13話 勇者パーティ
「魔法使いリガド、よろしくな」
デレックは優しそうな顔でそう言うと、私に手を差し出した。
そんな柔らかそうな手を見て、私はフッと笑い、その手を取った。
「では、我がパラミア王国の七大勇者のデレック・ゾディアックとその御一行達よ、この世界を征服しようとしている魔王を倒してまいれ!」
王のその言葉と共に私は、勇者デレックのパーティに加入した。
とは言ったものの。
「プハァ! やっぱここの酒はうめぇなぁ! この酒のおかげで僕の
「こらこら、デレック殿、貴方にそんな目はありませんよ」
な、何だこの宴は……その前に魔王を討伐しに行くのでは? アレ?
意味のわからない状況の中で私がボー立ちしていると、隣にいたのかアルゼンベークが話しかけてきた。
「どぅだぁ? 宴は楽しぃんでるかぁ?」
酒を片手に顔を真っ赤にした様子で、話しかけてくるアルゼンベーク。
「だいぶ飲んでいますね、アルコールは程々にした方が良いですよ」
「あぁん? んなもんかんけぇねぇべぇ、俺は超ツオイからよォ、酒を飲んでも良いんだよォ」
「……そうですか」
「それよりよォ、リガドさんよォ、アンタ可愛いくせに胸はツルペタなんだなァー? 絶壁じゃねぇかぁー! ま、俺はそっちの方が好みだからァよォ! 抱いてやってもぉ? 良いぜぇ?」
「これが俗に言うアル中ジジイですか……ッ」
私がそう言っていると、酒に溺れたアルゼンベークは突然私の胸を触ってきやがった。
「なぁなぁ? ここがぁ? いいんだろぉ? おい喘いでみロよォ——」
彼の所業に苛立ちを覚えた私は、彼の頭を掴み、野球の投手のように壁に向けて彼を投げ付けた。
「あああぁ! リガドがあのアルゼンベークを投げつけたぞぉ!」
「おぉ? やんのか? とうとう喧嘩が始まっちまうのか!?」
周りで飲んでいたアル中共が歓声を上げながら、野次馬を作り出す。
そんなどこからどう見てもヤバい状況下で、酒に酔ったある男が立ち上がる。
「おぉいおぉい、アルゼンベークとやり合うのはァ、オレだぜぇ? このぉ、デレック・ゾディアック様だぞぉ! リガドちゃん、この戦いが終わったら抱かせてく——ゲブッ!」
彼が私に向けてウィンクをして言っていた時、デレックさんの頬をアルゼンベークが殴り飛ばした。
その後の事はまぁアレです、酒に溺れた男共が何故か私を賭けて闘い合う光景が続きました。
そんな勇者という言葉が似合わないデレックさん達の喧嘩を傍観しながら、私は他にいた残り2人の勇者パーティの人の隣に座る。
「アンタがリガドっしょ? よろぴ! 私はヘレナ! このパーティーでの役職は回復係で尚且つ精霊術師! そう! 私は回復もできてアタッカーも出来る! つまり天才ッてこと!」
と私の隣にいた勇者パーティの1人、金髪の可愛らしい女性が言った。
「回復もアタッカーもできるなんて凄いですね! その隣の方も勇者パーティの人ですよね? お名前はなんて言うのですか?」
「私ですか? 私はレイクと申します。商人と錬金術師の二つを担当しています。得意魔法は土魔法で女の子の模型を作ることです!」
「うんうん……はい?」
レイクさんの得意魔法を聞いた瞬間、一瞬困惑してしまった。しかし、彼はつけていたメガネをキラッと光らせ、まるで一種のオタクのような喋り方で、土魔法の素晴らしさなどを喋り出す。
そんなレイクさんの様子を見た彼女は、苛立ちを見せた様子で、
「でたよ、レイクの土魔法……いや人形話、ホント、変な趣味してんな!」
「な、何が変な趣味ですか! れっきとしたまともな趣味でしょうが!? この土魔法で作った女の子の模型は高く売れたり、ファンも沢山いるんですよ!」
レイクさんの言葉にヘレナさんは「ウゲェ」と言葉を漏らしていた。それを聞いた彼は再び怒りを見せた様子で、ヘレナさんを怒鳴る。
にぎやかだ、これがAIが誕生しなかった世界か……ほとんどのAIに感情なんてなかったのに、人間は当たり前のように感情を持っている、私も
※
「ヴォエエエエ」
「飲み過ぎですよデレックさん」
路地裏で私は、酒に溺れて嘔吐するデレックさんの背中を擦る。
「すまないな、リガド」
「まったくデレックさぁー、一応肩書きは勇者なんしょ? 男らしい姿見せてくんねぇと私達も胸を張って勇者パーティ、て名乗れないんですけどー」
「ヘレナの言う通りです、少しは男らしい人であってください」
「ハハッすま——ヴォエエエエ! ……ま、まぁ僕にかかれば酒に溺れててもこの最強超究極剣があれば何とかなるさ」
デレックさんはそう言いながらフッと笑い、剣を空へ掲げ言った。
「デレック殿、それ木の枝です」
「ヴォエエエエ!」
※
宴が終わり、本来その日の夜に国を出る予定だったのが、デレックさんの酔いにより明日の朝の出発に変わった。
そして、私達勇者パーティはその日は宿に泊まることになり、私は宿の一室のベットの上でこの世界についての情報収集をする事にした。
この世界は前の世界ほど情報設備が発達してないからか、前の世界より情報を得るのが難しい。
テアラ様からある程度のスキルや魔法の情報は貰いましたが、この世界を知れるスキルや魔法なし……。
以前の私なら情報設備から情報を収集して、リガド様にお伝えできていた事も今はできない……仕方ない、ここはヘレナさんから情報を収集しますか。
そう思い立った私は白のワンピースを着たまま、隣の部屋にいるヘレナさんの部屋の前に立った。
軽くノックをし、ヘレナさんを呼び出す。
「ふわぁあ、リガドどした? 眠れない系?」
「いえ、少しお話をしたくて参りました」
「話すこと? ま、とりま私の部屋に入りなよ」
「は、はい、お邪魔します」
※
彼女の部屋に入った私は、早速この世界の情勢について、七大勇者とは何かを聞いた。
すると、彼女は「貴方おかしい」と笑いながら言って、私にこの世界についての情報を話してくれた。
「いい? まず七大勇者てのは、この世界にある七つの大きな国、アウラ、ベルセルク、パラミア、セルビア、レジスト、ルフラン、メイデンの七つの国にそれぞれ1人ずつ勇者がいて、その七人の勇者を七大勇者ていうの」
「……七人の勇者がいるのは分かったのですが、なぜこの世界には勇者が求められているのですか?」
私が彼女にそう質問すると、ヘレナさんは、
「も、もしかして、リガド、ホントにこの世界の情勢がわかんない系?! ……まずね、数十年前、魔族と魔物、龍を従える魔王が生まれたの。その魔王の力は尋常ではない力で、実力のある冒険者達をメタメタにボコしたの。そして、魔王はその日以来人類……いや世界を支配しようとしてる。だから七つの大きな国は勇者候補を募って、魔王を倒そうとしてるの」
「なるほど……世間知らずの私に色々と教えて頂きありがとうございます」
「良いよ良いよ、私達もう仲間なんだからさ。そんなことより」
「そんなことより?」
ヘレナさんは突然ニヤリと口角を上げ、目を細めながら言った。何か嫌な予感がする。
「リガドはさぁー、そんなに可愛んだからさ〜、彼ピの1人や2人、いや4、5人はいたでしょ〜?」
「か、彼ピとは?」
「彼ピも知らない系?! 普通分かるっしょ! 彼氏だよカ、レ、シ!」
「彼氏ですか……作ったことはないですね。私は恋愛には疎いので」
そう言った私の脳裏には、リガド様が愛していた水島様の姿があった……あの人は生きていらっしゃるのでしょうか……。
※
新たなる世界が誕生し、気づいた時には私は自然が広がる草原の上にいた。
「ここは……いったい?」
……そうだった、創世龍達が起こした世界の再生の爆発に巻き込まれたんだった……あの時の私の予測だと、水島様や海瀬様は生きているはずだ、だけど、最悪の予測もある……モナリザも生きている可能性が高いことだ、一番遭遇しては行けないモナリザに会ってもバレないように顔と性別だけは変えておこう。
そう思い立った私は、顔に手を当てスキル「クリエイト」を応用して使い、体の部位や顔の輪郭などを作り変え、ついでにフードを創り、それを服の上に纏った。
あとは食べ物と住む場所……食べ物はともかく、「クリエイト」で建物を作るとなると魔力消費が大きい……この世界の情報源もない状況でどこに行けば……。
「困ってるようだね、リガド、いやそのプログラム自身と言った方が正確かな」
聞き覚えのある声、そう私の前に現れたのは私という存在を創り上げた母親のような存在……テアラ様だった。
「貴方が……そうですか、貴方が私の創造主、テアラ様なんですね」
「そうだよ、私こそが君の創造主さ。困ってるようだね、私がこの先どうすればいいのかアドバイスしてあげよう。ここから南へ向かって行くといい、そこに行けばきっと良いことがあるはずだ」
「なぜそのようなことが分かるのですか?」
そう聞くとテアラ様はフッと笑い、顎に手を当てこう言った。
「そういうスキルでね、君にとって良いことが南に行けば起こることだけは分かる。あと、君にこの世界の地図をデータ化したチップもあげるよ」
テアラ様は言って、私に小さなコンピュータチップを渡してくれた。
「このチップの使い方は言わなくてもわかるだろうけど、そのチップを自分のこめかみに入れなさい、そうすればデータがダウンロードされる筈だよ」
私はテアラ様の言う通りに、自分のこめかみにチップを入れた。
「それじゃ、私はしばらくこの世界を周りながら水島咲と海瀬正義の捜索でもするよ」
テアラ様はそう言って、私の前から消えようとした。しかし、私はテアラ様にこう言った。
「あの! もし水島様と海瀬様を見つけたらこちらへ情報をください!」
「どうしてだい? リガド、君にとってどうでもいい事じゃないのか?」
「どうでもいいことではありませんテアラ様、水島様と海瀬様はこの本当の自分にとってかけがえのない存在です、今私の中にいる彼は廃人状態……彼をまた蘇らせるためには彼女達が必要なんです」
私の言葉を聞いたテアラ様は、優しい笑みと共にこう言った。
「君も人間に情が湧いたのかい? 良いよ、その2人の情報が入ったら君に真っ先に教えるよ。それじゃ」
テアラ様はそう言って、転移魔法でその場を去っていった。
……南へ行きますか。
そして、私はテアラ様の言っていた南へと向かって行った。
※
「リガド? リガド!」
「——ッ!」
ボーっとしていたのか、私としたことが。
「何ボーっとしてん? あ、もしかして彼ピはいないけど好きな人はいる系?!」
「いえ別に好きな人はいません」
「何でやねん! はぁまぁいいか、うん、それでは改めてよろしく!」
彼女はそう言って、私に向けて手を差し伸べてくれた。そんな差し出された手を私は快くその手を取った。
「よろしくお願いします」
※
次の日の早朝、デレックが率いる勇者パーティは街中の声援の中、王国の外門の元まで辿り着く。
「大丈夫ですか? デレック殿」
「ご、ごめん、まだ二日酔いが……ウッ」
「デレック……リガド、デレック《ああいう奴》だけは絶対好きになっちゃダメだよ?」
「そうですね、肝に銘じておきます」
「み、皆、僕のことは気にしないでくれ、この超最強究極の剣と! 僕の封印されし隻眼があれば! 魔王は倒せるはずさ!」
「デレック殿、貴方は隻眼でもないし、今掲げてるモノはただの枝ですよ」
「ヴォエエエエ!」
このパーティ本当に大丈夫なのだろうか……。
そんな事を心配しながらも、王国の外門はガラガラと開かれる。
「ではデレックとその勇者御一行達よ! 魔王の首を討ち取って参れ!」
王様のその掛け声と共に、私達勇者パーティは不安定ながらも立派に歩みを進め、王国を出た。
はずだった……ど、どうしてこうなった。
そう今現在、私達勇者パーティは巨大な魔物の口の中に閉じ込められてしまったのだ……。
「アハハハ! 超ウケるんですけど! 魔物の口の中とかマジでヤバみなんですけどぉ! しかも超クッサ!」
「す、すみません。私がどこからどう見ても罠だった物に引っかかてしまい」
「レイク気にするな、人は誤ちを犯してやっと成長するんだ。んで、その「罠」てなんだったんだ?」
デレックさんが優しく彼を励ますように言うと、レイクさんは懐からあるものをデレックと私に見せてくれた。
「お前、コレは?」
「女の子の模型です」
「「……」」
本当にこのパーティーで魔王は倒せるのか……先が思いやられる。
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