16話 勇者捕まる

「フッ、どうしたんだい? デレック・ゾディアック、そんな退屈そうな顔をして……」

 

 突然、私達の目の前に現れたのは、アウラ王国の七大勇者の1人である、フラームさんだった。

 

 私達と出会したフラームさんはキラキラとした口調と目で、デレックさんに歩み寄る。

 

 そんな歩み寄ってくる彼にデレックさんは、酷く面倒くさそうな顔をし始める。

 

「いや、相変わらずだなと思っただけさ。このナルシスト(ボソッ)」

 

 デレックさんがボソッと小声でなにかを言うと、フラームさんは前髪をかきあげ、ポーズを決め、

 

「どうとでも言いたまへ! そ、れ、よ、り!」

 

 フラームさんは言いながら、次にスタスタとレイクさんの元へ寄ると、

 

「レイク君! 君ィ、いつになったら私の模型を作ってくれるのだね? この! イケメンの! 私を!」

 

 そんなことを言われたレイクさんは、デレックさんと同様にめんどくさそうな顔をして、

 

「はいはいフラーム殿、作れたら作りますからね〜。皆さん早くフラーム殿こんな奴置いて行きましょう」

 

「だねだね〜」

 

 レイクさんの言葉に賛同するように、ヘレナさんもそう言って、フラームさんから離れる。

 

 私がデレックさん達の後を追おうと、フラームさんを横切った時だった。

 

「——ちょっとそこの君、止まりたまえ」

 

 と言って、私の肩を掴んできた。そして、フラームさんは突然私の頭や体を鼻で嗅ぎ始めた。

 

「ど、どうかされましたか?」

 

 意味不明な状況に困惑していると、フラームさんは私の体を嗅ぎ終えたのか、こちらの何かを探るような目つきでこう言った。

 

「この匂いは初めてです。まるで魂が2つあるような。そして、その2つのうちの1つの魂は酷く傷ついて眠っている……貴方何者ですか?」

 

「——ッ……ただの魔法使いです」

 

「……そうですか、ならいいのですが」

 

 フラームさんはそう言い残し、私の前から去って行く。そして、私がデレックさんの元へ行こうとした時だった。

 

「——ッ!?」

 

 まるで気配がなかった女性が私の横を横切った。そう気配がなかったのだ、私は少しだけだが魔力を探知できる、その魔力探知にも引っかからなかったのだ。

 

 そう驚きながら私は咄嗟に後ろへ振り向いた。フラームさんの後を追う彼女の姿は、整えられた綺麗なピンク色の髪の毛、そして、こちらをチラリと見る紫根の瞳……何者だ?

 

「おーい、リガド、早く行くよ〜」

 

 彼女の存在に驚いて立ち止まっていると、遠くの方でデレックさんが私を呼びかけていた。

 

「……すいません、今行きます!」

 

 ※

 

 王がいる王室前まで来た私達勇者パーティ。デレックさんは少し大きなドアに数回ノックをした。

 

「入りたまえ」

 

「失礼します」

 

 王の声が聞こえた為、デレックさんはそう言って、そのドアをゆっくりと開けた。ゆっくりと開けたドアの先にいたのは、赤いマントを羽織い、金ピカに輝く王冠を被った、髭を蓄えたアウラ王が居た。

 

「ほう、貴様がパラミア王国から来た七大勇者の1人、デレック・ゾディアックか……——ッ!?」

 

 平然と立っていた王が突然、何かを発見した様子になり、目をかっぴらいた。

 

「おいそこの女子おなご

 

「お、おなご?」

 

 アウラ王は何故か私を見てそう言った。すると、アウラ王はスタスタと私の元へ歩み寄ると、私の腰を抱き寄せ、

 

「儂と結婚しよう」

 

「は、はい?」

 

 突然の求婚に困惑する私を見ながら、レイクさんはハァと溜息をつき、

 

「出ましたね。アウラ王の可愛い子好き症候群……」

 

「う、うちは!?」

 

「いやヘレナ殿は前アウラ王と会った際に言われたでしょ?」

 

「言われてないんじゃが!?」

 

「それはともかくデレック殿、アウラ王を一度止めてください」

 

 レイクさんはやれやれとした雰囲気でデレックさんにそう頼むと、デレックさんは任せとけという雰囲気でアウラ王に歩み寄る。そして、アウラ王の肩を掴み、

 

「おいジジイ、リガドは僕のモノだ」

 

「——お主極刑」

 

「へ?」

 

 アウラ王がそう言って、デレックさんを指さした時だった。どこからか現れた騎士たちが、デレックさんを引きづりながら処刑台へ連れていこうとする。

 

「リガドォ! アウラあの人を止めてぇぇぇ!」

 

 と見苦しい事に、泣き喚きながら私に向けて言うデレックさん。

 

「あ、あの」

 

「どうしたんじゃ(キリ)、無礼者は儂が殺すぞい(キリ)」

 

「そ、そうではなく! デレックさんを開放してもらえないでしょうか! 私の大切な人なのです!」

 

「そうか(キリ)、チェッ、おいそこのデレック《馬鹿野郎》を解放しろ」

 

 デレックさんが無事解放された後、私達はアウラ王と世間話をしたりして挨拶を終わらせ、そのまま王室を出た。

 

「ふぅ、危なく処刑台に送られるところだったよ……」

 

「デレック、今回はどう考えてもアンタが超悪いよ? 王様にジジイなんて言う奴、多分この世界でアンタだけだよ……」

 

「フッ! でも! 僕のこの封印されし右目デウスがあればあの状況は回避出来たけどな!」

 

「デレック殿、貴方にそんな目はございませんよ、本当にあの状況、リガド殿がいなければそのまま処刑台に送られてましたよ」

 

「それもそうだな、この後リガドには沢山ご馳走をしてあげないとね」

 

 デレックさんがそう言うと、私達はアウラ王国の宮殿を出た。

 

 ※

 

「あれがアウラ王国ね〜、綺麗な王国じゃない。でもこれから私がもっともっと綺麗にしてあげるわ。綺麗な更地にね?」

 

 アウラ王国が見渡せる上空で私は、獲物を見つけた蛇のような目つきで言った。

 

「あまり、気楽に行くなよブーゼ、人間という生き物は案外、勘のいい生き物だからな」

 

「何を言ってるの? ヴット、人間は勘の悪い生き物よ。貴方の擬態があればね」

 

 私が隣にいたヴットにそう言うと、ヴットはこちらへ鋭い視線を向けてきた。

 

「私達は魔王様直属の配下、ヘタレたマネは出来ないわ。ま、失敗するわけないだろうけど……」

 

「その自信は一体どこから来るんだ? ブーゼ」

 

 こちらを探るような目つきで見てくる彼に、私はその自信がどこから来るかを教えた。

 

「デレック奴らが苦戦していたオモチャを見つけたのよ。近々、この国を混乱に導けばこの国は終わるわ。私の3万を超える軍勢があればね」

 

 ※

 

「このクエストを受注するんですね!」

 

 私達勇者パーティは、夜のご馳走に向けて、お腹を空かせる準備運動として簡単なクエストをギルドで受注した。

 

 そのクエスト内容、それは最近国の近くに巣を作り出した赤飛龍と青飛龍の討伐。

 

 早速、アウラ王国を出た私達勇者パーティは、国の近くにある赤飛龍と青飛龍達の巣に赴いていた。

 

「あらあら、飛龍達が沢山居ますね〜。これは少し肩がこりますねぇ〜」

 

「あの飛龍……焼いたら超美味いのかなぁ〜」

 

「ヘレナ絶対に食べちゃダメだぞ。……ここは僕単独でも行けるが、効率を考えたら皆で行った方が良いか……よし、レイクやれ」

 

「あいあいさー!」

 

 デレックさんのその言葉を聞いたレイクさんは、すかさず地面に両手を置く。その瞬間、地面から無数の鋭く鋭利な岩がゴツゴツと湧き出ると、飛んでいた飛龍達の体を次々と貫くと同時に、飛龍達の逃げ場を塞いだ。

 

「皆さん! 今です!」

 

 レイクさんの言葉と同時に私とデレックさん、ヘレナさんは同時に飛龍達の殲滅に動く!

 

「インフェルノ・フレア!」

 

 私は上空にいる飛龍に向けて魔法を放った。

 

 放たれた最高位の炎魔法インフェルノ・フレアは、綺麗に上空で爆発した。

 

 空から無数に降り落ちてくる炎の塊を避けながら、デレックさんは飛んでいた飛龍やらを殲滅していく。

 

 一方のヘレナさんは召喚した上位精霊達に戦闘を任せ、飛龍達の作っていた巣を漁っていた。

 

 そんな戦闘が夕暮れまで過ぎた頃、百数十匹いた飛龍達は殲滅された。

 

「147匹、150、全部で150匹ですね。これなら金貨20枚はくだらないでしょう」

 

 持ってきていたデカい荷車に、飛龍達の死骸を積む。

 

「……?」

 

 私がふと後ろへ視線を向けると、飛龍達の巣があった場所に洞窟があるように見えた。

 

 突然私が後ろへ振り向いた事に疑問を思ったのかデレックさんは、

 

「どうかしたか? リガド」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 そんな会話をして、私達は王国へ帰還した。

 

 ※

 

「全部で150匹、王国の近くに作っていた巣を殲滅してきました」

 

「はい、ありがとうございます。150匹の飛龍なので金貨23枚でございます!」

 

「ありがとうございます」

 

 デレックさんはそう言って、ギルドの受付嬢から金貨を受け取った。が、少し気になっていることがある……それは周りにいる冒険者達が冷たい目線で見てくること。

 

「チェッ、飛龍を150匹倒したぐらいで金貨23枚とか、さすが勇者様だな」

 

「だよなぁー、勇者ていう肩書きだけでお金が俺たちより貰えるからなぁ〜」

 

 私達に対する冷たい声が聞こえてくる中、デレックさんはフッと笑い、

 

「おい君たち! 今晩の酒や食べ物全て僕達が奢ろう!」

 

 デレックさんはグッと固めた拳を上げ言うと、今さっきまで冷たい目線と言葉を言っていた冒険者達が「ウオォォォ!」と声を上げた。

 

「やっぱ、勇者様は最高だせぇ!」

 

「よ! 最高の勇者様ッ!」

 

「……デレックさん、これで良かったのですか?」

 

「良いじゃないかリガド、食事はにぎやかな方が楽しいだろ?」

 

「……そうですね」

 

 綺麗な手のひら返しを見せた冒険者達と一緒に私達は、次々と出される料理でクエストで空かしたお腹を満たしていく。

 

「おしゃけー! おしゃけーを! 持っへきてぇ〜」

 

「デレックさん、そんなに飲むと体に悪いですよ」

 

「リガド殿の言う通りです。デレック殿、飲みすぎはダメですよ」

 

 レイクさんはそう言って、デレックさんからお酒の入ったジョッキを取った。すると、デレックさんはまるで子供のような態度で、

 

「レイク〜、返してよ〜それ僕のお酒〜」

 

 と言っていた。

 

「デレック、アンタ、リガドとレイクの言う通りお酒は控えた方が超良いよ〜? それ何杯目?」

 

「え? 25杯目だけどぉー?」

 

「「「あ、アル中だ……」」」

 

 彼のあまりの量に私達はそう呟いてしまった。

 

 それからもデレックさんはお酒を飲み続け、私達はそれを必死に止めつつも、出された料理を食べていった。

 

 ※

 

「ヴォルルルルルルッ! オロロロロロロ!」

 

 食事を終え、営業時間を終えたギルドの外でデレックさんは、冒険者達に囲まれながら嘔吐していた。

 

「す、スゲェ、勇者なのにアル中だなんて……」

 

 めちゃくちゃ外でデレックさんが吐くので冒険者達は、心配した様子でデレックさんの背中を擦っていた。

 

「ごめん、皆、勇者なのにこんな無様な姿を見せてしまって……でも! 魔王は僕が倒してみせるさ! この超究極最強の剣さえあれば!」

 

 とデレックさんは意気揚々と剣を空に掲げた。

 

「デレック殿、それジョッキです」

 

「ヴォエエエエエエエエ!」

 

 ※

 

 リガド達がギルドで食事を終えた頃、アウラ王国の宮殿では、アウラ王国の勇者、フラームとアウラ王が王室のベランダでお酒を飲んでいた。

 

「いやぁ、またアウラ王と一杯飲めるなんて」

 

「チェッ、儂はお主のようなオッサンとではなく、リガドちゃんのような可愛い女子おなごと飲みたかったのに……」

 

「アウラ王もご冗談がお上手なようで、本当は私のようなイケメンと! 飲めることを内心喜んでいるじゃないですか?」

 

「フラームお主、酒かなんかで自分に酔っておるな?」

 

「ハッハッハッ、酔ってはおりませんよ? 事実を述べただけですよ……それより、ここ最近魔王軍の進行が予想以上に進んでいる。私ももう少ししたら前線へ出るのでこの国を出ます」

 

「そうか……お主のような実力者がいなくなるのは少し寂しいな」

 

「いえいえ、たまには帰ってきますよ」

 

「そうかなら心配は無いな」

 

 彼らもまたリガド達のように楽しく飲み、食事を終えた。

 

「……それではアウラ王よ、私はこの辺で」

 

「うむ、出ていってよろしい」

 

 アウラ王がそう言うと、フラームは軽くお辞儀をし、王室から退出した。

 

「……さて、後は寝るとしようか——ッ!?」

 

 アウラ王がそう言って、寝る準備に入ろうとした瞬間だった。突然、外のベランダから刃が飛んでくる。

 

 飛んできた刃は正確にアウラ王の心臓を狙いに来ていた。——が、その刃を突然現れたフラームが阻止する!

 

「ふ、フラーム!」

 

「アウラ王よ、落ち着いて、私の仲間の近くにいてください」

 

 腰を抜かしたアウラ王の近くには、ピンク色の髪と紫根の瞳をした女が立っていた。アウラ王はその女に縋り付く。

 

「ルーイッチ、アウラ王を必ずお守りせよ」

 

「了解しましたフラーム様」

 

 緊張が走る場面の中、フラームとルーイッチだけは冷静でいた。

 

「——ッ、貴様は」

 

「おやおや、しっかりとアウラ王を狙ったつもりだったんだけど外したか……お久しぶりですね、フラームさん」

 

「デレック・ゾディアック……なぜ善良で勇者の貴様がアウラ王の命を狙う?」

 

「狙う理由? そんなの簡単ですよ。この国を終わらせるんですよ……でも、この状況は僕にとっては不利だ、ここは退却させてもらいますよ」

 

「逃がすとでも?」

 

「——ッ!?」

 

 フラームは鋭い猛獣のような眼光で、デレックに向けて、剣に炎を纏わせ、構えた時——フラームは瞬間的な速さでデレックに詰め寄る。

 

 ——そして、デレックの胸を炎の刀身が大きく切り裂いた。

 

 胸を切り裂かれたデレックの体は、王室のベランダから落ちていった。ベランダから落ちたデレックを見たフラームは、何かを察したような顔でいた。

 

「……アウラ王、お怪我は無いですか?」

 

「あぁ、怪我はない……奴は本当にデレック・ゾディアックだったのか?」

 

「はい、彼の魔力と顔と体からすると、アレはデレック・ゾディアックでした。私の予測ですが、まだ彼は生きています」

 

「そうか……この国を勇者が終わらせるのならばそれはそれで魔王よりも脅威だ。フラームよ、デレック・ゾディアックを捕縛してくるのだ。奴はこのアウラ王の手で処刑する」

 

 ※

 

 次の日の早朝、その日の宿はやけ騒がしかった。

 

「おい! 勇者デレック・ゾディアックを出せ! 王の暗殺を企てたことで捕縛しに来た!」

 

「「「「え?」」」」

 

 この国を出ようと準備をしていた時、アウラ王国の騎士達が宿のドアを蹴破り、デレックさんを囲う。

 

「あ、あのぉ、これってどういう状況?」

 

 そして、この日、デレックさんは騎士達によって捕まった。

 

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