのバカ火力エルフに殺されるところだった……。

 

 頭から地面に刺さっていたムートを引っこ抜き、私は光金竜を討ち取ったアリーゼの元へ向かう。

 

 ——瞬間だった。

 

「ミズシマちゃん! その場からムートを連れて離れろ!」

 

「へ? ——ッ!?」

 

 アリーゼの言葉に戸惑った一瞬、突如、上空から巨大な口を持った蛇のような何かが、アリーゼと光金竜に向かって突っ込む。

 

 その蛇のような巨大な何かは、アリーゼを丸呑みにし、光金竜の死骸を貪り食っている。

 

「アリーゼ……クッ! ウオオォ!」

 

 身体強化をしたまま私は焼け野原となった大地を踏み鳴らし、勢いよく蛇のような何かの間合いに入ろうとした。

 

 ——が、私の前に刀を持った短めの銀髪の女が割って入る。しかも、私はその女の着ていた服に見覚えがあった。

 

「て、テメェは”七英雄”か!」

 

「そうか貴様がテアラ様の言う人間か……この先に行くのならば殺しはしないが半殺しにはしてやる」

 

 そう言って女は刀を構えた。この殺気と異常な魔力量……私を殺したあの七英雄より恐らく格段に上。

 

 私とその女が睨み合っていると、その女の隙を見つけたムートがアリーゼを助けに行く。

 

 ——しかし、ムートが助けに向かおうとした時、彼の体を大量の小さな触手のような物が食らいついたのだ。

 

「ムート! ——ッ!?」

 

 一瞬ムートに気を取られた瞬間、既にその女は私の元まで接近していた! そして、奴の閃光の一太刀が私目掛けて振り上げられる。

 

「チッ!」

 

 私は斬られる寸前に体を拗らせて受け身をとり、ダメージを最小限に抑えた。スピードも私よりそうとう上……勝てるビジョンが見えねぇ!

 

 私がこの状況に苦戦していた時だった。

 

「そのままその子を足止めしていてイザナギ、私はこの光金竜と勇者を食べちゃうから」

 

 と言って現れたのは、長い金髪、背中に悪魔のような羽、角を生やした女がいた。

 

 魔族か!

 

「させるか!」

 

 私は即座に足先をその女の方向へ向け、剣撃を仕掛ける! ——が、私の全速力にも対応して、七英雄の女は私の前に立ちはだかって攻撃を弾きやがる。

 

 そして、光金竜を食い終えた何かを見届けた魔族の女は右口角を上げ、

 

「そこの女」

 

「——ッ!」

 

 魔族の女は私を指さし、

 

「死ね」

 

 その瞬間、魔族の女が指していた指から黄金の塊が生まれると、それは槍に変形し速射される。

 

 槍が私の目と鼻の先まで接近する。

 

「——しまっ」

 

 私は片目を失うことを覚悟した。

 

 ——が、その寸前の所で、触手に襲われていたムートが私をギリギリで守ってくれた。

 

「ムート!」

 

「そう焦るな、慎重に行け」

 

 ムートはほんの少しだけ傷を受けた様子で言うと、私の前に立った。——そして、蛇のような何かに食われていたアリーゼは、蛇のような化け物の体を斬り刻み現れる。

 

「やはりあれだけじゃ死なないわね、世界最強の勇者さん」

 

「わざわざ自分から姿を現すとはね、七王勇、暴食王ビヒュルデ」

 

 コイツが七王勇!?

 

「まぁ私の目的はあくまで光金竜の黄金化の力が欲しかったから、もうここには用はないわ」

 

「逃がすと思うか?」

 

 この場から立ち去ろうとするビヒュルデに対しアリーゼが言うと、木の影から冒険者達が現れる。

 

「もうお前の逃げ場はないんだ。ここで死ぬといいビヒュルデ」

 

 アリーゼはそう言うと、炎の剣と黄金に輝く剣の二刀流を構える。そして、冒険者達も魔法陣と剣を構える。

 

「私が無策でここに来たと思って?」

 

「そうかなら——死ね」

 

 アリーゼは神速の如く速いスピードで、ビヒュルデに接近する。——が、アリーゼの刃がビヒュルテに当たる直前、上からさっきの蛇のような化け物が降ってきた。

 

 化け物を見たアリーゼは即座に離れ、蛇のような化け物はビヒュルデと七英雄の女を食べ、地中へ潜って行った。

 

「取り逃したか……深追いするのも良くない、ここは一度ベルセルク王国に戻って対策を考えるよ」

 

 アリーゼはそう言うと、纏っていた炎の鎧や剣を消滅させ、持っていた黄金の武器を鞘に仕舞った。

 

「ミズシマちゃん、ムート、このことを急いでベルセルク王に伝えるよ」

 

 アリーゼはそう言って、背中を見せて去っていった。

 

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