14話 恐怖再来

 巨大な魔物の口の中に閉じ込められた私達、デレックさんはそんな絶望的な状況で口を開いた。

 

「さて、どうするか……リガド何か案はないか?」

 

「すみません、この魔物の口の中は魔法結界が貼られてて魔法が打てません。恐らく精霊術も錬金術も使えないかと……」

 

「そうか……」

 

 ここから出るのは絶望的だ、魔法も使えなきゃ、ましては錬金術も精霊術も使えないときたら……。

 

 何も案が思い浮かばない中、デレックさんはハァと息を着き、私の前を行った。

 

「ここの結界は魔法だけなんだな?」

 

「はいそうですが……何をされるのですか?」

 

「簡単な運動だよ」

 

 彼はそう言うと、剣の刀身をほんのわずかだけ鞘から見せ、数秒後にその刀身を鞘に戻した。

 

「……何をされたのですか?」

 

「ちょっとだけ斬っただけさ」

 

 彼が言った——次の瞬間、あの超巨大な魔物の体ごとをサイコロ状に斬り刻んだのだ。

 

「その剣は一体……」

 

 私が言うと、デレックさんは鞘を触りながら言った。

 

「この剣か? この剣は魔物に殺された鍛冶屋の父さんが最後に遺した剣なんだ。でも、僕はこの剣を完全に抜いたことがないんだ」

 

「それはどういう……」

 

「この剣は僕と同等の敵またはそれ以上の敵にしか抜けないんだ、だから僕は一度もこの剣を鞘から抜いたことがない……ま、魔王相手なら抜けるだろうけど! さ、行こうかまだ旅の途中だ」

 

 ※

 

 王都を出て6時間が経過した頃、私達勇者パーティは、草木が生い茂った森の中にいた。

 

「ここで無駄に体力を使うのもアレですし、そろそろ夜食をとるとしましょうか」

 

 レイクさんが言うと、ヘレナさんは目の色を変えて、

 

「私超超疲れたんですけどぉー! そうだ! 肉でも食べるっしょ! ちょっと探してくりゅ!」

 

 そう言ってヘレナさんはヨダレを垂らして、森の中を颯爽と走っていった。

 

 一方のレイクさんは近くに倒れていた木に座り、お得意の土魔法を使って女の子の模型を作っていた。

 

 しかし、たった一人で竜を倒しに行くのは大丈夫なのだろうか……。

 

 私が一人でそう思っていると、デレックさんが優しい顔で、

 

「リガド気にするな、ヘレナはああいう性格だ。食料調達はヘレナに任せて、僕達はゆっくりしよう」

 

「ですが……」

 

「ヘレナは普通の精霊術師とは違うよ、彼女は無詠唱で数人がかりで召喚できる最高位の精霊を単独で複数召喚できるのさ」

 

 ※

 

 デレック達が居る方向からずーっと北へ走った私は、崖に挟まれたある所まで辿り着く。

 

「うわぁ! ワイバーンの巣だァ! 超ヤバみなんですけどぉ! ウッキウキなんですけどぉ!」

 

 私はその言葉を発したと同時に、無詠唱で上位精霊を複数呼び出し、ワイバーンを攻撃する。

 

 私は超超天才だから、一人一人の精霊を召喚した瞬間に命令できる、だ、か、ら! こういうこともできちゃうんだよね!

 

 私は崖を滑りながら、召喚した4体の精霊のうち2体を遠距離攻撃、残りの2体を近距離攻撃をするように命令した。

 

 ワイバーンが次々と倒されてる中、私はワイバーンの巣に入っていた卵を強奪し、死んだ脂の乗ってそうなワイバーンを選ぶ。

 

 ※

 

「来たようだね」

 

 焚き火を見ていたデレックさんが言うと、森の中からヘレナさんが最高の笑顔をした様子で現れる。

 

 彼女の両手を見ると、右手には脂の乗った美味しそうな竜の肉を持っており、左手には巨大な竜の卵を持っていた。

 

「超ごめーんワイバーン選びしてたら日が暮れちゃった、でもこれで目玉焼きとワイバーンの肉を焼いて食べるっしょ!」

 

「良い案ですねヘレナ殿、私ももうすぐで女の子の模型が出来そうです」

 

「ヘレナ、酒は?(キリッ)」

 

「あるわけないでしょ普通考えて」

 

 キリッとした顔と期待を潰すようにヘレナさんは言った。そう言われたデレックさんはしょぼんとした顔をした。

 

 それを見兼ねたレイクさんは女の子の模型を作りながら、私が事前に作っておいたデレックさんの木のコップに水を注いだ。

 

 その後は焚き火でワイバーンの肉を焼きながら、目玉焼きは私の炎の魔法を活用して作った。

 

「普通に美味い、ワイバーンの肉なんて初めて食べたな、牛の肉に近いな。あぁあー酒があればなぁチラッ」

 

「そんな戯言言っても無駄っしょ、無いものは無いんだから」

 

「目玉焼きも美味しいですよ、模型作りが捗ります」

 

 模型を作りながらレイクさんは言うと、デレックさんが口を開いた。

 

「いつまでもこうやって野宿するのもあれだから、明日近場の村を探すか。みんな良いな?」

 

「わかりました」

 

「「はいはい」」

 

 そんなたわいもない会話をしながら、私達は夕ご飯を食べ終えた。

 

 ※

 

 悪夢を見ていた、村を覆う巨大な炎。村人達の絶叫。

 

 そして、強大な魔力。

 

『助けろ』

 

「——ッ!?」

 

 聞き覚えのある声が、寝ていた私を呼び起こしてくれた。

 

 リガド様……。

 

「どうした? リガド」

 

 寝ていた私がいきなり飛び起きたのを気にしたのか、デレックさんが心配した顔で聞いてきた。

 

「魔力探知をした所、この近くに魔物の群れと思われるものが村を襲っています」

 

「そうか、どこだ?」

 

 デレックさんはそう言うと、剣が入った鞘を持ち、装備を着始める。

 

「行くのですか? ここから20km以上ありますよ?」

 

「何言ってる、僕達は勇者だ。困っている人、ましては死と瀬戸際にいる人がいるなら尚更だ……もし魔物が来てなくて平和な村だったら心配得だろ? だって僕達は勇者だから」

 

 そう言った彼の言葉に私は納得した。そして、私がここから20km以上ある村に行く準備をしようと起き上がった時、既にヘレナさんとレイクさんは行く準備をしていた。

 

「ほらリガド、早く行くよ!」

 

「分かりました」

 

 ※

 

 全ての準備が出来た私達は、魔物達がいるであろう方向に向かって立った。

 

「レイク頼む」

 

「あいあいさー!」

 

 彼が言うと、レイクさんは大地に手を当てる。一方でデレックさんは近くに落ちていた木の枝を拾った。

 

 その次の瞬間だった、地面の一部が変形し、変形した地面の一部が私達を押し上げ、勢い良く遠くへ押し飛ばした。

 

 その瞬間だったデレックさんが私に指示した。

 

「リガド! 俺たちの後ろに向けて風魔法を頼む!」

 

 彼のその言葉の意味を瞬時に理解した私は、すかさず上位の風魔法を放つ。私の放った風魔法は勢いよく宙を舞っていた私達を村の方向へ吹き飛ばした。

 

 ※

 

「逃げろ! 殺されるぞ!」

 

 村全体を覆う巨大な炎、それは村人達の逃げ場を失わさせていた。

 

 そして、勇敢に立ち向かおうとする大人達は、魔物の群れによって無惨にも殺されていく。

 

「お、終わりだ、死ぬんだここで今日俺は死ぬんだ!」

 

 絶望する者、泣き叫ぶ者がいる中、十数人の人が殺された時、

 

「おい、やめろ。もう殺していい人間は殺し切った。この村の長を出せ!」

 

 巨大な屈強な肉体をした、魔物の群れのリーダーの武装したオークが現れる。

 

 オークは村の長を呼び出すと、軽傷を負った村長とその村長を支える女が現れる。

 

「貴様がこの村の長か?」

 

「お、お願いします。この村の人々の命だけは!」

 

 村長は涙を流しながら、地面に頭を下げ、村人達の命を乞う。それを見たオークはそのザマを嘲笑った。

 

「そうかそうか、良いだろう」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ、女と子供だけだがな?」

 

 オークはゲスな顔をし、持っていた斧を大きく振り上げる。

 

 ——その瞬間だった。

 

「やめてください! これ以上人を殺して何が楽しいの?!」

 

 と、村長を支えていた女がオークにそう問いかけた。

 

 それを聞いたオークは不満そうな顔を浮かべ、

 

「下等な人間風情が、俺の邪魔をするのなら先に貴様が死ぬがよい!」

 

「——ッ」

 

 その時、女は死んだと思った——が、微かに目を開けると、彼女の前にはある男が立っていた。

 

 ※

 

「だ、誰だ? き、貴様は?!」

 

「お前のような奴に名乗る名はない」

 

 デレックさんが時間を稼いでいるうちに私は、村長と思われる人と、その隣にいた女の人を助け、すぐに二人に回復魔法を施した。

 

 しかし、すごい気迫だ、デレックさんの気迫だけで周りにいる魔物たちが怯えている!

 

「か、かかれい! この人間を全ての力を使って殺せ!」

 

 怯えきったオークがそう命令すると、周りにいた魔物達は魔法と斬撃を放とうとする。

 

 ——瞬間だった。

 

「そんなことさせるわけないでしょう」

 

 木の陰に隠れていたレイクさんが、大地に手を当て、地から無数の鋭く尖った岩を出し、飛んでいた魔物や魔法を放とうとする魔物達の体を貫く。

 

「——ナッ!?」

 

「あとはお前だけだ」

 

 デレックさんの言葉に再び怯え始めるオーク。が、怯えきったオークは思考が出来なくなったのか、

 

「こ、この! 魔王さまの直属配下! イディオ様を舐めるなぁ!」

 

 言ってイディオは、振り上げていた斧を彼に向けて振り下ろした。

 

「や、やった!? ——ッ!?」

 

 彼を殺したと思ったと思ったイディオ。——しかし、イディオの振り下ろした斧は、デレックさんが持っていた木の枝によって受け止められていた。

 

「ば、馬鹿——な」

 

 イディオが言っていた時、デレックさんは持っていた木の枝で、私にも見えない斬撃を使い、数秒でイディオの体を粉微塵に切り刻み殺した。

 

「皆さんもう安心してください、魔物の群れは全て倒しました」

 

 ※

 

「いやぁ、まさか七大勇者のデレック・ゾディアック様が助けに来るなんて……ありがとうございました。おかげで村は救われました。本当にありがとうございました」

 

 村の村長さんは言って、座っている私達にお茶を出す。

 

「いえ僕はそんな大層な言葉を言われる筋合いはありません。だって、村の人全員を救えなかったのですから……」

 

「「「……」」」

 

 暗い顔をしてデレックさんが言うと、村長さんは優しい顔をして、デレックさんに歩みよる。

 

「確かに貴方からしたらそうかもしれません。ですが、貴方はこれから生まれる新しい命の恩人のなのですよ」

 

「へ?」

 

 俯いていたデレックさんは、不意に村長さんとその女の人の方へ視線を向けた。

 

「私の娘です。今娘は新しい命を身ごもっていまして」

 

 村長さんが言うと、その娘様は私達にお辞儀をし、

 

「本当に私とこの子を助けていただきありがとうございました。この事は一生忘れぬようこの子にも伝えていきます」

 

 それを聞いていた村長さんは続けて私達へこう言った。

 

「全ての命を救えるのは誰もいません。ですが、これから生まれる命を守ることは出来ます。ですからそう思いやられず前を向いて生きてください」

 

「……ありがとうございます村長さん」

 

 デレックさんが村長さんにお礼を言うと村長さんは、

 

「今晩は私の家に泊まっていってください、少しだけですがおもてなしもさせていただきますよ」

 

 ※

 

「この村で一番のお酒です。どうぞ」

 

 村長の娘様は言って、私たちにお酒を出し、デレックさんはその酒を真っ先に取り口にした。

 

 ——次の瞬間、デレックさんは突然右目を押え言った。

 

「ウッ!? こ、この美味しさは!? 危険だ! 再び僕の右目デウスが開眼してしまう! お、抑えろ! 僕の右目デウスよ!」

 

「デレック殿、貴方にそんな目はございませんよ。あと普通に飲んでください」

 

「ごめん」

 

「そうだよデレック、こういうのは黙って飲むもんだよ! マジィ!? 超超ウマいんですけどォ! 超ヤバみなんですけどぉ!」

 

「ヘレナ、君もうるさいよ?」

 

 3人がゴクゴクとお酒を飲む中、私もそのお酒を飲んだ。

 

「美味しい……」

 

「そうだろ(キリッ)?」

 

 私がそう呟くと、デレックさんが何故かキリッとした顔で言ってきた。

 

「そうですね、確かに美味しいです」

 

「ありがとうございます、お風呂も使っていただいても構いませんので、ごゆっくりしてください」

 

 ※

 

「起きてください、起きてくださいデレック殿」

 

 お風呂から上がった私が見たものは、何故か眠っているデレックさんをレイクさんが起こしている光景だった。

 

「レイクさん、どうしたのですか?」

 

「あぁ、リガド殿ですか。デレック殿があのお酒で酔いつぶれてしまい……」

 

 それを聞いた私は思わずハァとため息をついてしまった。

 

「ほらデレックさん、寝ますよォ〜」

 

「ムニャムニャ、リガドちゃん、この酒の酔いがさめたら抱かせてく——ゲブッ!」

 

 デレックさんが抜かしたことを言おうとしていたので、私はデレックさんの酔いを覚ますという名目で彼の頬を殴り飛ばした。

 

「リガド殿、それはやりすぎです」

 

「あ、つい手が」

 

 ※

 

 次の日の早朝、私達は村を出る準備をして村の門の前に立つと、

 

「お兄ちゃん達! ありがとう!」

 

 と子供やその大人たちが私達に向けて手を振っていた。

 

 そんな微笑ましい光景を背景に私達勇者パーティは、再び歩みを進めた。

 

 ※

 

 あの村から出て2週間が過ぎた頃だった。

 

 私達勇者パーティはアウラという王国に向かって、永遠と広がっているように思える草原を歩いていた。

 

「はぁ〜、もう疲れたァ。リガド〜あとどんくらいで着くん?」

 

「そうですね、あと2時間ほ——ッ!?」

 

 この魔力総量……人間とか魔物とかが出す魔力じゃない! 普通人間や魔物が放つ魔力は一定に流れる、でもこの魔力の流れ方は不規則すぎる! 不自然すぎる! 私はこの不規則に流れる魔力の流れを持った者を知っている!

 

「うん? あそこに誰かいるな?」

 

 デレックさんがそう言った方向には、ボロボロになったある男が立っていた。

 

「ハァハァハァ」

 

 落ち着け私、落ち着け!

 

「どうかしましたか? リガド殿」

 

 レイクさんが少し心配した様子で、地面に片膝をつけている私に話しかけてくる。大丈夫じゃない、アレはアイツは危険で——ッ!?

 

「「「——ッ!?」」」


 そう奴は既に私たちの前に立っていた。この冷酷な殺気、尋常じゃない。

 

「おい、何をそこまで怯えているのだ? リガド」

 

 心拍が上がっている、息も……ダメだ死ぬ!

 

 ——次の瞬間だった、奴の見えない一太刀が私の首に来る! 

 

 ——しかし、それをデレックさんが持っていた剣で一瞬で受け止めてくれた。

 

「誰か分からないけど、このリガドの怯えよう……誰だ? あなたは?」

 

「驚いたな俺の顔を見て怖気付かないとは。俺か? 俺はモナリザ様直属の配下、七英雄のアマテラスだ。死にたくないのならば失せろ人間よ」

 

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