27話 七王勇の勝利

 光金竜を討伐した私達は、今回の一件を王国に戻り、ベルセルク王に伝えた。

 

「それで現れたのか七王勇が……その暴食王ビヒュルデとやらはどういう能力を持っている?」

 

「奴の能力「暴食」のスキルは万物全てを食べることができ、捕食したモノの能力や特性を自由自在に使える能力。それ相応の対策が必要かと」

 

「アリーゼよ、貴様はこの国にどれくらい滞在するつもりだ?」

 

 ベルセルク王の問いかけに、アリーゼはフッと鼻で笑うとこう言った。

 

「何を人を試すような真似をするのですか? 私はこの国の問題事が終わるまで居るつもりですよ」

 

 それを聞いた王は、予想外の返答だったのか高らかと笑った。

 

「そうかそうか! では俺達も貴様の答えに最大限に答えようではないか!」

 

 ベルセルク王に一件を言い伝えた私たちは、そのまま王との話を終え、宮殿を出た。

 

「アリーゼ、この後どうすんの? もう夕方だけど」

 

「うーん、ムートも今日疲れてるみたいだし、今日は適当にご飯でも食って宿で寝ますか!」

 

 アリーゼはそう言うと、地べたで眠っているムートの首根っこを掴み、宿へ向かっていった。

 

 ※

 

 国中が闇に包まれ静まり返った時、私は今日出会った七英雄が気がかりで上手く眠ることができなかった。

 

「……あの女の七英雄、私の手に負えないほど強かった……よし」

 

 このままじゃ負けられないと感じた私は、パジャマからいつもの服に着替え、真夜中の国に出た。

 

 そして、私は少しベルセルク王国から離れた森へ来ていた。そこで私は自分の剣術を落とさないよう素振りや、身体強化の訓練をし始める。

 

 何時間か過ぎた頃の事だった。息も絶え絶えで木に寄りかかって休憩していた時だった。

 

 ベルセルク王国の方からとてつもない爆発音が聞こえたのだ。なんだ?! と思い急いで剣を持ち、ベルセルク王国の方へ向かった。

 

 ※

 

 真夜中の中でベルセルク王国に戻ると、なんと街の所々が何者かの手によって燃えていたのだ。

 

 な、なんだこれ……。

 

「チッ」

 

 燃え盛る街の中でアリーゼを探しに行こうとした時だった。突然、私の手を誰かが掴む。

 

 ふと振り向くとそこに居たのは、宿で寝ているはずのアリーゼが居た。

 

「アリーゼ、これは一体……」

 

「多分いや確実に魔族が奇襲をしかけてきてる。ムートのやつは国の外でもう魔族と戦ってるよ。私は街の人たちを避難させるから、ミズシマちゃんはベルセルク王の元へ行って王を避難させて!」

 

「わ、分かった!」

 

 アリーゼと私はそう話し合い、分かれて行動することにし、彼女は街の人の避難活動をしに行った。一方の私は身体強化魔法を唱え、ベルセルク王の元へ向かう。

 

 轟々と燃える街の中を走っていると、街の中には魔族が侵入しており、国の騎士と戦っていた。

 

 そして、私が王国の宮殿に辿り着くと、すかさず中に入った——その時だった。

 

 突如として私の目の前に現れたのは、あの七英雄の女だった。

 

「まさか貴様がここに来るとは……私の予測では世界最強の勇者が来ると思っていたが……まぁいい、半殺しにする」

 

 女はそう言って刀を構えた。もうこの際、腹を括るしかない……。そう覚悟した私も鞘から剣を抜き、それを構えた。

 

 緊張した空気が続く。

 

 上から建物の瓦礫が落ちてきた瞬間、私は疾風の如くその女の間合いに入り、渾身の一太刀をぶつける!

 

 ——が、流石と言うべきか、女はその攻撃を即座に避け、私にカウンターを仕掛けてくる!

 

 私はそのカウンターを研ぎ澄まされた感覚の中で、紙一重で剣で受け止める。

 

 クソッ、この女何もかも私より上だ……。

 

 刃同士が交わる中、七英雄の女の驚異的な力に押される。

 

「フィジカル……ブースト!」

 

 ここで私は使っていなかった身体強化魔法を唱え、押されていた刃をギリギリのところで押し返した。

 

 押し返したことで伸びた相手との距離を即座に詰める!

 

 流石に私のスピードに対応しきれなかったのか、女は一秒にも満たない小さな隙を見せた。

 

 それをチャンスと受け取った私は、がら空きになっている脇腹に向かって刃を振る。

 

 ——が、女の鋼鉄のように硬い胴体に刃が弾かれた。

 

「は? ——ッ!」

 

 大きな隙を作ってしまった私の横っ腹に、女は強烈な回し蹴りを打ち込む。内蔵がグチャグチャになるくらいの痛みが襲う。

 

 受け身を取れなかった私は宮殿の壁に体をぶつける。

 

「——ガハッ」

 

 守りの体勢に入れなかったせいで、口から血を吐く。あまりの痛さに私はその場で蹲ってしまう。

 

「これでベルセルク王を殺せば、私の任務は達成される。死にたくなければ、邪魔はするなよ?」

 

 女は言って王室に繋がる階段を上っていく。

 

 クソクソクソ! また負けるのか? 私の今までの3年間は無駄だったのか? ……いいや違う! 私はリガドに会うために戦う!

 

「大地の恵よ……今すぐ……汝の傷を癒せ! ヒーリング!」

 

 攻撃された部位に治癒魔法を施し、剣を地面に突き刺し、立ち上がる。

 

 それを察知した女はこちらへ振り向く。

 

「まだ立ち上がるとは命知らずな人間ですね」

 

「こちとらアンタの仲間に1回殺されてるんでね、死ぬのはもぉ慣れっこよ!」

 

「ならば次は仮死状態にまで追い込んであげます」

 

 女は再び刀を構え、私もそれに応えるように剣を構えた。

 

 そして、一触即発の空気が続き、先に踏み出したのは、女の方だった。七英雄の女は見えないような速さで、私の間合いに侵入する。

 

 女が放つ閃光の一撃に私は瞬時に反応し、その攻撃を刃で受け止めた。ジリジリと刃同士が擦り合う音が鳴る。

 

「ウォォォォ!」

 

 そう叫び受け止めていた刃を弾き返す——次の瞬間、距離を少しだけ取った私は瞬間的速さで反撃に出る!

 

 すかさず女の距離を詰め、相手の首元目掛け渾身の一太刀をぶつける!

 

「——この行動も既に予測済みですよ」

 

「チッ!」

 

 女は私の攻撃に再びカウンターを入れてこようと、私の脇腹に刃を仕向ける。そして、相手の刃が私の脇腹を抉る。

 

「——ッ!?」

 

 が、その相手の攻撃が私の体を一刀両断することはなく、女の放った刃は私の内蔵を傷つけることすらできていなかった。

 

「こちとら死ぬ覚悟で来てんだ、そんな簡単に死んでたまるかよォ‼︎」

 

 私は思いっきり渾身の一太刀を女の首元へ放った。

 

「馬鹿な——」

 

 七英雄の女の首を私は刃で切り飛ばした。

 

 完全に仕留めたと感じていた……だがしかし、私が再び奴の方へ視線を送った時、女の姿は跡形もなく消えていた。——次の瞬間、突然私の背中から熱い刃に切り裂かれるような痛みが走る。

 

 私が咄嗟に後ろを振り向いた時、そこに居たのは、確かにこの手で首を跳ね飛ばしたはずの女がいた。

 

「貴様はただ自分の世界に入り込んでいただけだ。最初から貴様は私と戦ってなどいない。私のスキルの前じゃ貴様は私の手のひらの上で踊るしかできないのだから」

 

 朦朧となる視界の中で倒れゆく私の体。負けて……たまるかぁー! そう心の中で叫び、私は倒れそうになる体を踏ん張らせ、立った状態を維持する。

 

「——ッ!」

 

 それを見た女は何かを感じ取ったのか、即座に攻撃を入れてくる。

 

 あの時、生と死の瀬戸際で掴んだ感覚を呼び起こせ! 

 

 その瞬間、私の左目の様子があの時のようにおかしくなった。攻撃の残像のようなものが見えるのだ。

 

 これは! あの時と同じだ……あの時と同じなら避けれる!

 

 繰り出される相手の一太刀を華麗に避け、再び渾身の一撃を女にぶつける。

 

「——ッ!」

 

 女の体を裂くことは無かった……が、相手の体に深い衝撃波を当てることに成功した!

 

 機械の体をした女は、体に不調を起こしたのか、バタッと前に倒れ込む。

 

 やっとの思いで女を戦闘不能にした私は、彼女にトドメを刺そうと女の心臓目掛けて剣を刺す。

 

 ——が、刺す直前で私の両手両足が黄金になった。黄金化によって身動きが取れない中で現れたのは七王勇の魔族ビヒュルデだった。

 

「まさかこんな雑魚に一本取られるなんて、見損なったわイザナギ。まぁいいわ、そこの女、会うのは二度目ね? 少し眠ってなさい」

 

「チッ——」

 

 ※

 

 一般人を避難させ終えた私がベルセルク王の居る宮殿に入ると、その中にいたのは、黄金化されたミズシマちゃんがいた。

 

「ミズシマちゃん……すぐに助け出すから、だから待ってて」

 

 ※

 

「王よ、お逃げ下さい! 既にこの建物の中に七王勇が侵入してきています! 王室の前に近衛騎士団が居る間に!」

 

 俺が身構えていた時、焦った様子で側近のやつがそう言ってきた。

 

「国民が死ぬかもしれない状況で逃げるバカが何処にいる? 俺は戦うぞ」

 

 俺は部屋に置いていた剣を取り、鞘から刀身を抜く。

 

「貴様は逃げたければ逃げるが良い、俺が死んでも貴様を恨むことは無いからな」

 

 俺の言葉に側近は黙ってしまった。そして、側近も覚悟を決めた顔で言った。

 

「ベルセルク王よ、私は王と共に一生を共にするつもりです!」

 

「ふ、そうか。ならあの世でな」

 

「はい」

 

 俺と側近が話し終えた瞬間、王室の明かりが消え、部屋の扉がドンッという音ともに開かれた。

 

「あら逃げないのね? ベルセルク王。探す手間が省けて楽だわ」

 

 あの短時間で精鋭揃いの近衛騎士団を倒してきたか! フッ面白い! 俺は剣を大きく構える。

 

「活きのいい人間は美味しいのよね、ベルセルク王の心臓はどんな味がするのかしら!」

 

「俺に身体強化魔法を頼む」

 

「はい!」

 

 側近にそう頼み、俺は勢い良く地面を踏み、太ももから足先にかけて力を流し、踏み込みを入れる!

 

 そして、奴が放ってきた触手のようなものを切り捨てながら、相手の間合いに入り込む!

 

「グォォォォ!」

 

 俺がそう雄叫びを上げながら、剣を振りおろそうとした時、ビヒュルデは怪しげな薄ら笑いを浮かべる。

 

「——ヌゥ!?」

 

 次の瞬間、ビヒュルデは俺の振り下ろした渾身の一撃を素手で受け止めた。奴の手を見ると、ビヒュルデの手は黄金化していたのだ。

 

「貴様!」

 

「死になさい、ベルセルク王」

 

 奴はそう言うと、ビヒュルデが触れていた部分は次々と黄金化し、次の刹那、奴は俺の胸を突き刺していた。

 

「ゴフッ」

 

 ※

 

 私がベルセルク王の居る王室にまで辿り着くと、そこに居たのは、ベルセルク王とその側近の心臓を貪り食っているビヒュルデの姿があった。

 

「ベルセルク……王……」

 

「来るのが遅かったようね、あと数秒、間に合ってれば彼らは死なずに済んだのに」

 

「ビヒュルデ、貴様はなんでこうも人を簡単に殺せるんだ」

 

「その言葉、まるまる貴方にお返しするわ、どうしてあなた達人間は私達の仲間を簡単に殺せるの?」

 

 心の底にふつふつと煮え滾る怒りの感情が浮かんでくる。許さない、絶対にコイツだけは殺さなきゃダメだ。

 

「楽に死ねると思うなよ、ビヒュルテ」

 

「それはこっちのセリフ、死になさい」

 

 ビヒュルデはそう言うと、巨大な鱗を纏った蛇のような触手を出し、私に向かって襲わせる。

 

「光龍ファフニール」

 

 私がそう言うと、自分の周りに巨大な光が輝き、その光達は鎧のように私の体に纏い着く。そして、光で作りだした太陽のように光り輝く剣で、巨大な触手を叩き斬る。

 

「最高硬度の触手を簡単に切り伏せるとは、さすが世界最強の勇者ね! なら私も本気を出すわ」

 

 ビヒュルデはそう言うと、今まで取り込んできたであろう、生物を融合させた醜い姿へと変貌した。

 

 その瞬間、王国の宮殿いや国全体が一気に黄金化してしまう。そして、醜い姿へと変わったビヒュルデは、その巨体でドスドスと四足歩行をしながら巨大な触手を出してくる。

 

「ビヒュルデェェ!」

 

 怒髪天にまで上った怒りの感情。私はその感情のまま、勢い良く踏み込みを入れる。

 

 ビヒュルデの間合いに入りながら、向かってくる複数の触手を斬り捨てていく。

 

 そして、ビヒュルデの体を蹴り飛ばし、宮殿の外に押し出した。地面に落ちていく時でもビヒュルデは攻撃を仕掛けてくる。

 

 ——が、私はそれらを全て切り飛ばして、神速の速さでビヒュルデの元まで接近し、光り輝く刃で奴の体を切り刻む。

 

「これで終わりだ、鬩龍閃げきりゅうせん!」

 

 全ての感情を込めた一撃をビヒュルデにぶつけた。その瞬間、ビヒュルデの体は真っ二つになり、空中で爆発四散した。

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