22話 エルフの里

 神龍が起こしたビックバンに相当する爆発に巻き込まれた水島と海瀬は、リガドがこの世界に来た同時刻に彼女達も砂漠が広がる場所に転移していた。

 

 そして、水島と重傷を負った海瀬の前に現れたのは、何かの葉っぱをカゴに入れ、それを両手で持っていたエルフの女だった。

 

 ※

 

「あ、アンタ……誰?」

 

 私は警戒しながらもその女に問いかけた。すると、その女は私にも分からない言語で淡々と喋っていた。

 

 何を言っているんだ……畜生、今こんなところで足止めを食らってる暇はないってのに!

 

 私は何かを話している女を置いて、重傷を負った海瀬を背負って去ろうとする。

 

「あ、あの!」

 

「——ッ!」

 

 と今度は私にでも分かるような言語で話しかけてきた。

 

「良かった、古代言語なら通じて……」

 

 とカタコトで喋る女。古代? 古代言語? なにそれ? いいや、そんなことを考えている暇は無い!

 

「ちょっと! 言葉が分かるなら、この男を治療してくれる場所を教えて!」

 

「……ちょ、ちょっと待ってください、まず魔法で、治、治療するので」

 

 女はそう言うと、私が背負っていた海瀬に歩み寄り、何かのおそらく治癒魔法を施している。

 

 これはヒールか? それより、この女の長い特徴的な耳と金髪はまさか……。

 

「こ、これで、お、応急処置は出来ました」

 

「あ、ありがとう……ひょっとしてアンタ……エルフ?」

 

「は、はい。エルフのグルックと、言います」

 

 エルフ……たしか私たちの世界では人間が絶滅に追いやってしまった種の筈……なんでその絶滅したエルフがここに?

 

「あ、あの、この人、すごい傷です。私達の里に来て、ください。治療します」

 

「え……お願い連れて行って」

 

 グルックは私に手招きしながら里という所へ案内する。私は訳も分からない状況下でも、海瀬の命を助ける為にエルフの後を追う。

 

 ※

 

 エルフのグルックに連れられ2時間ほどが過ぎた頃、気づけば辺りは森の中に入っていた。

 

 そして、私の目の前には木で取り囲まれた素朴な里が見えてきた。

 

「ここ、が、私達エルフの里です」

 

「ここが……速く医者の所へ案内して!」

 

「は、はい!」

 

 グルックにそう言って、村の中に入ると、やはり村にはエルフしかいなかった。絶滅したエルフがなんでこんなに……いやそんなことは今はあとだ、まずは海瀬を助けなきゃ。

 

「ある程度の治療はさせていただきましたが……彼は今昏睡状態になっています、目覚めるのは何時になるのか……」

 

 医者のエルフは木のベットで寝ている海瀬を見ながら言った。

 

「……そうですか。わかりました、治療してくれてありがとう」

 

「ところで貴方と彼は一体どこから来られたのですか?」

 

「へ?」

 

「いやね、最近我々エルフは人間社会にも溶け込むようになって、たまにこのエルフの里にも人間が来るんだけど、貴方と彼のような格好はしてないんです。それに古代言語を喋る人間なんてそうは居ないんです。あなた達何者ですか?」

 

 医者のエルフは鋭い目つきで言った。古代? まって、全く状況が分からない……そうだ国名を言えば分かるかもしれない。

 

 そう考えた私は私がいた世界にあった知識や、国名、AIがこの世界を支配していたこと、私が知る限りの全ての世界の情報を言った。

 

 しかし、彼らはそれを言っても、首を傾げるだけ……。

 

 何もかも諦めていた時、この村の長老と思えるような、長い髭を蓄えたエルフが部屋に入ってきた。

 

「ほっほっほ、古代の言語を喋る人間がいると聞いて来てしまったわい」

 

「長老! ちょうど良かった実は」

 

 医者は私が言っていた話を長老にした。すると、長老は少し驚いたような顔をした。

 

「この世界にはAIなどというモノは存在せん。だが、嬢ちゃんが言っていた国のようなものは1200年ほど前に存在していた形跡はある」

 

 1200年前?!

 

「ちょ、ちょっと待ってこの世界て何年前からあったの?」

 

「正確には分からんが、一般常識としては1250年前にあったと言われておる」

 

 1250年前……まさか、あの龍達が起こした爆発でタイムスリップしたってこと? あぁダメだ頭がバグりそうだ。

 

「そこの嬢ちゃん、その彼が目覚めるまで私たちの里にいなさい。住む場所もなさそうにも見える、宿は私たちで準備するから」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ※

 

 宿を管理する女のエルフに案内された宿の一室に入った私は、置かれたベットに座ると、何故か一気に疲れが来たのか、ベットに倒れた。

 

 リガド……あなたに会いたい……本当のあなたに。

 

 そう考えながら私は目をそっと閉じた。

 

 ※

 

 崩壊した王国からリガドを背負って帰っていた時、突然、私の脳裏に聞き馴染みのある声が聞こえた。

 

『咲、リガド大変だ、直ちに戻ってきてくれ! 今AI軍が攻めてきてい——』

 

 そうその声は海瀬の声だった。どういうことだ!? AIが攻めて!? 速く行かないと——ッ!?

 

 急いで私の車が置いてある場所に向かおうとした時、私の肩を気を失っていたはずのリガドが思いっきり握る。

 

「リガド!?」

 

「み、水島さ、様」

 

「さ、様!? アンタ誰?! リガドじゃないでしょ!?」


 

「はい、私はリガド様に搭載されたAIです。私の詳しい話をしている暇はありません。ただちに海瀬様のいる場所へ転移魔法で転移します!」

 

 リガドはそう言うと、転移魔法を無詠唱で唱える。

 

「ちょっ! 待っ——」

 

 ※

 

「う、うん? ……寝てたのか」

 

 私が再び目を開け、部屋の窓から外の景色を見ると、外は真っ暗の闇で染まっていて、それを街灯が照らしている光景があった。

 

 頭がズキズキするなぁ、疲れがまだ取れてないのか?

 

 頭を片手で抑えながら、私は今度はベットの上に座った。

 

「……まずは、この世界の言語から学ぶ必要があるな——の前にまずは頭を冷やすために寝よッ」

 

 ※

 

 鳥のさえずりが聞こえる朝、私はそれで目を覚ます。

 

 その日は私はまず海瀬のところに行き、容態の確認をし、その次にここの里の人に言語を学べる本がないか聞き、図書館のような場所を案内される。そこでこの世界についてのことや、ありとあらゆるの言語を学びながら、リガドの行方を追うことにした。

 

 それらを並行しながら肉体強化も行っていく。

 

 そして、本を読んで分かったことが沢山ある……どうやらこの世界は、私がいた世界とは違う世界のようで、エルフや魔物、魔族、そして魔王といった前の世界じゃ絶滅した筈のモノが存在するらしい、あと私が前いた世界と魔法の仕組みや種類は一緒のこと。

 

 当然魔王もいるって言うことは、絵物語に登場する勇者も存在すること……しかし、AIといった高度な文明はこの世界には存在しないこと。

 

 AIが存在しない世界、私達レジスタンスの望みが違う意味で叶ったのか……。私はAIが存在しないことを知り、思わず歯を食いしばり、拳を強く握る。

 

 レジスタンスの皆はAIだけがいない世界を目指し死んでいった、なのに生き残ったのは私とリガド、海瀬だけ……。

 

 本や里の人にもリガドの行方を調べたが、リガドに関する情報は無い……。

 

 私は心の底に揺れる何かを抑え、ゆっくりと深呼吸をする。

 

「さて今日は訓練をして終わるか」

 

 外が夕暮れになってきた時、私は里の外へ出て、訓練する。当然襲ってくるのは、見たことの無い異形な魔物達。

 

 私はそんな魔物たちに対し、できるだけ身体強化の魔法を使わず、自分のフィジカルだけで戦った。

 

 まだだ、まだ上へ行ける、成長した自分をリガドに見せつけるために!

 

 私は雄叫びを上げながら、多少の攻撃を受けながらも、魔物達を討伐していく。

 

 討伐した魔物の肉、洞窟の鉱石などは里へ泊まらせてもらう為の恩として毎回村人達に渡す。

 

 海瀬の容態を見に行き、リガドの行方を調べ、あらゆる言語を学ぶ、そして、身体強化という名目での魔物の討伐と魔力を伸ばす訓練。こんな日々を夏、秋、冬、春と季節を何回も跨ぎ、気がつけば3年の月日が経過していた。

 

 ある日、宿の一室で武器の手入れをしていると、唯一ずっと使ってきた剣に大量の刃こぼれがあることに気づいた。

 

「……この剣もボロボロになってきたな」

 

 その剣を見て思わず私は、お母さんとこの剣の記憶を思い出す。

 

 病気に侵される前のお母さんから貰った大切な剣、私が幼い時から持っていた剣、私がその剣を小振りに振る度に褒めてくれたっけな……。

 

 私は今日もその剣を持ち、海瀬の容態を確認し終えると、勉強をし、森の中で魔物を狩りながら身体強化を図る。

 

 そんなことをしていれば、時間はあっという間に過ぎ、気づけば外は夕暮れになっていた。

 

 魔物の肉や鉱石を持って里に戻ろうとした時、私の背後に何者かの気配が忍び寄る。瞬時にそれを気取った私は、背後に目線を送った。

 

 すると、その真後ろにいたのは、どう見ても今まで会敵した奴よりも圧倒的な魔力とオーラを放っていた。

 

 ソイツは頭に2本の角を生やし、人型の体つきをしていたが、顔は人間とは思えない顔をしていた。

 

「お前は人間だな? 死にたくないのならば、ここから立ち去ることを勧める」

 

「もしかしてアンタ、魔族だな? なんでそんなことを言う?」

 

「私は魔王様直属配下の上級魔族のクデューレだ。私はある命令を受けてここに来た、ので人間よ逃げることを勧める、もし逃げないのならば、殺す」

 

「へぇ、じゃあ逃げなーい! テメェまさかこの森の先にあるエルフの里に行こうとしてんな? 隠れてても分かるぜ? 他にもいんのは分かってるぜ? 魔族さんよぉ〜」

 

 私がそう言うと、木の陰から3人の魔族が出てくる。

 

「我らの邪魔をするなら」

 

「死ぬといい」

 

 奴らはそう言うと、私に向けて魔法陣を出し、殺しにかかる。

 

 馬鹿が。

 

 私は背中にしまっていた鞘から剣を抜く。

 

 私がこの3年間何をしてきたと思ってる?

 

「テメェらには、魔法なんて使わずとも勝ってやるよ」

 

 そう言って、私は久しぶりの戦いにワクワクしながら、臨戦態勢に入る。

 

 それを見た魔族達は、私の周りに数十の魔法陣を出す。

 

 奴らが魔法を放とうとした瞬間、私は地面をひっくり返す程の力を入れ、魔族達の間合いに入る。

 

 奴らは私のスピードが認識できなかったのか、魔法を的確に撃てずに、乱射するだけ。

 

 私はそんな隙だらけの1人の魔族の背後に立ち、剣で首を飛ばす。

 

 魔族達は仲間の1人が容易く殺られたことで動揺する。

 

「どうした? 4対1でお前たちが負けるなんてことはねぇよなぁ?」

 

「調子に乗るなァ!」

 

 また1人の魔族が私に向けて魔法を放つ。私はその魔法を体を反りながら余裕で避ける。——と同時に私は直ぐに体勢を立て直し、瞬間的スピードでもう2人の首を飛ばす。

 

「あとはてめぇだな? クデュなんとか」

 

「下劣な人間如きが私に勝てるわ——」

 

 ごちゃごちゃ焦りながら御託を並べる奴の元へ、音もなく瞬時に移動する。

 

 そして、

 

「黙って死んでろよ、下劣な魔族さんよぉ」

 

 言って、私はクデューレの首をね飛ばす。

 

 4人組の魔族を地獄へ葬った私が里に戻ろうとした時、里のある方向が赤く燃えていた。

 

 私はその意味を瞬間的に理解した。

 

 ※

 

 急いで森から飛び出て里に行くと、里の周りが炎で燃えており、里の中からは悲鳴が聞こえてくる。

 

 それを聞いた私の心の底から、怒りと憎しみが入り交じったような感情が揺れる。直ぐに私は剣を出し、里の中に入る。

 

 里の入口の方に目を向けると、そこには6人の魔族達がエルフ達の里を襲っており、私の視界映るのは数人のエルフの亡骸。

 

 それを見た私は剣を構える。深呼吸をする。そして、私は地面に凄まじい程の力を加え、閃光の速さで魔族達の間合いに入った。

 

「このクソカス野郎共がァァ‼︎」

 

「なんだこの人間は!?」

 

 魔族達は戸惑いの顔を見せながらも、私に攻撃を仕掛けようとする。

 

 ——が、私は相手が攻撃する直前で、3人の魔族の首を斬り飛ばす。

 

 まずは3匹!

 

 私は倒した敵をカウントしながら、足先を魔族がいる方向に向け、再びスタートを切った。

 

 ——瞬間だった。

 

 突如として、建物を吹き飛ばしかねんほどの豪風が吹いた。それと同時に生き残っていた魔族達の体が何者かの手によって、無惨に切り刻まれていた。

 

「え?」

 

 残っていた魔族達が死んだ事に困惑した私が、風が向かっていった場所に目線を向けると、そこに居たのは、黄金と黒く煌めく鎧と甲冑を身にまとった騎士のようなデカブツがいた。

 

「うーん、やっぱり鎧は重いなぁ〜、身軽に動けないし、あと痛みが感じにくいな〜」

 

「あ、アンタ……何者?」

 

「あ、私? 私は巷で世界最強の勇者、て言われてるただの一般人でーす!」

 

 

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