新世界

12話 勇者

 五体の創世神によって作り出された新たなる世界。

 

 その世界で人類は独自に発展していた。

 

 ※

 

「お買い物お買い物」

 

 お母さんにわたされたお金をもち、わたしはいりくんだ建物のろじを走り、近場にあるパンのお店に向かう。

 

「パンを1つください!」

 

「お! 嬢ちゃん、幼いのにおつかいかい? 偉いなぁ」

 

「えへへ、ありがとうございます!」

 

 銅貨3枚をおじさんに渡し、たてに長いパンをもらったわたしは急いで家にむかって走った。

 

 お母さん、わたしが一人でおつかいできたって知ったら、絶対おどろくだろうな!

 

 そう思いながら、包みに巻かれたパンを持ったまま、あることを思いだしその場で止まった。

 

 そうだ、昨日ジェイクに教えてもらったヒミツの道から家にかえろ!

 

 そう思ったわたしは心の中で魔法の言葉を唱える。

 

 フィジカルブースト

 

 そう唱えたと同時に、体のそこから湧き上がってくる力。

 

 そして、わたしは足に少しの力を加え、軽い風を起こし、建物のレンガの屋根に着地した。

 

「うん、この感覚掴んできたぞ!」

 

 ※

 

「ただいまー!」

 

「おかえりなさい、ミレーユ」

 

「お母さん、パン買ってきたよ!」

 

 わたしの家は決して裕福じゃない、でもすっごく貧乏ていうわけでもない、けどねわたしにとって貧乏とか裕福とかはどうでもいい、だってお母さんがいるんだもん!

 

「お母さん! 他になにかすることない?」

 

「そうねー……特にないわよ、遊んでらっしゃい」

 

「やったー! じゃあわたしジェイク達と遊んで来るね!」

 

 わたしはそうお母さんに言って、ジェイク達がいつも遊んでいる遊び場まで走って出かけた。

 

 ※

 

 私がジェイクの元まで行っていた時だった。

 

 ある裏ろじでジェイクとほかの友達が、どこか心配したような目である人物を見ている現場に遭遇した。

 

「お、ミレーユ来たか」

 

「う、うん来たけど……この人だれ?」

 

 わたしはボロボロのフードをかぶった人を指す。

 

 すると、ジェイクは困ったような顔をして、

 

「俺もわかんないだ、たぶんだけどこの人、お金がなくてさまよってる人なんじゃないかな」

 

 ジェイクがそう言うと、他にいた友達は黙ってしまった。

 

「あ、あの、わ、わたしの家に来ませんか? 少しの間だけだったら一緒にすんでもいいよ?」

 

 わたしがそう言うと、ジェイクと他にいた友達は驚いたような視線を私に向けた。

 

「しょ、正気か? 知らない人なんだぞ? 何をしてるのかわからないんだぞ?」

 

「それでも困ってる人を見過ごすことはできないよ」

 

「ミレーユ……分かった! 俺ミレーユのお母さんに少しの間だけ住ませてあげてくれ! て説得する! お前らもだぞ!」

 

 ジェイクはそう言って、後ろにいた残り2人の友達に向かってそう言った。

 

「あ、あのわたしの家まで着いてきてくれませんか?」

 

 わたしが緊張を押し殺しながら言うと、フードをかぶった人は、

 

「いいのですか? 私のような浮浪者を……」

 

「困った時はお互い様、でしょ?」

 

「ありがとうございます」

 

 ※

 

 それからわたしは、フードをかぶった人をわたしの家まで連れて行った。

 

 わたしとジェイクたちはフードの人が緊張しないよう、色々と話しかけた。どこから来たの? とか、なんでこうなったの? とか。

 

 わたしたちのそんな質問にその人は、優しく女性のような声でこう答えた。

 

「私は遠くの国から遠路はるばるここまで辿り着きました。ですが、国を出る時にお金を持つのを忘れてしまい、このようになってしまいました」

 

 とその女の人はそう答えてくれた。

 

 そして、色々な話をしていた時、わたしの家の前まで辿り着いた。家の前に辿り着いたわたしは、家の中に入り、お母さんを家の外に出した。

 

「ミレーユ、この人は?」

 

「あ、あのねお母さん! この人はね、今お金がなくて困ってるらしいの、だからお願いします、いっときの間だけわたし達で引き取ってみない?」

 

「……ダメよ」

 

「え……なんで!?」

 

「ミレーユ、貴方、身も知らない人を家にあげるつもりですか? それにわたし達は貧乏なのよ? 2人で生活するのに手一杯なのにもう1人、しかも友達でもない身も知らない人と生活するなんて私は賛成できないわ」

 

「でもお母さん! 困っている人がいたら助けなさい、ていつも言ってるじゃん!」

 

「こうなってきたら話は別よ」

 

 わたしとお母さんがそう話していると、わたしはジェイクに視線を送る。が、ジェイクはお母さんのオーラに怖気付いたのか、わたしから視線を外した。この臆病者め!

 

 何もかもダメだと思った時だった。

 

「ミレーユさんのお母様」

 

 突然、フードをかぶった女の人がそう言った。

 

「お、お母様?」

 

「確かにお母様に言っていることは別に間違ってもないことです、お母様の方が正しいのは私でも分かります。ではここは交換条件でどうでしょうか?」

 

「交換条件?」

 

「はい、先程ミレーユのお母様は『お金がない』と言っていましたね、では私がミレーユさんとそのお母様が何不自由ないようお金を調達してきます。これでどうでしょうか?」

 

「お母さん! この人もそう言ってるんだからさ、お願いします、お母さん! わたしのわがままを聞いて!」

 

「……はぁ、ミレーユの初めのわがままか、良いわよ、そこのあなた、名前はなんて言うの?」

 

「リガドと申します」

 

 ※

 

 その日からリガドさんはわたしの家で過ごすことになった。

 

 フードを脱いだリガドさんの長髪は綺麗で、その青い宝石のような目は美しい、なによりその端麗な顔は誰もが目線を集めるほどに美しかった。

 

「ミレーユのお母様、私に仕事を与えてくれないでしょうか? 無理難題の仕事でもやり遂げます」

 

 リガドさんはわたしのお母さんに跪き言った。そんな彼女の言葉にお母さんは驚きながらも、こう言った。

 

「仕事て言ってもね……そうだ、まずは家事を手伝ってくれるかしら? その後にあなたに農業の仕事を手伝ってもらうわ」

 

 ※

 

 ミレーユ様のお母様から言い渡された家事を手伝い、それが終わると、私はお母様にある場所へ連れていかれた。

 

 そこは野菜などが育てられている畑だった。

 

「……畑ですか」

 

「そうだよ、うちは農家だからね。農家、儲からないけど、それなりには生きていけるから楽なんだよ、ダメになった野菜は売れはしないけど食えはする。ほらボーッとしてないで野菜を収穫するよ」

 

 お母様の話を聞いてふと、私はあることを疑問に思い、ミレーユのお母様に問う。

 

「あの、魔法を使って収穫はしないのですか?」

 

「魔法? そんな大層なもの私には使えないよ。魔法が使えたらこの仕事も楽になるんだろうけどさ。ほらさっさとやる——ッ!?」

 

 それほど珍しいものなのだろう、魔法の構造が最適化されていた前の世界と比べて、この世界では魔法はとても貴重なものらしい。

 

 そんなことを思いながら、私は無から魔法の杖を生成し、複数の物を持ち上げる魔法を使い、一気に農作物を浮かせ、収穫カゴの中に入れる。

 

「あ、貴方……魔法が使えるの?!」

 

「はい、程々ですけど」

 

「じゃ、じゃあ私の娘に魔法を教えてやってくれないかい?! うちはお金がなくて魔法の教本とか学校には行かせてあげられないからさ」

 

 目をキラキラさせながら、ミレーユのお母様は私の両手をとり言った。

 

 行き場のない私をこの家で置いてもらっている事もあり、私は喜んでその願いを受けた。

 

 ※

 

 魔法、それは体の中に巡る魔力を使い、不思議な事象を起こすことが出来る術。

 

 魔法を使うにはまず魔法の構造などを理解する必要がある。前いた世界では誰でも魔法が使えるように、魔法は最適化されていた。

 

 でもこの世界で魔法は最適化はされていない、つまり、0から魔法の構造について理解する必要がある。めんどくさい工程だ。

 

「ミレーユさん、貴方は今何歳ですか?」

 

「わたし? 9さいだよ!」

 

「そうですか、分かりました。まず魔法の実践に入る前に魔法について教えます」

 

 それから私は一日また一日をかけて、ミレーユさんに魔法とは何か、どうすれば魔法を効率的に打てるのかを教えた。

 

 すると、まだ幼いからか魔法の知識について飲み込みが早い。

 

 魔法の知識を教えて、6ヶ月が経った頃だった。

 

「ねぇリガド! 私魔法を使ってみたい!」

 

 魔法の知識を教えて5ヶ月以上、うん、今の彼女になら上級魔法までなら使える筈だ。

 

「分かりました、次は魔法を教えます。ですが、魔法の知識もまだ勉強してもらいますからね」

 

「分かった!」

 

 ミレーユさんはそう言って、嬉しそうにしながら、家のベランダへ出ていった。

 

 私はそんな彼女の後ろ姿を見て、つい頬を緩めてしまう。

 

「本当の自分が戻るまで、人間として生きていくのも悪くありませんね……」

 

 ※

 

「揺らめく小さき炎よ、我が目の前に顕現せよ、フレア!」

 

 ミレーユさんはそう言って、手から小さな炎を出して見せた。

 

「やった! 出た出た! リガド! 出たよ!」

 

「そうですね、でもこれはまだ初級の初級、どんどん魔法を打ってもらいますよ」

 

「任せて!」

 

 そして、魔法を打つ練習をして、また勉強をしての日々が始まった。

 

 夏、秋、冬、春、季節を何回もまたぎながら、魔法の修行をして行き、3年が過ぎた日。

 

「揺らめく大きな炎よ! 今こそ我が手から顕現せよ! ヘルフレア!」

 

 ミレーユさんがそう唱えた時、爆発するような音ともに、凄まじい炎が一瞬だけ顕現した。

 

「やったよ! リガド! これが上級魔法?」

 

「そうです、おめでとうございます、私が今あなたに教えてあげられるのはここまでです」

 

「えー、もっとすごい魔法打ちたいよー」

 

「それは貴方が魔法大学に行ってからにしてください」

 

「わかりました〜」

 

 平和な日常だった、ただの平和で何不自由のない生活だった。

 

 しかし、不幸はいつも唐突に訪れる。

 

 ミレーユさんの誕生日の日の事だった。

 

「お母さん、帰り遅いなぁー」

 

 いつもは昼から作物を収穫して、夕方には帰ってくるはずのミレーユのお母様。ですが、今日に限って何故か夜になっても帰ってこない。

 

 ミレーユさんに限界が来たのか、彼女がお母様を探しに行こうとした時だった。

 

 突然、ドアが蹴破れた。

 

 咄嗟にドアの方へ見ると、そこには暗い様子のミレーユさんのお母様が居て、他にはこの国の騎士と思われる人間が数人いた。

 

「お、お母さん!?」

 

「ご、ごめんなさいミレーユ、本当にごめんなさい」

 

 わけも分からない状況で、ミレーユさんのお母様はただひたすらに泣くだけだ。

 

 そんな意味のわからない状況の中で、1人の騎士が声を上げる。

 

「貴様がミレーユだな」

 

「な、なんでお母さんが騎士さんといるの!?」

 

「貴様の母親は今日の夕方に市場で盗みを働いた。よって連帯責任としてミレーユとその母親を処刑する! 異論は認めない、さぁ来てもらおうか」

 

「ミレーユ! 逃げなさい!」

 

「え……でもお母さんが」

 

「いいから逃げなさい!」

 

「大罪人は口を慎め! おい、ミレーユを捕まえろ」

 

「「りょうかい」」

 

 ミレーユさんのお母様を捕らえている騎士は、他にいた騎士にそう指示した。

 

 そして、2人の騎士はミレーユの元へ歩み寄る。

 

「さぁこっちに来い!」

 

 1人の騎士がミレーユに手を出そうとした時、ミレーユはボソボソと何かを言っている。

 

 ——まさか!?

 

「やめてください! ミレーユ!」

 

「「「?」」」

 

「ヘルフレア!」

 

 ミレーユさんはそう言って、2人の騎士に向けて上級魔法の炎魔法を唱えた。

 

 ゴオォォォという音ともに、彼女の手から炎が噴いた。

 

「チッ、魔法を使うのか! 騎士に攻撃をするというのなら貴様は極刑だぞ!」

 

 いくら上級魔法であっても、鍛え上げられた騎士を倒すのは不可能。

 

 そして、酷いことに騎士は剣を抜き、ミレーユに向かって剣を振り上げる。

 

「やめて! 娘だけは! 娘だけは!」

 

「ここで死ぬといい! 大罪人め!」

 

 騎士はそう言って、剣を勢いよく振り下ろした。

 

 ——そして、ミレーユは騎士の手によって、胸を切り裂かれてしまった。

 

「イヤアアアアアアア! ミレーユ!」

 

 糸が切れたように倒れるミレーユ。

 

「ミレーユ……さん」

 

「うん? 貴様も大罪人の仲間か? 死にたくないなら、大人しく私達に着いてこい。ま、どうせ処刑だがな?」

 

 彼女の体の下から広がっていく血。

 

 その瞬間だった、私にプログラムされていた何かが作動した。

 

『感情が高ぶっております、危険です。落ち着いてください』

 

 落ち着く? 目の前で教え子が死にそうなのに? なんの罪もない人間が死にかけてるのに?

 

 その瞬間、私は初めて怒りという感情を知った。こんなにも腹が煮えくり返る感情は初めてだ。

 

「着いてこないのだな、では貴様もあの娘のように死ねい!」

 

 私に向かって剣を振り上げる騎士。

 

「た、助け……て、リガ、ド」

 

 掠れた声で私に助けを求めるミレーユ。

 

 打ち震える怒りの中、私にプログラムされた制御システムが私の視界に映る。

 

 私に向けて振り下ろされる刃。

 

 ——次の瞬間だった、私に搭載された制御システムが、私の怒りによって破壊された。

 

「——ッ!?」

 

 そして、私は瞬間的な速さで1人の騎士の腹部に手を付け、唱えた。

 

「インフェルノ・フレア」

 

 凄まじい程の爆炎と豪炎が1人の騎士を包み込み、奴の纏っていた鎧を、皮膚を、骨を溶かし、消し炭にした。

 

「次」

 

「む、無詠唱で魔法を!? き、貴様、な、何者だ!?」

 

 ミレーユのお母様を捕まえていた騎士が動揺する。

 

「調子に乗るな!」

 

 もう1人残っていた騎士が左から、私に向かって襲いかかる。

 

「失せろ」

 

 私は完全無詠唱魔法でインフェルノ・フレアを唱え、もう1人の騎士も消し炭にした。

 

「く、来るな! 来るならこの母親を殺すぞ!」

 

 そう言ってミレーユのお母様の首に剣を向ける騎士。だが、怒りに震える私は、無言のまま騎士の元へ、1歩また1歩、歩み寄る。

 

「死にたくないのならば、早くミレーユさんのお母様を離せ——ッ!」

 

 私がそう言った時、私は咄嗟に魔力を使い高密度のバリアを張る。

 

 ——その次の瞬間、私に降り掛かる強大な一太刀。

 

 火花を散らしながら、私はその一太刀を受け止めた。

 

 とてつもなく速い、この力量、あの七英雄のアマテラスにも匹敵する力。

 

「おいおい、強いねぇ〜、俺の一太刀を受け切るとはねぇ〜」

 

「貴方は何者ですか?」

 

「名乗る者でもないさ、いや、アンタのその実力を見る限り名乗っといた方が良いか」

 

 目の前に現れた黒髪の男はそう言うと、すぐに攻撃をやめた。

 

 私はその隙にミレーユの元へ行き、彼女に回復魔法を施す。

 

「俺は近衛騎士団このえきしだんの1人、アルゼンベークだ。ちと散歩してたらこの現場に遭遇したもんでな」

 

「……仲間が殺されて何も感じないのですか?」

 

「感じねぇな、特に接点もないしな。ま、そんなことより、少し交渉しねぇか?」

 

「交渉?」

 

 アルゼンベークはそう言って、ニヤリと口角を上げた。

 

「アンタの力を見込んでアンタをある勇者の御一行に加入させたいんだ。アンタがその勇者パーティに入るってなら、今回のアンタの罪も、この親子の罪もなかったことにしてやる。どうだ?」

 

「……その勇者パーティに入れば、ミレーユさん達の罪は無くなるんですね?」

 

 アルゼンベークの言葉に疑いを持ちながら言うと、彼は口角を上げたまま言った。

 

「安心しろ、俺は嘘はつかねぇ。どうだ? 良い条件だと思うけどよ」

 

「分かりました、彼女達に危害を加えないのであれば」

 

「よし、それじゃ明日の早朝、パラミア王国の宮殿に来い。出迎えてやる」

 

 アルゼンベークはそう言って、ミレーユのお母様を捕まえていた騎士を連れて、去っていった。

 

「リガド、ホントに行くのかい?」

 

「そうですね、もう約束したので。ミレーユさんには『旅に出た』とだけ言っておいてください」

 

「分かった、気をつけるんだよ」

 

 ※

 

「さぁ参れ、魔法使いのリガドとやら」

 

 次の日の早朝、私はパラミア王国の宮殿の王の玉座がある部屋の扉を開けた。

 

 扉を開けると広がる豪華な部屋。そして、その部屋の玉座に座っているのは、パラミア王だった。

 

「貴様が我が騎士団の内2人をあの世に葬ったのか。それにしても美しい顔をしておる。魔女という言葉がふさわしいな。さて、話は聞いておると思うが、リガドよ、貴様は今日からデレック・ゾディアック勇者のパーティに入ってもらう拒否権は無い。では入ってこい、勇者とその御一行」

 

 王がそう言うと、前の扉が開かれた。その扉から現れたのは、凄まじい貫禄を漂わせている勇者とその御一行達だった。

 

 赤髪の勇者と思われる男は、何一つ顔色を変えずまま、私の元へ歩み寄る。そして、

 

「君が魔法使いのリガドだね? よろしく、僕はデレック・ゾディアック。七大勇者の1人さ」

 

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