15話 もう1人の勇者
緊張した場面の中で、七英雄のアマテラスはただ私だけを見つめている。しかし、それを防ぐようにデレックさんは私を守っている。
「デレック殿!」
「レイク、コイツは俺単独でも大丈夫だ。手を出すな、ヘレナ! リガドを連れて離れてろ!」
デレックさんはあの尋常じゃないほどの殺気の中でも、冷静に的確な指示を飛ばす。
本当に彼はすごい人間だ。
「リガド! 早く立って! 一旦ここから離れるよ!」
ヘレナさんが私に必死に呼びかけてくる、動きたい動きたいんだ……でも、体が言うことを聞かないのです。
「戦っては……ダメ、戦ってはダメです! アマテラスという男は化け物です! ここはひとまず逃げましょう!」
私は知っているアマテラスという男が持っている凶悪な能力を。リガド様が戦っていて勝利の法則が見つからなかった、今の私では何も出来ないと……。
アマテラスに対し絶望的な心境でいた時、
「安心しろリガド、僕は決して死なない。勇者だからな」
そう言う彼の目の中には絶望などなかった、彼の目の中には希望だけがあるように見えた。
そして、私は彼の言葉を信じ、言うことの聞かない体を叩き起こし、立ち上がり、ヘレナさんと共に避難した。
それを見たデレックさんはフッと笑い、ジリジリと剣どうしが火花を散らしている中、アマテラスの腹部を蹴り、相手との距離を取った。
「それで良い、それで……さぁ、アマテラスとか言ったね。全力で僕が相手になるよ」
彼はそう言って、鞘から抜けないと言っていた剣を構えた。
※
初めて見た僕の神々しく輝く剣の刀身を。
この剣が抜かれたという事は、アマテラスとかいう奴は僕と同等か、それ以上ということ手加減は出来ないな。
リガドのあの怯えよう……過去にコイツに何かされたのだろう、仲間のためにも、人類のためにもコイツを野放しにするわけにはいかない。
そう覚悟した僕は剣を大きく構えた。
緊張が走る中、少しの風が靡いた。
「——ッ」
そう僕が気づいた時には、アマテラスは既に僕の間合いに入っていた。
そして、繰り出される閃光の一太刀。
しかし、僕は閃光の一撃が来る寸前で、その一太刀を剣で受け止めた。
重い! なんて重みのある攻撃だ、あの軽やかな動きから考えられない重みだ。
「どうした? 人間よ、お前の力はその程度なのか?」
「そんなわけ、ないだろ」
受け止めていた攻撃をその言葉と同時に、押し返した。
攻撃を押し返した事でアマテラスとの距離を取った僕は、相手に攻撃させる隙を与えまいと、瞬時に大地を蹴った。
相手が体勢を立て直す前に一撃でも当てる!
「少しはやるようだな——ッ!?」
僕は奴が立て直す前に、既にアマテラスの間合いに入っていた。
一撃じゃダメだ、ここは!
※
この太刀筋と刃の軌道は、ふん楽しくなってきたぞ!
人間の攻撃が来る寸前で体勢を整えた私は、瞬時に相手の攻撃に対処する。
相手の閃光のような斬撃達が繰り出される。
一発一発が軽い、最後の一撃に重い攻撃を当てるつもりだな、馬鹿め。
相手の斬撃を剣で流しながら、私はその重い攻撃に向けて体勢を少しづつ変える。
次に来る攻撃、それは重い一撃で、その剣を勢いよく降り掛かる、そんな単純な攻撃が私を殺せるわけがなかろう。
相手の最後の一撃が来る直前で、私は横に避ける。
そして、人間の脇腹目掛けて横に凪る。
「そう来ると思ってたさ!」
「——ッ!?」
——が、驚いた事に、奴は私が横に避けると勘ぐっていたのか、振り下ろす直前に剣を寸止めさせ、瞬時に横に避けた私に向けて薙ぎ払いをする!
だが、私はその攻撃を受ける寸前に受け身をとる。
その瞬間、手から腕へ伝わってくる重い薙ぎ払い。
相手の薙ぎ払いは私の横っ腹を少しだけ掠めた。
相手から少し距離を取った私は、再び剣を構える。
それを見た相手も剣を構えた。
「おい人間、名はなんと言う?」
「……デレック・ゾディアックだ」
「そうか、デレック・ゾディアックか。貴様を殺してもその名を忘れんと約束してやろう」
「それはどうも——ありがとう」
デレックはそう言ったと同時に、私との距離を詰めてくる。
私もその行動に応えるように足に力を込め、地を割るように蹴り上げた。
お互いの剣どうしが激突する時、大きな爆発が生まれた。
土煙が舞う中で私は、魔力を感じた方向に向けて横凪を入れる!
土煙が払われた事で鮮明になる視界。
しかし、辺りを見渡すが、その地にはデレックの姿はなかった。
——上か!
瞬時に上を見ると、デレックは空高く飛んでいた。
そして、奴は驚いた事に空を蹴り、私に向けて、渾身の一撃を当てに来る!
それを見た私は瞬間的に守りの体勢にはいる。
空の空気を裂きながら迫り来るデレックの一撃!
——コンマ1秒だった、デレックの渾身の一撃が私の剣にぶつかる!
奴の重い一撃が私の踏ん張っていた大地を割る。
クソッ、あまりの重さに両腕が悲鳴を上げている……仕方ない、使いたくはなかったが、こうなったら……。
スキル「理想現実」!
※
スキル「理想現実」とは、あらゆる事象において活用できるスキル。
そのスキルの能力はスキルを所持した者の理想が瞬時に現実になるモノ。
そして、何よりこのスキルを凶悪化されているのは、スキルを使った後にスキルのクールタイムが無いことだ。
——だが、それはデレック・ゾディアックの持つスキルを前に発動できるのかが、この戦いの行く末を決める。
※
「私が望む理想! それは私が完全完璧な勝利を収めることだ!」
「——ッ!?」
これで私の勝利が確定した——ッ!?
確かにこの時、アマテラスのスキル「理想現実」は発動した——が、そのスキルをデレック・ゾディアックが持つ「勇者」というスキルがそれを無力化した。
そして、アマテラスは自分のスキルの能力が無力化された事に気づくことはなかった。
何故だ? 何故いつまで経っても私の勝利が確定しない?
「ウオォォォ!」
デレックは気合いの声を上げ、アマテラスの剣に向けて全体重と力を乗せた。
不幸というのは連鎖で続くこともある、そうアマテラスの刀身には小さな刃こぼれがあった。
その刃こぼれの原因は、デレックの軽い斬撃によって生まれたものだった。
生まれてしまった刃こぼれのあるアマテラス剣は、デレックの重い一撃に耐えられるわけもなく、
「——ッ!?」
粉砕された。
剣が粉砕された事を確認したデレックは、アマテラスにも視認できないような速さで、アマテラスの体をX字に刻んだ。
——そして、デレックは間髪を入れずに、アマテラスの心臓に刃を通した。
この私が負けるのか……フッ、だが私以上の力を持つ者に殺されるのも悪くない。
「デレック・ゾディアック、貴様は強い、実力でも能力でも私より勝っていた、しかもその様子だと身体強化の魔法も使っていない、完敗だ、私の完全敗北だ」
と倒れる寸前にデレックに言うと、彼もアマテラスに言った。
「貴方がリガドに何をしたのか分からない、でも貴方のおかげで僕は初めてこの剣の刀身を見ることが出来た、それだけは感謝する」
「フッ、そうか」
彼はそう言い残し、モナリザ直属配下、七英雄のアマテラスはその生涯を終えた。
※
アマテラスの気配が消えた……あのアマテラスを倒した? 私にも導き出せなかった勝利を、あの
「本当に彼は凄い人間だ」
「リガド、怪我はないか?」
デレックさんが心配した様子で、私に駆け寄ってくる。
「はい、怪我はありません。アマテラス《彼は》強かったですか?」
私がそう聞くと、デレックさんは優しい顔をしてこう言った。
「強かった、僕が戦ってきた奴よりも。……ここで立ち往生してるのもあれだ、早くアマテラス《彼を》埋めて、アウラ王国へ行こう」
※
アマテラスを埋葬した私達は、次なる王国、アウラ王国に辿り着いた。
アウラ王国はとてもにぎやかな雰囲気で街が広がっており、私達勇者パーティは思わず口を開けた。
「まずは宿を探しに行こうか」
「「「了解」」」
私達勇者パーティは宿を探しながら、街の中にあるアクセサリー売り場や、飲食店などを転々としながら街を探索していった。
そして、気がつけば外は既に夕暮れになっていた。
「ここが宿だな」
「私超超疲れたんですけどぉ〜! 早く宿の部屋で休みたい〜!」
ヘレナさんの疲れた様子を見て、私とレイクさんとデレックさんは顔を見合わせて、優しく笑った。
「皆さん、ではここにしましょうか」
「そうだな、夜ご飯は少し経ってから行こうか」
「そうですね」
「早く休みたい〜!」
※
「お金が足りないよォ〜、貧乏人は払えるお金を持ってきてまた来てねぇ〜」
「「「「……」」」」
宿の店主はそう言って、私達を外へ追い出した。
「ちょっとあの店主殴ってくる」
デレックさんは少々キレ気味で宿に戻ろうとする。それを私とレイクさんが必死に止める。
「ヘレナ殿も少しはデレック殿を止めてくだ——地べたで寝てる……」
確かにレイクさんの視線の方向には、ヘレナさんがグースカと気持ちよさそうに地べたで寝ていた。
「デレック殿、我々のお金は今どれくらいあるのですか?」
レイクさんが彼にそう聞くと、デレックさんは懐にあった巾着袋を開け、中に入ったお金を手に広げる。
「銅貨3枚……昼に色々とアクセサリーとか買い物したからな」
「これじゃどこの宿も泊めてくれないですよ。……まさかデレック殿、また野宿ですか? ここ最近、ずっと野宿ですよ」
レイクさんは少し野宿を嫌がるような目線で、デレックさんを見つめる。
「クエストを受けるにも、ギルドはもう閉まってるからなぁ、レイクここはもうあれしかない」
デレックさんは覚悟を決めた様子で、レイクさんに真剣な眼差しを送る。それを聞いたレイクさんは顔を青ざめ、
「嫌ですよ? 絶対」
「緊急事態なんだ! まだアレを買い取れる店はある!」
「嫌だァァァ!」
レイクさんの絶叫が夜空に響いた。
そして、
「はい金貨6枚ね〜毎度あり〜」
「グスン、グスン」
まさかアレが本当に買い取られるなんて……それにしてもレイクさんが可哀想だった……。
「これで宿にも泊まれるな! いやぁ、ここでレイクの土魔法で作った女の子の模型が活躍できるなんてな! 喜べよレイク! 金貨6枚だぞ!」
「喜べるわけないでしょうが! 私があの女の子の模型を作るのに何ヶ月掛かると思ってるんですか!?」
「レイクさん、少し静かにしてください、ヘレナさんが起きてしまいます」
私は背負っていたヘレナさんが起きないよう、レイクさんに注意した。
「ごめんさない」
そんなこんながありながらも、私達は無事宿に泊まることができ、軽い夕ご飯を宿で食べた。
※
そして、次の日の昼頃の時、誰かが私のいる部屋をノックした。
私はいつもの服に着替え、ドアの向こう側にいる人に顔を出す。
「はい」
「レイクです、今日のお昼にデレックさんとヘレナさんと私の3人でこの国の探索をしながら、この国の王様に挨拶をしようと思ってるのですが、来ますか?」
「はい、喜んで行かせていただきます」
※
昨日来た時も思ったけどやはりこの国は、にぎやかで綺麗な国だ。
そんなことを思いながら、私は辺りを見渡す。
AIだけが支配していた世界の街には、ここまで活気のある街はなかった……できることなら前の世界のことなんて忘れて、この世界をもっと知りたいものだ。
「リガド、アクセサリーとか要らないか?」
「え?」
デレックが突然予想外のことを言ってきたので、私はつい言葉が漏れてしまった。
「リガドが僕達のパーティに入る前、僕とヘレナ、レイクは旅をしていたんだ。そこでいつも3人で旅の思い出としてアクセサリーを買ってたんだよ。だからリガドとも思い出を共有したいなと思ってね」
「良いのですか? 私のような者に」
「何言ってるんだ、僕達は仲間じゃないか」
「……そうですね、ありがとうございます」
そんな会話をして私達は思い出の品として、アクセサリーショップを巡って行った。
そして、私達はそれぞれの思い出の品を購入し、目的としていたこの王国の王様へ挨拶に行くことになった。
※
私達勇者パーティが王国の宮殿に入ると、見覚えのない人たちと遭遇した。
「おやおや、これはパラミア王国の勇者、デレック・ゾディアックとその御一行じゃないか」
私達の前に現れたのは、茶髪でちょび髭を生やしたデレックさんより少し年上そうな男だった。
そんな男を見たデレックさん達は少しめんどくさそうな顔をしていた。しかし、デレックさんはめんどくさそうな顔をやめて言った。
「お久しぶりですね、あの時以来だ、アウラ王国、七大勇者の1人、フラームさん」
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