8話 稽古と手作りご飯!

 この日、俺は人気のない森の近くで水島ちゃんと海瀬で、稽古をやっていた。

 

「リガド〜、魔法と剣を使うのはなしなぁー。使っていいのは己の筋肉と戦闘経験な!」

 

「へいへ——い!?」

 

 俺の言葉の途中で——水島ちゃんは既に俺の間合いを潰していた!

 

 この至近距離! 避けれるかよ! マズイこのままだと!

 

 そして繰り出されようとする彼女の拳。

 

 避けることもままならない程、水島ちゃんの拳は大きく見えた。

 

「ちょ——ま!」

 

 スロモーションのように遅れて頬から流れる重い衝撃。

 

 勢いよくそれを食らった俺は、足で蹴られた空き缶のように思いっきり吹っ飛んだ。

 

「ウー、もうちょっと手加減してくれない?」

 

「稽古なんだから手加減とか必要ないだろ。ほら立て、今度は相手の攻撃を見切って反撃してみろ」

 

「ひぇぇ、天よ! この状況を俺は一体どうすればいいんですか!」

 

『もう少し指示を的確にしてください、それではこの状況というのは解決しません』

 

「使えんヤツめぇ! ——ッ!? ちょっと待ってぇ!」

 

 俺がこの状況を打開してくれない無能な天の声と話していた時——既に水島ちゃんは俺を蹴り上げる体勢に入っていた。

 

 そして、彼女の綺麗な生足が俺の顎を打ち抜く!

 

「何さっきから独り言言ってんだよ、気持ち悪いぞ。早く立て、いつまで経っても稽古が出来ねぇだろうが」

 

「は、はい」

 

 彼女の言うとおり、いつまで経っても稽古が始まらないため、俺は渋々立ち上がった。

 

 もう痛いのは嫌だ、俺をボコって調子に乗ってる目の前の女をギャフンて言わせてやる。

 

「お? 少しは顔つきが変わったじゃねぇか」

 

 そう言って彼女は拳を構え、ニヤリと笑った。

 

 それに応えるように俺も戦闘態勢に入る。

 

 静寂な空気が流れる中——突然、水島ちゃんは勢いのある踏み込みを見せた。

 

 やっぱり速い! でも俺には秘策がある! 魔法も使わずにその速度を落とす方法が!

 

 俺は地面にある物を握り、それを持ったことを気取られずに、少し低い体制で迎撃の準備に入る。

 

 流石フィジカルの天才と言うべきか、俺が気づいた時には、水島ちゃんは俺の近くまで接近してきていた。

 

 ここだ! 見てろよ! 

 

「テメェ、速く攻撃を避ける体制じゃねぇと攻撃を食らうぜ——テメッ!?」

 

「うおおぉぉぉ!」

 

 彼女が近づいたタイミングで俺は、地面から拾ったものを水島ちゃんに向けて撒く。

 

「砂か!? テメッ、卑怯だぞ!」

 

「卑怯もクソも理不尽タップリな戦場なら関係ないんだよォ!」

 

 次に、俺は水島ちゃんの視界が回復する前に、足に力を込めて地面を蹴りあげた。

 

 そして、辺りを見渡すことができない彼女に向かって走り出した俺は、簡単に水島ちゃんの間合いに入ることが出来た。

 

 良し! ここまで来たら俺ができることは!

 

「胸を揉む!」

 

 ムニ。

 

 これが水島ちゃんの胸の感触! なんと餅のように柔らかいんだ! もっともっと!

 

 ムニムニムニ。

 

 俺が水島ちゃんの胸の感触を堪能していた時——見えも察知することもできない程の拳が俺にぶつけられる。

 

「テメェ、よくもまぁ私の許可なく私の胸を触ったなぁ。しかも小汚い手を使いやがって……はぁ、もう今日の体術の稽古は終わり。あとは頼んだ海瀬」

 

 彼女は視線の先で、俺たちの稽古を見学していた海瀬にそう言った。

 

「分かった、リガドくん、私から君に教えるのは魔法と剣術だ。まずは魔法から教えよう……とは言ってもある程度の魔法は打てるんだろう? 咲から聞いた所キミは無詠唱で最高位魔法を打てるらしいじゃないか。その魔法を見せてくれないか?」

 

「あ、はい。インフェルノ・フレア」

 

 俺は場所も人がいるかどうかも考えずに、手を横に向けて、無詠唱の最高位火魔法であるインフェルノ・フレアを放った。

 

 解き放たれた魔法の威力は凄まじく、こちらにこそ被害はなかったが、横にあった森の一部に、けたたましい程の何十メートルあるかも分からない巨大な獄炎の火柱が立った。

 

 あ、やべぇ何も考えずに打っちゃった。

 

 轟々と燃える火柱によって、周りにあった木々が燃えていく。

 

 そんなどうしようもないような光景を見た海瀬は溜息をつき、魔法の詠唱をし始める。

 

「命の源、聖なる天の水よ、天より降らし給え、レインウォーター」

 

 海瀬がそう唱えると、雲ひとつなかった晴れ渡った晴天の空が、一瞬にして曇り空になり、ポタポタと雨が降ってきた。

 

「そんな雨じゃ、この火柱とか消えな——マジかよ」

 

 そんなことを言っていると、何故か轟々と燃えていた火柱が、その小さな雨粒によって徐々に小さくなっていく。

 

 そして、3分も経たずに燃えていた辺りの木々の全てが消火された。

 

 驚きのあまり呆然としている俺に海瀬は、

 

「これが中級魔法の水魔法。これから君には私が知り得る全ての魔法を教える。それに魔力の使い方だって教える。あと剣術も」

 

「押忍!」

 

「気合いは十分だな。よし、それじゃあまず魔法を教えるにあたって魔力について説明する。魔力というのはいわば生命のエネルギー、その魔力を自由自在に動かすことが出来れば、あらゆるモノに魔力を纏わせることが出来たり、魔力を使った魔法だって使うことが出来る。さて話が長くなったが、今話したのが基礎知識、君はインフェルノ・フレアを無詠唱で打てる、てことならこの基礎知識は飛ばそう。そしてこれから教えるのがその応用だ。私は最高位魔法までなら詠唱はありだがほとんど使えるから安心しなさい」

 

「へぇー、ま、その内のうのうとその地位で喜んでる海瀬を追い抜いてやるよ」

 

 俺が気合いのある事を見せつけるため言うと、海瀬の野郎は「フッ」と言葉を漏らし、こう言った。

 

「その舐め腐った態度がどこまで通用するのか私も楽しみだよ。まず応用を始める前に、今から始めるのはどこまで君に魔法の適性があるのか調べよう」

 

「テキセイ?」

 

「そう魔法といっても火魔法、水魔法、風魔法、雷魔法、闇魔法、光魔法にそれぞれ適正というのがあるんだ。だからその適正を今から打ってもらう魔法で君の魔法適正を調べるのさ。まぁ特別君の場合は火魔法の最高位の呪文と、雷の最高位魔法を打てるらしいから適性はどれもAだ。さて残りの風、水、闇、光の上級魔法を打ってもらうぞ。あと最後は簡単な治癒魔法もしてもらう」

 

「まかせろ!」

 

 そして、俺は大自然の森に向けて、海瀬から教わった魔法を順々に打っていく。まずは風魔法。

 

「エアスラッシュ」

 

 魔法陣から放たれた風の刃の威力は凄いもので、生えていた木々を一直線上に数十メートルまで斬り倒した。

 

 風魔法 適正 A。

 

 次は水魔法。

 

「ゼロアプストリーム」

 

 放たれた魔法の威力は半径約50メートルもの範囲に、空から勢いのある滝が流れ、森の木々を薙ぎ倒す程だった。

 

 水魔法 適正 A。

 

 次、光魔法。

 

「シャイニングアロー」

 

 曇り空だった天が神々しく光り、暗雲立ち込む空が晴天の空になると、そこから光り輝く光の矢が森全体に降り注いだ。

 

 光魔法 適正 A。

 

 最後、闇魔法。

 

「アビスエンス」

 

 闇魔法を放つと地面は闇に染まり、その闇が辺りにあった木々を呑み込むと、木が生えていた場所は綺麗な更地となった。

 

 闇魔法 適正 A。

 

「どうだぁ! 全部オールAだぜェ!」

 

「……私は少し君を侮っていたようだ。初めて見たよ全ての魔法適正がAというモノは」

 

「フフン!」

 

 俺が調子こいて言うと、海瀬はニコッとした顔でとんでもないことを言った。

 

「あとは治癒魔法だな、簡単な治癒魔法の仕方を教えるから、君が倒した木々を全て元に戻しなさい」

 

「えぇ!? ざけんじゃねぇ! 無理に決まってんだろ!」

 

「……それなら、剣術の稽古として私に一本取る事が出来たら、代わりに私がしよう。どうだ?」

 

「いいぜ! 泣いて謝っても許さねぇから! お前ならあの剣を使わんでも勝てるぜ!」

 

 数分後。

 

 目にも留まらぬ速さの木剣が俺の額を打ち抜いた。

 

「痛ぇぇぇ!」

 

「さあ立て、まだ稽古は終わってないぞ」

 

 俺の目の前にいる海瀬は、海瀬じゃない! ただの悪魔と化した化け物だ!

 

「やめてぇぇぇ! ——ゲブッ」

 

 剣術 適正 E。

 

 このあと俺はめちゃくちゃ海瀬にボコられ、海瀬に泣かされた。その上、俺が破壊した森も修復させられた。

 

 ※

 

 あの日の修行から約半年、半年ものの間俺は海瀬の剣術や、水島ちゃんの体術で屈辱を味わされた。

 

 だが、その代わり培ってきたモノがある。それは剣術、体術ともに技術だ、だから今日の俺は一味違うぜ?

 

 まずは初めに水島ちゃんとの体術。

 

「来いよ」

 

 水島ちゃんのその合図に俺は、今日一の力を振り絞って踏み込みを入れる。

 

 勢い良く踏み込んだことで、風を切りながら彼女との距離を詰めていく。

 

 ——距離を詰めた俺は彼女に向けて、出来るだけ動きは速く、瞬発力のあるパンチを数発当てる。

 

 が、彼女はそれを片手でいなす。

 

「ほらほらもっと! 力を込めて魔力を込めろ!」

 

 彼女はどこか嬉しそうな様子で、唇の片方だけを持ち上げ、ニヤリと笑う。

 

 チッ舐めやがって! 

 

 ——それと同時だった、水島ちゃんのハイキックが俺の顔面まで迫ってきていた!

 

 俺はできるだけ素早く両腕を上げて、ガードに入る!

 

 バットで殴られたような鈍い衝撃がくる。

 

 なんて力! さすがフィジカルの天才! でも下がガラ空きだぜ!

 

 下の守りが薄いと感じとった俺は、彼女の足元に足を入れる。

 

 すると、俺の思惑通り水島ちゃんはバランスを崩し、倒れようとする。

 

「そう来ると思ったぜ?」

 

「——は?」

 

 水島ちゃんが意味のわからんことを言うので、俺は困惑した顔になる——その時、彼女は倒れる寸前で俺の足元に足を回し、逆に俺の体勢が崩れる!

 

「うそーん!」

 

 そして、水島ちゃんの体が俺の体の上に乗るように、稽古試合は終わった。

 

「ぐぬぬぬぬ! 次こそは!」

 

 体術の訓練が終わった俺は次に剣術の稽古に移った。

 

 お互い木剣を持った状態で水島ちゃんの合図と共に俺は、さっきと同じようにスタートを切った。

 

「歯ァ食いしばれェ!」

 

 俺はそう言って、すぐさま海瀬の間合いを取った。

 

 一撃で仕留めてやる!

 

 そして、魔力を込めた木剣の一撃を打ち込む。

 

 ——が、それを海瀬は余裕の表情で、剣で受け止める!

 

 これを受け止めるか! ならこれはどうだ!

 

 俺は守られていた相手の剣の先端まで、刃を滑らせ、守りが消えたそのままの勢いで、海瀬に横薙ぎを入れる! 

 

 ——しかし、その攻撃に対しても、海瀬は守りを入れる!

 

「この髭面ジジィがァ!」

 

 守りに入られても俺は攻撃をやめない! 守りがあるなら破壊すればいい話! そう考えた俺は閃光のような突きを何発も打つ!

 

 が、そんな突きを持ってしても、鉄壁の要塞のような守りは崩れない。

 

 ——次の刹那、俺の真横から木剣が飛んでくる、俺はそれを紙一重でガードする。

 

 重い一撃だった、まるで金属バットで本気で当てられたような重み。

 

 俺は思わずその重い攻撃に、体勢を整えながらも吹っ飛ばされる。

 

 重い! 重すぎる一撃! このバケモン一体どうすれば……チッ。

 

「こうなったらヤケクソじゃァァ!」

 

 もう考えるのもどうでも良くなった俺は、バカらしく戦うことにした。

 

 無様でなんの勢いもない剣さばき。

 

 そんな攻撃が海瀬に当たるわけがなく、悠々と躱してみせる。

 

「そんな剣術を私は教えたつもりは無いぞ!」

 

 海瀬は少々気合いの入れた剣さばきで、俺に向けて攻撃を図る!

 

 来たなぁ! 俺を叱るために動きが単調になりやがった! 俺はこれを待ってたんだよォ!

 

 首元まで迫る木剣。

 

 俺はそれを体を逸らして躱す——そして、わざと相手の視界から消していた木剣を出す!

 

 死角からの攻撃! これは避けられない絶対領域! とったぜ! 思いを乗せろ!

 

 海瀬も自身の死角からの攻撃に対し驚いた表情をする。

 

 その顔が見たかったんだ、その焦りが生まれる顔をよォ!

 

 そして、思いを乗せた俺の木剣のスピードは海瀬のスピードを上回り、海瀬の横っ腹に当たる——と思っていた。

 

「——ナニっ!?」

 

 なんと海瀬の野郎は体を限界まで拗らせて、木剣が届く距離を伸ばしやがっていた。

 

「——ガバッ」

 

 全身全霊の一撃を受ける前に海瀬は、俺の首元に木剣を当て、本気の手刀を食らったように俺は吹っ飛び、近くにあった木に体を強くぶつけた。

 

「良い戦術だ、まさかわざと私を挑発させて、動きを単調にさせるとは、良い試合だった」

 

 首を強く打った俺は掠れた声で、

 

「何が……『良い試合だった』だ……ふざけやがって……」

 

 そして、俺の意識はそのまま闇に落ちた。

 

 ※

 

「……ここ……は」

 

 剣術の稽古で気絶していた俺は、自宅のベットの上で目を覚ました。

 

 辺りを呆然ながら見渡していると、台所の方で何か物音が聞こえてくる……俺は警戒しながらも、ベットから起き上がる。

 

 そして、チラリと台所のある方へ目を覗き込む。

 

「——み、水島ちゃん!?」

 

 俺は思わず声を上げてしまった。そして、俺の声に気づいたのか、水島ちゃんがこちらへギロリと視線を向ける。

 

「おいてめぇ……なに『自分は綺麗好きです』とか言っときながら! 何で使った食器は洗ってねぇんだよ! 虫がめちゃくちゃ湧いてんじゃねぇか」

 

「……」

 

「あぁ!? なんとか言ったらどうだ!?」

 

「水島ちゃんが俺の使った食器を洗ってる!? トキメキ!」

 

 俺は思わず口に手を当て、心をときめかせてしまう。そして、水島ちゃんは怒った様子を継続しながら、木皿を机に置いた。

 

「食べろ! 今日の夜飯だ。残したら殺す」

 

「水島ちゃんが俺に夜ご飯を……トキメキ! いただきます!」

 

 俺は真っ先に椅子に座り、水島ちゃんが作った飯に手をつけ、口に運ぶ!

 

 口に運んだ時に漂う香ばしいチーズの匂い! そして、口に広がるチーズがのったジャガイモのようなモノ!

 

「う、う、う、う」

 

「……」

 

「超ウマい!」

 

「そ、そうかよ……」

 

 俺が素直な気持ちを持って素直な感想を言うと、水島ちゃんはどこか照れたように頬を赤らめ、俺から視線を逸らす。

 

「あれ? 今照れたァ? 照れたよねぇ!?」

 

「うっせぇぞ! テメェさっさと食わねぇとその顎引き抜くぞ!?」

 

「ヒェッ! すみませんでしたァァ!」

 

 ※

 

「どうです? テアラ様、例の機体の調子は」

 

「順調だよ、不自然なくらい順調さ。多分、こうも上手くいってるのはあの白髪の女の子のおかげかな?」

 

「では明後日の人類侵攻どうしますか? 用意を続けますか?」

 

「いや続けるさ、でもあの機体とその女の子は殺したらダメだね。もし殺したら私の計画がパーになる。……もしあの女の子を殺した奴がいたら私がソイツを殺す」

 

 

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