21話 剣豪アマテラスVS魔法使いリガド

 私は目の前に立つ、自分自身と決別するための宿敵の前に立ち塞がった。

 

「この魔族達の戦いは俺の予測だと確実に負けるだろう」

 

「ではなぜ、冷酷で残忍な貴方が魔族の手に落ちたのですか?」

 

 私がそう問うと、アマテラスは和やかに少し笑い、

 

「何故だろうな、それは俺にも分からん。戦い足りなかったのか、それか貴様と戦う為か。逆に問うが、何故貴様はそこまでのスキルと魔法の力を持ってしても、人類、いや世界を滅ぼそうとしない? 宝の持ち腐れじゃないのか?」

 

「AI《あなた》達と私が分かり合えないのはそこです。なぜ殺す必要のない人類を殺そうと考えるのですか、確かにあの世界の人間彼らは地球にとって有害な存在だったかもしれない、だからAI《あなた》達は武力で人間を滅ぼそうとした。私達には言葉という方法があったのに。武力で世界を制する余裕があるなら言葉で解決した方が良かったのに」

 

「『言葉』か、言葉などでは解決できんことはこの世に幾千も存在する。だからAI《我々》は武力を取った、ただそれだけだ」

 

 アマテラスは剣を構える。

 

 私もそれに対し、杖を構える。

 

「残念です、貴方を殺す前に和解をしたかったのに」

 

「貴様が杖を構えた時点で、この世界の戦争は言葉だけでは解決できんと言っている」

 

 アマテラスは言うと、神速の速さで距離を詰めてくる。

 

「……そうかもしれませんね」

 

 私は防護魔法で迎え撃つ。

 

 カキンッ! という何かが弾かれる音が鳴る。それはアマテラスの斬撃が弾かれた音だった。

 

「なんだ? その強度のある防護魔法はッ」

 

 これがレベンディヒが遺した魔法の杖。魔法の構造が前にいた世界よりも最適化されていて、私の使う魔法全てが最大まで強化されている……。

 

 攻撃を弾かれたアマテラスはすぐに体勢を立て直す。そして、彼は距離を取り私の周りを走り出す。


 アマテラスは自身の攻撃が弾かれても尚、そのスピードを遅くすることはない。

 

 いや、遅くなるどころか、さっきよりも速くなっている……ならここはアマテラスの足止めをして動きを鈍くするか。

 

 そう考えた私は、すかさず全属性の最高位魔法をアマテラスが走る方向に撃つ。

 

 しかし、さすが七英雄の彼と言うべきか、私の撃つ魔法を悉く避ける。

 

 さすがにあれだけでやられる奴じゃないか……では。

 

 私は杖を上へ掲げ、完全無詠唱で百を超える魔法陣を出す。

 

「——ッ——面白い」

 

 アマテラスはこちらへ瞬足で私の距離を詰める。——と、同時に私もアマテラスに向けて百を超える魔法を放つ。

 

 とてつもない爆発音と爆風が吹く。

 

 ——その時だった、アマテラスは血を流しながらも、私の真上を取っていた。

 

 それを見た私はただ当たり前のように防護魔法を張る。

 

「もう俺の「理想」は叶っているぞ!」

 

「——ッ」

 

 アマテラスの剣の一振りが高密度のバリアを破り、私の胸を切り裂く。

 

 しかし、私はそんな攻撃に対しても、アマテラスを遠ざける為に魔法を撃つ。

 

 そして、奴は私の予測通り私から距離を取る。

 

「さっきの「理想」の代償は少しの傷を受ける、代わりに貴様に俺の一太刀を確実に当てるという「理想」だ。これを何回か続ければお前は——死ぬッ」

 

 奴が言った時、アマテラスは既に私との距離を詰め。

 

 私の目と鼻の先まで来ていた。

 

 だが、それは想定内だったので私は間髪を入れずに防護魔法を張る。

 

 凄まじい量の火花が衝突時に発生する。

 

「その防護魔法、便利な魔法だな! でも便利な物は直ぐに壊れる。この防護魔法もそう簡単に使えるもんじゃねぇだろ?」

 

 ぺちゃくちゃと喋るので、私はその間に自分の背後から魔法陣を出し、魔法を撃つ。

 

 放たれた魔法に対し、アマテラスはサッと私から離れ、その場で立ち止まり、私の魔法を弾く。

 

 確かにアマテラスの言う通り、この防護魔法は便利な物だが、それ相応に消費魔力が大きい……この魔法の杖である程度魔力の消費は抑えられているが、残り使える回数も限られて来たか。

 

「貴様あの時とは変わったな」

 

「……どういうことですか?」

 

「いやぁ? 俺とこの世界で初めて会った時、あんなにビクついて必死そうな顔をしていて肝が据わっていなかった。でも、今は充分過ぎるほどに肝が据わってる。——成長したと言ってやる」

 

 アマテラスは言って、剣を構え、先程より速いスピードで詰めてくる。

 

「それはありがとうございます。それもこれも貴方のお陰ですアマテラス」

 

 私はそう言いながら、魔力の消費量をあえて抑え、数十の魔法陣を出し、魔法を放つ。

 

 四方八方から来る攻撃をアマテラスは、魔法を弾きながら距離を依然と詰めてくる。

 

 ※

 

 リガドとの距離は十二分に詰めた。あとは、俺のスキルを使うだけ。

 

「理想現実」

 

 俺が持つ、たった一つの唯一使えるスキル「理想現実」俺の望んだ理想を叶えられる代わりにそれ相応の代償が付く、さっきのスキルの代償は代わりに攻撃を受けなきゃいけないこと、俺もリガドにああは言ったが、俺にも数は限られてくる、限界が来る前に勝つ。

 

「俺の理想は! 奴に数千の斬撃を食らわせることだ」

 

 その瞬間、俺の理想は確定した、確定された運命からは例えモナリザ様であってもねじ伏せることは出来ない。

 

 そう俺のスキルの予測を超えてくる事がない限り——ナッ!?

 

 一瞬、煙が俺の視界を奪う。

 

 すかさず俺はその煙を払った。

 

 煙がはらわれた事で鮮明になる視界の中で、リガドは俺の予想を遥かに超えていた。

 

 奴はなんと俺の仲間、七英雄のゼッドのスキル「避雷針」で雷を纏い、槍使いのヴェルゴのスキル「武創造」を使い、槍を創造していた。

 

 一度に2つのスキルを同時に?!

 

 その瞬間、奴が俺の予測を超えていた時点で、確定していた理想が却下された。

 

 ——次の瞬間、雷を全身と槍に纏わせた奴は、俺にも対応できない閃光の速さで槍を投げた。

 

 突風と共に空気を裂きながら、突っ込んでくる槍。

 

 それを直前で目視できた俺は、ギリギリで槍を剣で受け止める。

 

 しかし、雷の威力も乗ったその槍の威力は凄まじいモノ。

 

 俺はジリジリと剣を鳴らしながら、後方の森へ吹き飛んだ。

 

 そして、気づいた時には俺は、木によりかかって座っていた。

 

 ……これが……テアラ様の最高傑作か……モナリザ様でもできるか分からない技量を成し遂げる程の傑作物、奴はこの俺を超えてくるか。

 

 額から血をダラダラと流しながらも、俺は剣を地に刺し立ち上がる。

 

 その瞬間だった、冷静で冷酷だった自分の中の何かが、プツッと糸が切れた様にふっ切れた。

 

「クッ、アハハハハッ! 面白い! 俺は求めていたんだ、理想として掲げていたんだ! こんな面白い戦いができる奴と戦うことを!」

 

 強者と戦える快感、高揚感ッ! 俺を楽しませるのは強者との戦いッ!

 

「リガドォ! 認めてやろう! 貴様は確かにあの方の最高傑作だッ! 俺たち七英雄を上回るほどの実力と技量を兼ね備えた傑作品だ。だからその貴様を俺が直々に叩き壊してやる!」

 

 狂え狂え、戦い狂え、俺は元々こういう戦い方がしたかったんだ、こういうのを求めていたんだッ!

 

 俺は手で剣を回し、それを構える。

 

「フィジカルブーストォ!」

 

 ※

 

 誰も見た事ないであろうアマテラスの殺意にまみれた笑顔。彼はただ人間を殺していたんじゃない、強い者を求めて殺していた、だったら彼の最後の要望に”理想”に答えなければ。

 

 私は魔法の杖の先を彼に向けて、今自分が出しえる最高威力を持つ自作の魔法を創りだす。

 

 それを見たアマテラスは、瞬間的スピードで距離を詰める。

 

 そして、すかさず刃で私の首を狙う。

 

 私はそれを余裕を持って横に避ける。

 

 しかし、アマテラスは間髪を入れずに、剣を逆さに持ち、私に向けて薙ぎ払いを入れる。

 

「——ッ!」

 

 奴は自分の視線から一瞬で私が消えたと思っただろう。

 

 そう私は既にアマテラスの背後をとっていた。

 

 アマテラスは咄嗟に後ろに振り向き、攻撃を仕掛ける。

 

 ——が、そのコンマ1秒の差だった。

 

 私は今出せる限界出力の魔法を撃つ。

 

「ユニバース・ゼロ」

 

 私の放った魔法は、アマテラスの持っていた剣をも消滅させ、守りという手段を取らせないほどの威力だった。

 

 そして、魔法が撃ち終わった頃には、アマテラスの体には大きな風穴を開けられ、奴は大量の血を流し、立っていた。

 

「……最後は安心して、なんの苦しみも無く消してあげる」

 

 私がそう言って、魔法を撃とうとした時、

 

「いやそれは良い、俺を復活させた奴が死んだからな。……最後にモナリザ様にこう伝えてくれ」

 

「?」

 

「悪くなかった、てな」

 

「……分かった、彼女に会った時にはそう告げておくよ。でも彼女もいづれ貴方と同じ所に送る」


「……フッ、勝手にしろ」


 アマテラスは最後にそう言い残すと、立ったまま黒い塵となって消えていった。

 

 ※

 

 アウラ王国を襲った魔族達の戦いが終わり、私達勇者パーティは人間側の勝利の祝杯として、アウラ王国の宮殿で宴を行っていた。

 

「飲むぞ飲むぞー! 宴だァ!」

 

 戦闘に参加していた騎士たちやデレックさんはそう盛り上げながら、お酒や食べ物を食べていた。

 

「このエビは私のォー!」

 

 とヘレナさんは珍しく酒に酔った様子で、テーブルに置かれたエビをバクバクと爆食していた。

 

「こらこらヘレナ殿、そんなに食べたら私たちの分がなくなっ——こらー! ヘレナ殿! 私のカニハンバーグも食べましたねぇ!?」

 

「うふせぇ! レイクが早く食へないからだろ!」

 

 レイクさんとヘレナさんの喧嘩を遠くの方で見ていると、近くにいたフラームさんが私の隣に来る。

 

「にぎやかでいいですね、このイケメンな私が霞むくらいだ。宴はにぎやかな方が楽しめる」

 

「その通りですね、私もそう思います……ところでルーイッチさんはどこに?」

 

 私がそう聞くと、フラームさんは「あぁ……」とどこか言いづらそうな顔をして、ある方向へ指す。

 

 その方向にいたのは、お酒を飲んで頬をポッと赤らめて、いつもは無表情なルーイッチさんが、微笑んでいる姿があった。

 

「ルーイッチはお酒好きでね。いつもお酒の事になるとああいう顔になるんですよ」

 

 どこぞのアル中と似た様な感じだ。

 

「ねぇねぇ、リガド〜」

 

「ねぇねぇ、リガドちゃーん」

 

 そんなことを思っていると、左からは酒に酔ったデレックさん、右からは酒に酔ったアウラ王が来ていた。

 

 彼らは酒に溺れた様子で私に近づくと、私の胸をザワっと掴んできた。

 

 それにムカついた私は、2人の頭を掴み、野球ボールを投げるように、1人ずつ壁にぶん投げた。

 

 投げられた2人は物の見事に、頭から壁に突き刺さった。

 

「魔法使い、君も結構エグい事をするねぇ〜」

 

 フラームさんが少し私を恐れる様な目で言った。

 

「ああいうのは、ああしないと治らないので」

 

 その後は私も少量のお酒を飲み、並べられていた食べ物を取りながら、席に座り黙々と食べていた時、

 

「なぁ、最近ベルセルク王国で凄まじい剣術とフィジカルを持った女が勇者パーティにいる、て話があるぞ?」

 

「ベルセルクて、あの世界最強の勇者がいる国か?!」

 

「あぁ、でもその女は口がめちゃくちゃ悪いらしい」

 

「なんだソイツ、自我が強い女かよ」

 

 私はそんな2人の騎士の会話を黙って聞いていた。

 

 まさかね……。

 

 宴が終わり、私とレイクさんは泥酔して寝ているヘレナさんとデレックさんを引きづりながら宮殿を出て、宿の部屋に2人をぶち込んだ。

 

「あの2人、明日でこの国を出るっていうのに、あんなにお酒を飲んで……明日は出発できるでしょうか」

 

「アハハ……」

 

「それじゃ、私は寝ます。おやすみなさい」

 

「はい、おやすみなさい」

 

 レイクさんは私にお辞儀をして、去っていった。

 

「私も寝ますか……」

 

 ※

 

 次の日の早朝、私達は国を出る準備をし、宿を出た。

 

「ウエッ、やばいまだ昨日の酒が残ってる……」

 

「わ、私もぉ〜」

 

 2人は顔色を悪くしながら歩いていた。

 

「全く何でデレック殿の酒を止める役のヘレナ殿まで飲んでしまったんですか?」

 

「だ、だってぇ〜、疲れてたんだも〜ん」

 

「私のカニハンバーグも食べやがって」

 

 レイクさんは珍しく怒った様子で舌打ちをして、ヘレナさんを睨んで言った。

 

「そ、それじゃあ、行くぞぉ〜」

 

 デレックさんは弱々しい声で、口を押えて言う。

 

「デレック殿、そっち逆方向ですよ」

 

「ヴォエエエエ!」

 

 つくづく思うけど、このパーティで魔王は本当に倒せるのだろうか……。

 

 ※

 

 明るい日差しが閉じている瞼からも光が伝わってくる……。

 

「う、うん? ここは?」

 

 私が目を開けると、ここは地平線の向こうまで続く砂漠が広がっていた。

 

「……——海瀬ッ!?」

 

 辺りを見渡していると、私の傍には重傷を負って意識を失っている海瀬が居た。

 

 ここは一体どこなんだ?! リガドもいない……どうすれば——ッ!?

 

 何が何だか困惑していると、私の背後から何者かの気配を感じとった。そして、咄嗟に後ろを向くと、そこに居たのは綺麗な金髪の髪をし、長い耳を持った女が居た。

 

 彼女は何かを持っており、警戒しながらも心配した様子で、

 

「だ、大丈夫ですか? 怪我していますよね? 私の里で治療しましょうか?」

 

「あ、アンタ……誰?」

 

 

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