10話 現実と絶望

 雲一つない晴天の空が、暗雲立ちこめる曇り空となり、鼓膜を揺らす程の雷の音が周りに響く。

 

「まさか! ゼッドと同じスキルを持つ奴がいるとは! この世界は広いものだァ!」

 

「ガルリアス殿、笑ってる場合じゃないですよ! ゼッドの仇をとって、人類を根絶やしにしなければならないのですよ!」

 

「おい、デカブツとそこヒョロがり、遺言はそれでいいんだな?」

 

「「あぁん!?」」

 

 ヘンテコなアホそうな奴を煽ってやった——そして、相手に認識できないほどのスピードで、まずベルゼブブとかいうヒョロがりの顔面を殴り飛ばした。

 

 七英雄の一人が簡単に殴り飛ばされたことに、驚くガルリアスとかいうデカブツは、大きく拳を上げる。

 

 ——たくっ、本当は使いたくなかったが……。

 

「こい、意思ありし剣よ」

 

 俺がそう言うと、どこからともなく以前スキルで創り出した剣が飛んでくる。——俺はそれをパッと瞬時に握り、スキル「避雷針」の能力を使い、落雷のような閃光の一撃をデカブツにぶつける。

 

 完全な致命傷だと確信していた——が、それは違ったようだった、デカブツは口端から血を流しながら笑った。

 

 そして、デカブツは俺の頭を鷲掴みにし、俺の体を思いっきりボールを投げるように、投げ飛ばした。

 

 それに連携するように、俺がヒョロがりを殴り飛ばした方向から、ベルゼブブが顔を出す!

 

 ——次の刹那、ベルゼブブの見えない斬撃が飛ぶが、意思ありし剣はそれに対応するように、その斬撃を次々といなす。

 

 しかし、斬撃で手一杯の俺に向けて、デカブツことガルリアスとかいう野郎は、俺を王国の方へ、大爆発を乗せた殴りを飛ばした。

 

 王国の王都の方まで吹き飛んだ俺は、俺の体で壊された建物の瓦礫を退かしながら、相手が来るのを待つ。

 

「こ、これは一体どういう状況だ!?」

 

 一人のおっさんがブチ切れた様子で俺に向かって言ってきやがった。

 

 コイツは今の状況も把握してねぇのか……これだから王都の野郎共は。

 

「悪いことは言わねぇ、早くそこから逃げ——」

 

 その瞬間だった、見えない光のような一撃が王都の建物を横真っ二つにする!

 

 ——そして、気づけば俺以外のそこらにいた人間共は首を斬り飛ばされていた。一方の俺はベルゼブブの斬撃を間一髪の所で受け止めていた。

 

 ジリジリと刃と刃が軋む音が鳴る中、俺の背後からガルリアスが攻めてくる!

 

 ——クソッ魔法を使うしか!

 

 咄嗟にそう判断した俺は、炎魔法の最高位魔法を打とうとした——が、それは不発に終わった。

 

「なんだと!? ——ッ!」

 

 その瞬間、ガルリアスの拳が俺の体をまた遠くの建物の方へ殴り飛ばす。

 

 巨大な爆発音と共に俺に迫り来るガルリアスと、ミシミシと細かな光を散らしながら接近してくるベルゼブブ。

 

 なんで魔法が打てなかった? おい天の声! 何で魔法が打てない!?

 

『解析します……解析しました。魔法が打てない原因はこの王国を覆っている結界によるものです。この結界はある魔法でないと破壊できません』

 

「その魔法はなんだ!?」

 

『ある者のプログラムにより、それはお答え出来かねます』

 

 ——クソっ、無能なヤツめ!

 

 天の声と話している間にも接近してくる2人の七英雄。

 

 吹っ飛ばされる最中俺は、王都にあった時計塔の壁に着地し、奴らを迎え撃つ。

 

 魔法が使えねぇなら、スキルで潰す! 鼓動ビートを上げろ! 体を躍動させろ!

 

 避雷針の効果を最大限にまで高める俺は、巨大な雷を自身に纏わせる!

 

 そして、奴らが俺の視界に入った瞬間、俺はビリッという稲光を見せ——次の刹那、俺は誰にも認識できないような速さで、ベルゼブブの首を狙いとる!

 

 ——が、それにも対応するように、奴は俺の攻撃を紙一重で受け止めやがった!

 

「やるじゃないですか! 剣の一流の使い手の私がここまで迫力のある剣使い手は見た事ないですよ!」

 

「黙って死んでろ!」

 

 バキバキと金属が擦り合う音の中、ガルリアスは爆発を乗せたパンチを俺にぶつけようとする!

 

「そう来ると思ってたぜ!」

 

「「——ッ!?」」

 

 ——次の瞬間、再び俺は巨大な雷を降らせ、ガルリアスの攻撃が来る直前で雷を再び纏う。

 

 凄まじい爆音と威力の高い雷の攻撃がガルリアスとベルゼブブを襲う。

 

 そして、その2人の一瞬を見逃さなかった俺は、雷如く速いスピードで奴らの背後を取る。

 

 俺が背後に回ったことに気づかない奴らは、アタフタと周りを見渡す。

 

 ——その瞬間、俺は持っていた剣を2人に向けて投げつける!

 

 その剣を見た奴らは同時に剣を避ける——が、その方向に俺は待ち構えていた。

 

「「——しまっ!?」」

 

 俺は雷のような爆音を轟かせながら、2人の顔面を重ねて殴り飛ばす。

 

 ※

 

 謎の白仮面のキモイ野郎に、王都まで吹き飛ばされた私は、崩れた瓦礫の中から体を出す。

 

「あの一撃で死なんとは……テアラ様が期待している人間なだけあって丈夫そうだな」

 

「誰だァ? 手洗い? テアラ? キメェ名前だなぁ!」

 

「テアラ様の名前をバカにするとは、アホも大概にしろ」

 

「アホなのはテメェら侵略者じゃボケ」

 

「そうか……だが、我らにとって地球にとって人間という存在は必要のないモノだ。テアラ様から『殺すな』とは言わていたが、殺すしかないようだな」

 

「殺してみろよ——バァカ!」

 

 フィジカルブース——ッ!?

 

 私が心の中でそう詠唱しようとした時、頭に電流が走るような痛みが襲ってくる。

 

「気づいたようだな、この王国の中では魔法は使えん、つまり貴様の得意魔法であるフィジカルブーストは使えんぞ」

 

「あっそ、てめぇなんてフィジカルブーストなしでボコれるわ!」

 

「やれるもんならやってみろ」

 

 奴がそう言って剣を構えた——その時、私は大地を砕く程の踏み込みを入れ、瞬時に奴の間合いをとった!

 

 そして、落雷のような一撃を奴にぶつける——が、そんな自信満々の一撃を奴は軽々と両手に持っていた剣で受け止めた。

 

「チッ!」

 

「いい攻撃だ、いいスピード、いい瞬発力、素晴らしい、人間であること自体が欠点だがそれ以外は100点だ」

 

 奴はその次の瞬間、私の前から消えた。そして、気づけば奴は私の背後をとっていやがった!

 

 クソッ! この距離! 攻撃は避けられない! なら!

 

 私は迫り来る攻撃に備え、体を反らし、多少の傷を負ったが相手の斬撃を避けた。

 

 バケモノだ、しっかし、楽しくなってきたァ!

 

 奴は間髪入れずに攻撃を仕掛けてくる、私は傷を負いながらも奴に迎撃の斬撃を入れる。

 

 刃と刃が本気でぶつかり合う音の中、変態仮面野郎は傷一つも負っていない!

 

 愛用していたフィジカルブーストも使っていないため、素早い動きが出来ない状態で、奴は綺麗な回し蹴りを放ってきた。

 

 急いで腕を上げガードに入る!

 

 が、奴の蹴りは凄まじい程のパワー。

 

 骨が軋む音が聞こえながらも、私は何とか受け止めた。

 

 ——その次の瞬間、見えていた奴の斬撃が見えなくなった!

 

 そして、それに対応しきれなかった私の腹部に、刃が貫通する。

 

「——グハッ」

 

 思わず口の中から血が溢れ出る。

 

 そして、一瞬、一瞬だけ私の動きが鈍くなった。

 

 奴はその鈍くなった私を見ても、斬撃を止めることはしない。むしろ、攻撃を強めてきやがる!

 

 無数に体中を刺される感覚の中、私は奴のほんの一瞬の隙を見計らっていた。

 

 ——その時だった、私の左目の様子がおかしくなった。

 

 血がどんどんと抜けて視界が暗くなるのは分かる、だが、私の左目にそんなことはなく、むしろ奴の攻撃の残像のようなものが見えてきた!

 

「——何!?」

 

 私がほんの一瞬の瀬戸際の中で手に入れたモノ……それは相手の攻撃を予測し、避けることが出来る感覚だった!

 

 血を流しながらも、私は相手の攻撃を避けていく。

 

 そして、私は一瞬の隙が空いた奴の横っ腹に刀を刺し込むことに成功した。

 

「七英雄、て言ったけなぁ? てめぇのその横っ腹斬り裂いやんよ!」

 

 刺しこんだ刃を横にし、私は野菜を真っ二つに斬るように刃を動かす!

 

 ——ッ!?

 

 が、刃が思うように動かなかった。

 

 私はその瞬間、隙を作ってしまった。

 

 当然、奴はそんな隙を見逃す訳もなく、刺していた剣で私の腹に穴を開けやがった。

 

「——グハッ!」

 

 私はせめてものの抵抗として、奴に刺していた刀を抜き、刃を振るおうとする——しかし、そんなとろい動きに奴は、剣を持っていた私の腕を斬り飛ばした。

 

 噴水のように吹き出す血。

 

 私は自分に襲ってくる激痛と熱さに、歯を食いしばりながら耐える。

 

 しかし、体が既に体力の限界だったのか、私は思わず後ろへ後ずさりをする。

 

 ——畜生! 本気の半分も出せてねぇのに! こんな所で私は死ぬのか?

 

 予測されて見える相手の攻撃。しかし、その攻撃に対抗出来る刀は遠い地面に突き刺さったまま。

 

 私は無惨に切りつけられていく。

 

「ここまで私と戦えた人間に、私のとっておきを見せてやろう!」

 

「——ッ!」

 

「魔力解放」

 

 奴はそう言って、付けていた仮面を取り外す。

 

 その瞬間、奴の本当の素顔を見た私の身体全身にゾワッと鳥肌が立つ。

 

 奴のその顔は私の一つ一つの細胞までも怖気させる程のもの。

 

 私は思わず何も考えられずに棒立ちしてしまった。

 

 私に襲ってくるのは一つだけ「恐怖」だった。

 

 身の毛がよだつほどの魔力総量と、奴の顔面……迫り来る確実な死。

 

 その瞬間、私は初めて「死」という恐怖に気づいた気がした。

 

 ——次の刹那、閃光のような一撃が私を襲う。

 

 気づいた時には、私の視界は宙を舞っており、次に視界に入れたモノは、首がなく、滝のように血が流れる私の体だった。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない!

 

 そして、私の意識は闇へ落ちた。

 

 ※

 

 奴らを殴り飛ばした俺の元に、またあの2人が襲いかかってくる。

 

「マジで鬱陶しい、さっさと死んでろ」

 

「「うおおおおぉ!」」

 

 ベルゼブブとガルリアスが来る間、俺は意思ありし剣を呼び寄せ、それを大きく構え、奴らが俺の間合いに入るのを待った。

 

 そして、2人が俺の間合いに入った瞬間、全身全霊の力とスピードを込め、俺は雷の如く、ガルリアスの首とベルゼブブの体を横真っ二つに斬って見せた。

 

「ば、バカな!」

 

「わ、私が切られるなん……て……」

 

 ——次の瞬間、俺は最後に残った力を振り絞り、腕が悲鳴をあげるほどの見えない斬撃で、奴らの体を粉微塵に斬った。

 

 雨がザーザーと降る中、奴らは宙で大きな爆発を起こし、死んだ。

 

「水島ちゃんのところに行くか……」

 

 ※

 

 体力を使い果たした俺は、とぼとぼと彼女が吹き飛ばされた方向へ向かう。

 

「——は?」

 

 思わず声を上げてしまうほどの衝撃が俺に降り掛かる。

 

 そう俺の目の前には、両手に剣を持っていた奴が、水島ちゃんの首に剣を刺して、彼女の頭に足を置いている光景だった。

 

「……水島……ちゃん?」

 

「遅かったようだな、もうこの女は死んだぞ」

 

「は? 何言ってんだテメェ……」

 

 俺が朦朧となりながら、辺りを見渡すと、そこら辺には水島ちゃんの腕と思われるものと、首のない倒れた体。

 

 俺はそっと冷静なのかも分からない感情で、彼女の体を抱える。

 

 う、ウソだ……ウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだ。

 

「嘘だァァ!」

 

 目の前の惨劇に視界と顔を歪める俺。

 

「テメェがやったのか!?」

 

「フッ、そうだと言ったらどうする?」

 

 ザーザーと降っていた雨の勢いが凄まじくなる。

 

 雷もそこら中に落ちる。

 

 愛しい彼女を失った俺に今あるのは——「怒り」だ。

 

「ぐちゃぐちゃにぶっ殺してやる」

 

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