18話 魔王直属配下、七王勇<賢王>ヴェルゼ・ナーヴァ

 真実の洞窟の主である黒竜を倒した私たちは、これからどうするかを話し合っていた。

 

「あ、あのぉー、私達が通ってきた道がヴットとかいう魔族に塞がれて超出れないんですけどぉ、これどうすんの?」

 

「それは安心してください、私の転移魔法があれば何とかなります」

 

「——えッ! リガド転移魔法使えんの!? 超うらやまなんですけど!」

 

「はいまぁ一応、そんな事より、早く真実の洞窟にある水晶を取って早く王国に戻りましょう」

 

 早速私たちは真実の洞窟の最奥部に向かい、最奥に入った。すると、私はその最奥の光景に魅入ってしまった。

 

 キラキラと煌びやかな水晶の輝き。まるで夜空に輝く星のように煌めいていた。

 

「フラームさん、これが……」

 

「あぁ、これが真実の洞窟の最奥に眠る、真実の水晶だ。この水晶を持っていけば、デレック・ゾディアックの疑いは晴れる」

 

 ※

 

「出ろ、勇者デレック・ゾディアック」

 

 と言ってアウラ王国の騎士が、僕を牢屋から出す。

 

 ようやく疑いが晴れたか……なんとか尋問だけで済んだけど、辛かったぁー、だって僕の秘めたる右目デウスのことを話しても、ゴミを見るような目でしか見てこないし……本当に辛かったけど、ようやく解放される! いやぁ、何だかんだで短かった! リガド達に迷惑かけた事を謝らないとな。

 

 何故か手に手錠を繋がれた状態で、外に繋がる階段を上る。あれ? これって釈放であってるよな? 

 

 そして、外へと続く階段を上った時だった。

 

「へ?」

 

 僕の目の前に広がる光景。それは何故か多くの人々が観衆として集められ、その観衆達はある方向を見てザワついている。僕がその方向に視線を向けると、そこにあったのはギロチンだった。

 

「あ、あのぉー、も、もしかして僕ホントに処刑される感じ?」

 

 僕が隣にいた騎士にそう聞くと、その騎士はこくりと首を縦に振った。

 

「これより、勇者デレック・ゾディアックの処刑を行う。処刑人は前へ」

 

 ウソォォン。

 

 ※

 

 目的の水晶を取り、転移魔法で外に出た時には、外は既に明るくなっており、太陽は私達の真上まで来ていた。

 

「時間がありませんね、早く行かなくては」

 

「また転移魔法で移動すれば超楽なんじゃないの?」

 

「いえ、転移魔法は消費魔力が凄まじいので、そう連発できないのです」

 

「それなら一刻も早く王国に行かなくてはな」

 

 フラームさんがそう言って、いざ私達が歩みを進めようとした時だった。

 

「行かせるわけがなかろう、下劣な人間共」

 

「「「「——ッ!?」」」」

 

 何だこの魔力量!? 尋常じゃない!

 

 突然、私達の前に舞い降りたのは、アマテラス以上の冷徹な異常な殺意を纏い、そして、その冷酷で残忍な赤黒い目は私達を見下すような目をしていた。

 

 突如として訪れた緊迫した場面で現れた特徴的なフードを纏った謎の男に、私は体中を震え上がらせてしまう。

 

 まただ、また私の体が言う事を聞かない……動けッ! 動いてくださ——ッ。

 

 私がボーッと怯えながら立っていた——その時、いつの間にか私の前にフラームさんが立っていて、彼は見えない何かの攻撃を剣で受け止めていた。

 

「何をボーッとしている! 私がいなかったら死んでいたぞ‼︎」

 

 いつも冷静でおちゃらけているフラームさんの顔に、汗が流れている。

 

「我の見えざる斬撃を受け止めるとは。相当な手練と見た」

 

「貴様のその風格とその姿……貴様、魔王直属配下、七王勇しちおうゆうの一人だな?」


「確かに我は七王勇の一人、賢王ヴェルぜ・ナーヴァ。だとしたらなんなのだ? 貴様は我を殺そうとするのか?」

 

 ジリジリと剣の刀身がすり減らしながら散る火花。

 

「魔法使い! 水晶は持っているな?! 使い方も教えた通りにしろ! あとは私達を置いて早く王国へ帰還しろ!」

 

「……ッ!?」

 

「何をしている!? 早く行けと言っている!」

 

 どうしてッ!? 足が全く言う事を聞かない……お願いします! 言うことを聞いてください!

 

 動かない足を必死に動かそうとしていると、ヘレナさんが優しい笑みで私の背中を優しく擦る。

 

「怖くないのですか?」

 

「怖いよ? でも大切な仲間の為だから、怖気付いてて大切なモノまで失うのはイヤでしょ? ほら行って、リガドならできる!」

 

「——はいっ!」

 

 ヘレナさんは優しく言って、私の背中をポンと押してくれた。

 

 彼女もこの場にいるフラームさん達もきっと怖いのだろう……でも彼らは戦おうとしている、私が怖気付いてて良いわけが無い! 

 

 そう思った時、固まって言うことが聞かなかった足が動くようになった。

 

 フィジカル・ブースト!

 

「もうすぐであの国は終わる。その国を救おうとするのならば逃がすわけが無かろう」

 

 ヴェルゼ・ナーヴァは言うと、私に向けて攻撃か何かを仕掛けてくる。——しかし、フラームさんがそれを弾き返す!

 

「おかしい、何故我の見えざる斬撃を防げる?」

 

「勘だ……デレック・ゾディアックを頼んだぞ魔法使い」

 

「はい!」

 

 フラームさんは私に向かってくる斬撃から守ってくれながら言った。そんな絶好のチャンスの中で、私は急いで王国に向かった。

 

 ※

 

 一人逃してしまった……まぁいいこの人間共をすぐに殺せばあの小娘はすぐに追いつける。

 

「貴様、勘だけで我と戦えると思うのは大間違いだぞ。我はまだ五分の一の力も出しておらん」

 

「そうですか、その強がりがいつまで続くか楽しみです」

 

 茶髪の髭男は言うと剣を構えた。

 

 それを見た我はノーモーションで、千を超える見えざる斬撃を男だけに放つ。

 

 が、その男はまるで我の斬撃が見えているとしか思えないような動きで、我の斬撃を避ける。

 

 間髪を入れずに我の間合いに入ってくる男、そして、男は光のような一閃で我の首を取りに来る。

 

 ※

 

 ヴェルゼ・ナーヴァの間合いに入った私は、奴の首筋に向けて刃を通そうとした。

 

 ——が、まるで空気を斬るような感覚だった。

 

 実体がない!?

 

「ルーイッチ!」

 

 私はすぐさま彼女の名を呼んだ。

 

「揺らめく強大な爆炎よ、我が手から顕現し分散せよ、インフェルノ・フレア」

 

 ルーイッチはそう言って、インフェルノフレアを分散させ、ヴェルゼ・ナーヴァに向けて放つ。

 

 凄まじい爆発が起きた。土煙が舞い、煙が散った焼けた地に居たのは、無傷で立っているヴェルゼ・ナーヴァだった。

 

 魔法の攻撃も効かない……やはり実体がない、ヴェルゼ・ナーヴァ、世界の記録には一切の情報が残っていない七王勇の魔族、私が唯一分かる情報……奴は歴代の勇者5人を殺していること……。

 

「無駄だ、貴様らの攻撃は我には効かぬ」

 

 実体がないのならば、どこかに本体がいるのか?!

 

「貴様、我の本体がどこかに居ると考えているな?」

 

「——ッ、貴様心を読めるのか?」

 

「……言っとくが、我こそが本体だ」

 

「そうですか、有益な情報を——感謝する!」

 

 フィジカルブースト!

 

 体中に湧き上がってくる力で、大地を砕け割る程に踏み込みを入れ、ヴェルゼ・ナーヴァの間合いに入る!

 

 ——それと同時に、恐らく奴は見えない斬撃を放つ仕草を見せる!

 

 私は斬撃が来る寸前のところで守りに入る。

 

 あまりの相手の手数の多さに私は押されてしまう。——その時だった、ヴェルゼ・ナーヴァの背後を一体の最高位の精霊が取る!

 

「?」

 

 ヴェルゼ・ナーヴァは、その精霊の攻撃に片腕を出し防いだ。——が、実体がないと思えた奴の腕に傷が入ったのだ!

 

 しかし、その数秒後には精霊は、ヴェルゼ・ナーヴァの見えざる斬撃によって消し飛ばされた。

 

 傷が入った……まさか、奴に唯一攻撃を当てる手段は精霊の攻撃か! そう分かれば簡単な話だ。

 

「そこの精霊術士! この戦いは君の力量に任せる!」

 

「え!? わ、私スか?! 超不安なんですけど!」

 

「ルーイッチ! 精霊術士と私をとにかく死守しろ!」

 

「承知しましたフラーム様」

 

 私は彼女にそう命令し、相手の攻撃をルーイッチに任せ、すぐさま精霊術士の元へ走る!

 

 ※

 

 私の元へ猛スピードで駆け寄っくるフラーム。私はそんな彼をよそ目に、最高位の精霊を6体召喚し、ヴェルゼ・ナーヴァを攻撃させる。

 

「いつの時代も鬱陶しいモノだな、精霊術士というのは」

 

 奴は目に見えない速さで私が召喚した精霊達を消し去ると、いつの間にか私の目と鼻の先まで来ていた。奴の異常な殺気が私を襲ってくる!

 

 ——あ、死んだコレ……。

 

 自分の死を覚悟した時、ヴェルゼ・ナーヴァの一撃をフラームが剣で受け止めてくれる!

 

「ルーイッチ! 防護壁を!」

 

 ルーイッチは彼の命令通りに、フラームとヴェルゼ・ナーヴァの間に防護壁を張った。

 

 それにより、奴と私達の距離が少しだけ開く。

 

「ルーイッチ、5秒だけ耐えられるか?」

 

「お任せ下さい、フラーム様」

 

 そして、フラームは煌々と燃える黒炎を剣に纏わせ、一撃必殺のアレを溜め始める。

 

「本当に鬱陶しい、この小賢しい人間共め」

 

 ヴェルゼ・ナーヴァは面倒くさそうな表情を浮かべ、私達に攻撃を仕掛ける。——が、その攻撃をいとも簡単に防ぐ彼女の防護壁。

 

 す、凄い! 奴の見えない斬撃を耐えてる! 

 

「よぉし! 私も少し本気出しちゃおっかなぁー‼︎」

 

 全てを覚悟した私は詠唱を唱え始める。

 

「私の中に眠る、英精霊えいせいれいよ、全ての精霊の力を結集させ顕現せよ!」

 

 私がそう唱え始めると、空に巨大な召喚陣が現れる。

 

 それを見たヴェルゼ・ナーヴァは、何かを察知したのか、私だけに斬撃を集中砲火させる。

 

 ——しかし、その斬撃はルーイッチの最高硬度の防護壁が防いでくれる。

 

「来い! 英精霊! アステルド・シュバルツ」

 

 そう召喚魔法を唱えた時、天にあった召喚陣から光り輝く柱が立つ。その眩い光は辺りを覆い尽くす。そして、煌めく光が止んだ時、ヴェルゼ・ナーヴァの背後に奴はいた。

 

「貴様、何者だ?」

 

 ヴェルゼ・ナーヴァは咄嗟に、背後にいた奴に聞いた。

 

「私は英精霊、アステルド。召喚者ヘレナ様に仕える者」

 

 そう言う英精霊の姿は、女神のように神々しく美しく、まるでこの世の真理の全てを悟ったような顔をし、黄金に輝く長髪をしていた。

 

 それと同時だった、私の胃から何かが込み上げてきた。

 

「ゲホッ! ゲホッ! ——ッ!?」

 

 ふと、吐いてしまったものを見るとそれは赤黒い血だった。初めて呼び出した英精霊の代償がコレか……。

 

「そうか、ならば死ねッ!」

 

 ヴェルゼ・ナーヴァは見えない無数の斬撃を、英精霊アステルドに放った。——が、その斬撃は効いているように見えなかった。

 

「命令を、ヘレナ様」

 

 アステルドはこちらへ生が宿っていない目で言った。それを見たフラームさんは溜めていた剣撃をやめて、私の方へ視線を向ける。

 

 んなもん決まってんじゃん!

 

「そこの七王勇とか言う超ウザイやつを倒しちゃって! アステルド!」

 

「承知しました」

 

「——ッ」

 

 アステルドは、背中に締まっていた白く輝く神秘的な剣を抜いた。

 

 ——そして、一瞬でヴェルゼ・ナーヴァの間合いに入り、アステルドがその輝く剣を振り上げた時、大地を割く程の光の一太刀をヴェルゼ・ナーヴァに浴びせた。

 

 彼女の放った光の斬撃は、一切の攻撃が効かなかったヴェルゼ・ナーヴァの体を縦に深く斬ったのだ。

 

 胸から大量の出血をするヴェルゼ・ナーヴァ。

 

 出血した奴はよろけ、片膝をつき倒れる。

 

「まさか、あの小娘が禁忌魔法に近い所業をするとは……これは我の部が圧倒的に悪い。ここは一度退却させもらおう——ッ!?」

 

「逃がすわけがないだろう? 黒礁撃こくしょうげき‼︎」

 

 ヴェルゼ・ナーヴァの一瞬の隙を見つけたフラームさんは、奴の間合いに飛び入り、黒炎を纏わせた剣を大きく奴に向けて振り下ろした。——それと同時に、巨大な爆炎が大地を揺るがした。

 

「フラーム様」

 

「……逃げたか。……あの精霊術士が呼び出した精霊が居なかったら私達は死んでいただろう」

 

「アステルド! アンタ超超強いじゃん!」

 

「……他に命令はありませんか?」

 

「あぁ……ないかな! 帰っていいよ!」

 

「そうですか、なら良かったです」

 

 アステルドは剣をしまい、無機質な表情のまま光に包まれ消えていった。

 

「そこの精霊術士、早くアウラ王国に戻るぞ」

 

「了解であります!」

 

 ※

 

 大勢の大衆がデレックさんの処刑を見届けている。

 

「これより! 勇者デレック・ゾディアックを処刑する!」

 

 処刑執行人が言うと、執行人は大きく斧をギロチンに繋がっている紐に向けて振り上げ、勢いよく振り下ろす。

 

 ——瞬間、私は空に向けてヘルフレアを撃った。放たれたヘルフレアは空で綺麗な花火のように爆発した。

 

 それを見た大衆と執行人は空へ視線を送っていた。

 

 その隙の中で私はデレックさんのいる処刑台に舞い降りた。

 

「助けに来ました! デレックさん!」

 

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