19話 剣豪アマテラス
デレックさんの処刑台に舞い降りた私に、槍や剣を向ける王国の騎士たち。そして、アウラ王の隣には、何食わぬ顔で平然な様子でいるフラームさんが立っていた。
「り、リガドちゃん! まさか、この無礼者を救おうとするのではあるまいな?」
「リガド……」
「デレックさん、安心してください、必ず助けますから」
私はデレックさんにそう言うと、天へ手を掲げ、ある魔法を唱える。
「サモンズモンスター、光龍ファフニール」
そう唱えた時、雲ひとつなかった空に暗雲がたちこむ。そして、空には巨大な召喚陣が発生する。
その召喚陣から召喚される、創世神の1体、光龍ファフニール。
「な、なんじゃあれは?!」
この世界では創世記や神話にしか出てこないであろう、神々しく輝く創世龍の姿に、アウラ王国の民は混乱する。
「り、リガドちゃん、ま、まさか、このアウラ王国と戦争するつもりか!?」
「リガド、君は一体何者なんだ……」
動揺を隠しきれない様子のアウラ王、一方でただ冷静な様子で私を見つめるデレックさん。
「アウラ王、これは宣戦布告ではありません。私の目的は勇者デレックさんの開放と、アウラ王を本当に襲ったのは誰かを言いに来ただけです。もし、私やデレックさん達に攻撃するような真似をするのなら、私は問答無用でこの国を消し去ります」
私は鋭い目付きで言うと、アウラ王は私の気迫に負けたのか、私に刃を向けていた騎士に剣や槍を下げるよう命令した。
「……それで私を襲おうとしたのが、デレック・ゾディアックじゃないのなら、一体誰が私を襲ったのだ?」
「お話を聞いて下さりありがとうございます。これを見ていただければ分かると思います」
私は懐から真実の水晶を取りだし、それを光龍の放つ光に当て、光を反射させ、その反射させた光を壁に向ける。
そして、そこに映し出されるのは、魔王直属配下のヴットがデレックに化け、アウラ王を襲う瞬間の映像だった。
「見てもらえればわかると思いますが、これはデレックさんがアウラ王を襲ったという事実を作りたかった魔族側の行動です」
「な、なんとそういう事だったのか……ではその魔族は今どこに」
「今フラームさんは王国の外にいて、魔王の手先と戦っています」
「何ッ? でもフラームは私の隣に——ッ!?」
アウラ王がそう言って、ゆっくりとフラームさんと思われる人間に視線を送った時——フラームさんはニヤリと笑い、素早く剣を抜き、アウラ王に剣を振り下ろす。
——が、その刃がアウラ王に届く時、フラームの居る地面から無数の岩が飛び出し、フラームさんと思われる人物を拘束する。
「アウラ王を殺させるような真似は私の前なら出来ませんよ」
「レイクさん!」
宮殿の陰に身を潜めていたレイクさんは、物の見事にヴットを拘束してみせた。
「すみません、少しだけ寝てました」
「まさかあの黒竜を倒し、ヴェルゼ・ナーヴァ様を避けてここまで来たとは……面白い、デレック・ゾディアックを殺せなかったのは痛手だが、今晩は祭りになるぞ」
変身が解けて現れたのは、私の予想通りのヴットだった。そして、奴は最後に意味ありげな事を言い残し、転移魔法で去ろうとする。
それを見たレイクさんは、錬金術でヴットにトドメを刺そうとする。が、ヴットの転移魔法が早かったのか、ヴットを取り逃してしまった。
「すみません、リガド殿、逃げられてしまいました」
「いやこれでいいんです。ここはフラームさんの言う『あえて相手の計画に乗ってやる』をするんです」
それを聞いたレイクさんは納得した様な顔をして、
「そっちの方が良いかもしれませんね」
「アウラ王、デレックさんを開放しても大丈夫ですよね?」
私がそう聞くと、アウラ王はビクつきながら、
「開放はしていいから、早くあの化け物を仕舞ってくれないか?!」
アウラ王は空に鎮座するファフニールを指さし言った。
※
「おーい! リガドォ! デレック! レイク!」
アウラ王襲撃騒動が終わり、デレックさんは疑いが晴れ、処刑台から解放された時、王国の外門からヘレナさんの声が聞こえた。
私はその声の方へ咄嗟に振り向く。そこにいたのは、ヴェルゼ・ナーヴァと対峙していたフラームさん達がいた。
「ヘレナさん! 無事だったんですね!」
私がそう言って彼女に駆け寄り思わず抱きしめると、ヘレナさんは自信満々な表情で、
「あたぼうよ! でもヴェルゼなんちゃら逃げられちゃったけどね」
「私はヘレナさん達が無事で帰ってこられただけで嬉しいんです、本当に良かった」
私達が喜びに浸っていると、アウラ王国の騎士を連れたある男が私達の前に現れる。そして、騎士たちとその男はデレックさんの前で片膝を地面に付け、
「デレック・ゾディアック殿、まずこれまでの我々の無礼な行為をお許しください」
と彼に謝罪した。そんな彼らの謝罪にデレックさんは、
「……別に謝罪はいらないよ、間違いは誰にでもある。しかもアレは完成度の高い擬態だったから、僕と勘違いするのも仕方ないことだ。気にする事はない」
と優しく彼らに語りかけた。
「これまでの無礼誠に申し訳ありませんでした。あと話は変わりますが、勇者デレック殿とその御一行様、勇者フラーム殿とその一行様、今晩襲ってくるであう魔族の攻撃に、協力してもらえないでしょうか?」
「別に良いですよ、何でも協力します。フラームもそうだよな?」
デレックさんはフラームさんに鋭い視線を送る。
「はぁ、まぁ良いでしょう。このイケメンの! 私が! アウラ王国を助けましょう!」
「ありがとうございます」
そして、アウラ王国を襲撃してくるであろう魔族達に備え、私達勇者パーティとフラームさん達は宮殿の中で作戦会議をすることになった。
私はアウラ王国の宮殿に向かっている途中で、デレックさんにあることを聞いた。
「デレックさんはいつ頃にフラームさんと出会ったのですか? フラームさんと会った時に言った『あの時』とは?」
「面白いこと聞くね……そうだな、フラームと出会ったのは僕達が冒険者だった頃かな。僕達が魔物の群れと対峙していた時、たまたま勇者になったばかりのフラームと出くわしてね。そこでどっちが強いかで競うことになって、お互い同点で終わったんだ。ま、これがフラームとの出会いで、『あの時』はそういう意味さ」
「なんかフラームさんとデレックさんらしい出会い方ですね……」
「そうかい? 僕的には普通の出会い方だけどな」
そんな会話をしながら、私達勇者パーティは宮殿の中の会議部屋に入った。
※
会議部屋に入ると、そこには、既にフラームさんとルーイッチさんが居て、他にもこの国の近衛騎士の人達と思える者もいた。
「勇者デレック様御一行も集まった事だ。今晩来る魔族の襲撃に備えて、作戦を練るぞ」
近衛騎士の1人が言うと、机にアウラ王国周辺の地図を広げた。
「魔族の襲撃だ、おそらく魔物かアンデッドを総出で来ると見た、国の周辺を騎士と勇者様たちのパーティで固めるのが無難だろう。何か勇者様達から意見はありますか?」
「いやその案は悪くないと思うぞ。だが、我々は今日の昼頃、七王勇の賢王ヴェルゼ・ナーヴァと名乗る魔族と対峙した。もしやつが来るとなるのなら、精霊術士を千人とデレック・ゾディアックのパーティーにいる精霊術士がいるだろう」
フラームさんが目付きを鋭くさせ言った。すると、周りにいた近衛騎士達は動揺していた。
「デレックさん、七王勇とは何なのですか?」
彼にそう聞くと、デレックさんは難しい顔をして、
「七王勇はな、本当の魔王直属配下の奴らだ。今まで魔王直属配下とか名乗ってた魔物や魔族はその真似事に過ぎない。そして、その七王勇達の情報は世界の記録にもほとんど載ってない。賢王ヴェルゼ・ナーヴァ、もし奴が来るとしたら、僕が本気で戦わないとしんどいな」
「デレックさんが本気を出さなきゃいけない相手……私も奴を見た時手強いと感じました」
「手強いてだけで表現できる程の敵じゃない、奴らは人智を超えた能力を持っているほどの強敵だ。それに……僕の居た村は1人の七王勇の手によって滅ぼされた。憎き相手達だ」
そう言う彼のその目には、憎しみという信念の混じった目をしていた
「……そうですか、では絶対に倒さなきゃいけない敵ですね」
「ああ」
そんな会話していると、会議の指揮を執っていた近衛騎士の1人が作戦を告げる。
「では今晩来る魔族の軍勢には、我々近衛騎士団と勇者様達で王国の周辺を取り囲み防衛する事にする。そして、もし賢王ヴェル・ナーヴァが来た時の対策として、精霊術士ヘレナ様とその他の千の精霊術士を用意して対抗する、これでいいですね?」
その作戦に私達は首を縦に振った。
※
作戦会議が終わり、私達が宮殿を出る頃には外は既に夕暮れになっていた。
「なぁリガド、君に少しばかりのお礼をさせてくれないか?」
「お礼ですか?」
「ああ、君には助けられてばかりだからな」
「えぇ!? リガドだけズルい! 私も超超助けたよ?! なんなら賢王ヴェルゼなんちゃら追い払ったの私だよ?!」
「それもそうだな、僕が悪かった。みんなに何か買ってあげるよ」
とデレックさんは優しく笑うと、ヘレナさんにお高そうなアクセサリーを、レイクさんにはあまり売られていなかった女の子の模型を買ってあげていた。
「あとはリガド、何が欲しい?」
彼は優しくそう問いかけてきた。
「そうですね……私、魔法使いなのに魔法使いらしい格好してないですよね……そうだ魔法の杖を買ってください」
「分かった、じゃあ武器屋にでも行こうか」
※
「いらっしゃい——お! 勇者様じゃないか! どうしたんだ? 何か欲しいものがあるのか?」
「ちょっと僕の仲間に魔法の杖を買ってあげたくてな。何が良いのはないか?」
「それなら良いのが入ってるぜ!」
店の店主は言って、私達の前に黄金に輝き蝶の紋様と青い結晶が埋め込まれた、神秘的な魔法の杖を出す。
「なんだこの魔法の杖は?」
「これはな、かの有名な大魔術師が残した魔法の杖。店に入れるのに2年もかかった代物さ、金貨500枚でどうだ?」
「——高すぎる! 却下だ‼︎」
「えぇ〜、うちじゃこれ以上の魔法の杖は無いぞ?」
「もうちょっと安くて凄いモノを頼む(キリッ)!」
デレックさんが無茶を言うと、店の店主は難しい顔をしながらも、少し嫌そうな顔をし「ちょっとこい」と言って私達を店の奥に案内する。
武器や防具が並べられた廊下を歩いていると、店の店主は本当に嫌そうな顔をして、古く錆びた大きめの扉を開く。
店主が開いた扉の奥からは、歪なオーラと異常な殺気と冷たい空気が流れていた。
そして、店主がその部屋に明かりを灯した時、私達の前に現れたのは、黒く煌めく結晶が埋め込まれ、禍々しい異形な形の魔法の杖がそこにはあった。
「この魔法の杖はなんだ?」
デレックさんが嫌悪感を模様した顔で言うと、店主は顔色を悪くしながらもこう言った。
「この魔法の杖は、かつてこの世界の全てを闇に染めようとし、あの禁忌魔法を見つけた伝説の闇の魔法使い、レベンディヒの使っていた杖だ」
「——それは本当か? レベンディヒは神話の中の架空の存在じゃないのか?」
デレックさんが言うと、店主は言葉を続けた、
「俺も最初はそう思ったさ……でもこの杖をたまたま仕入れた時、このオーラを真に受けて確信したんだレベンディヒは本当に実在したんだと……それにな、これを見せたのは勇者様達が初めてじゃないんだ。過去に2回、この魔法の杖を買おうとした奴が来てな、1人は魔法をこの杖を使って発動させようとした時、失敗して爆死、もう1人はこの魔法の杖だけを残して消息を絶った。そんな忌み子的な魔法の杖なんだよ」
「うげぇ〜、超超危険な魔法の杖じゃん」
「リガド殿、どうするのですか? この魔法の杖……使いたいですか?」
レイクさんはビクビクと身体を震わせながら言う。
「ちなみにこの魔法の杖を持ってってくれるなら金は取らねぇぜ、ここに置くのも嫌なくらいだからな」
「どうする? リガド。貰うか?」
デレックさんは私を心配する様子で問う。
「……貰います、こんな素晴らしい物が無料で貰えるのなら尚更」
「それじゃこの魔法の杖貰います」
※
かつてこの世界を闇に染めようとしたレベンディヒか……どんな人なのだろうか。
「ね、ねぇリガド〜、その魔法の杖できるだけ私に近づけないでね〜? 超怖いからさ〜」
「あ、私もお願いしますリガド殿」
と2人は気味悪そうに、私からサササッと少し距離を置いて言った。それを見ていたデレックさんは優しく微笑むと、
「3人とも今晩の戦いに向けて準備をするぞ」
※
夕暮れだった空は闇へと染まり、アウラ王国の周辺には人間共が取り囲み、完全な防衛体制へと入っている。
落とすのは簡単ね。
「ヴット、デレックを殺せなかった分、アンタにはちゃんと働いてもらうからね?」
「そんなこと分かっているブーゼ、貴様こそ失敗するなよ」
「失敗? 失敗なんてする訳ないじゃない、こっちには3万の軍勢とあのオモチャもある。勝利は私達にあるわ。さぁ! 始めましょう! 地獄絵図を人間達に見せしめるのよ!」
私がそう言うと、3万の軍勢は一斉に動きだす。
「さ、バカ共はこれをどう凌ぐのかしら?」
※
「き、来たぞ! あれはアンデッドか!? 行くぞォォォ!」
騎士達と敵の軍勢が衝突した時、私は感じた覚えのある不規則に流れる魔力の流れを感じとった。
「……」
まさか……デレックさんが葬った奴が生きているなんて……。
私は直ぐに転移魔法で奴がいるであろう場所まで転移する。
※
「来たか……あの時怖気付いて動けなかった、貴様がまさか俺を殺しにくるとはな」
「過去の自分と決裂するためにあなたを殺しに来ました。アマテラス、貴方を殺します」
私はアンデッド化したアマテラスの前に舞い降りながら言った。
「いっちょまえに魔法使いらしくなったな、リガド」
「今度こそあなたを私が弔ってあげます」
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