7話 五人の七英雄
「ゼッドもやられたか、いやー流石だよ。このまま上手く成長していけば私の計画が良い感じに進む。期待してるよ」
荒れ果てた大地は地層が見えるくらい削り取られ、以前とは変わり果てたグレイカ王国に来た私は、焼け野原も同然の大地で眠るヤツにそう言った。
「あ、あと右腕落ちてたから近くに置いとくね」
※
ぜいぜいと息を切らしながら、私はレジスタンスの本拠地から数十キロ離れたグレイカ王国に1時間でたどり着いた。
「おいおいおいおい、一体何があったんだ」
この異様に削り取られた地面、建物があったであろう痕跡はあるが建物のほとんどは崩壊しており、AIが1体もいない、まるで2体の化物同士がぶつかり合って生まれた戦跡のよう。
リガドの安否確認の為、辺りを見渡すが、それほど酷い戦いだったんだろう、全くヤツの姿は見当たらない……いや、ヤツ以外に誰かいる! 比べ物にならないくらいの魔力を秘めた何者かが!
私はすぐさま鞘から刀を抜く体制に入る。誰だ? この魔力総量……明らかにリガドの魔力総量の数十倍もある!
「楽しくなってきた!」
そう言って私は刀を構える、こちらへ徐々に向かってくる強大な魔力を持った化物……私の体からスーッと冷や汗が流れる。
まさかあの門番が言ってた化け物はコイツか?!
「とてつもない、殺気、闘争本能が出すオーラ。君、少し強いでしょ?」
そう言って私の視線の先に現れたのは、黒フードを着た、見ているだけで鳥肌が立つような禍々しい雰囲気を醸し出す男だった。
「だとしたらなんだ? ——テメェまさか」
「AIだよ、君達が敵と呼んでいるAIロボット」
「そうだろうな、人間にしては異様な雰囲気がでている……お前、その魔力総量からするとAIロボットの中でも地位は上の方だろ……私は少し探し者をしていてな、少し探し者に手伝ってもらおうか」
「良いよ、でも私にその刀を触れさせることが出来たらの話だがね? 制限時間は2分良いね?」
「なにテメェが色々と仕切ってんだよ無制限だ」
「はぁ、良いよ、無制限で。その代わり私が君の首に触れたらこのゲームは終了、これでどうだい?」
「良いぜ、私の首を取る事が——出来たらな!」
フィジカルブースト!
その瞬間、私は焼け果てた大地を踏みにじるように力を入れ、轟速で黒フードの男まで接近する。
「良いスピードだ。そこら辺のスライムより速いよ」
「チッ、テメェ!」
私は刀を使い、相手を殺す勢いで、全身全霊の力を込めて薙ぎ払った——と思ったが、ソイツはまるで空気のように軽くそれを避けた。
「これくらいの煽りを食らって動きが単調になってしまっては、私を触ることなんて天地がひっくり返っても不可能だよ」
ひらりひらりと鬱陶しい程に、私の攻撃を躱すヤツはそう言う。
「チッ、うっせぇ!」
動きを加速化させろ! リガドと戦った時よりも動きを速く!
スラスラと斬撃を避けるヤツに、私は空振りながらも飛び蹴りを入れる——その瞬間、まるでブーメランを扱うように、空気をぶん殴るように刀を投げる。
「ほぉ! そう来たか! 面白い戦い方をするじゃないか——でも」
ヤツがそういった時——私でも反応できないスピードで私の首に向けて手刀を繰り出してきやがった!
この距離避けられない! だが! 近づいてくるならこっちにとっても好都合! 一瞬だけでも触れてやる!
相手が手刀で攻撃してくるのに対し、私は刀を失った両手でヤツに触れようとした。
——が、フィジカルブーストの力を持ってしても、ヤツのスピードを上回ることが出来ず、相手は私の首元ギリギリまで手を近ずける。
「はいこれで終わり」
「——そうか? いや違うな、相打ちだ!」
私がそう言うと、ヤツは困惑したような顔になる。
——その瞬間、相手は私の思惑に気づく。
「まさか! あの刀は捨てたのではなく、私の元へ回ってくるように投げたのか!」
「正解ッ!」
私が想定していた通り、ヤツに向けて投げた刀がブーメランのように私たちの元へ帰ってくる。
さぁ! これをどう避ける!? 避けなかったら死んじまうだろう? ——ッ!?
「君の発想は面白い、きっと格上相手にも通用するだろう……でも格上すぎた相手には通用しない」
ヤツはすました顔で言うと、魔法を使わずにその膨大な魔力だけを使い、ヤツが放った魔力で疑似的なバリアを作り、それで刀の攻撃を受け止めやがった!
次の刹那——ヤツの手刀が私の首元にチョンと軽く当たった。
「はいこれでゲームセット」
「チッ」
負けた、今までの人生で圧倒的な2度目の敗北。
「……」
棒立ちしてる私を放ってどこかへ立ち去ろうとするヤツは、ある程度離れた距離でこう言った。
「私に少し焦りを生ませた君には良い情報をあげようかな」
「情報?」
「そ、近々に我々AIは君達人類に大規模な侵攻を行う。詳しいことは伝えられないけどこのことだけ伝えておくよ」
「どうしてそんなことを教える? お前腐ってもAIなんだろ? なんで私を殺さない?」
私がそう聞くと、ヤツは去り際、私に向けてこう口を開いた。
「うーん、人間が面白い生き物だからかな? あと君の探している者とは違うだろうけど、この戦場を生み出した彼はあそこで寝ているよ。腕が欠損してるから直してあげて。それじゃ」
ヤツはそう言うと、転移魔法を使いその場から去った。
相手が完全に消えるのを確認した私は、急いでヤツが指していたリガドがいるであろう場所に走って向かう。
そして、ヤツの言っていたとおり、焼け果てた大地の上で、ぐっすりと眠っているリガドを見つけた。
私は恐る恐る眠っているリガドに歩みよる。そして、刀の鞘でリガドの額をツンツンとつつく。
そんなことをしていると、ふとリガドの体を見れば、ヤツが言っていた通り、リガドの右腕がたしかに欠損していた。
「リガド……チッ」
私はリガドの傍に置かれていた右腕を持ち、リガドの傷口に腕をくっつける。
下位魔法の治癒術が効くか分からんけど、やるっきゃない!
「大地の恵よ、今すぐ汝の傷を癒せ! ヒーリング!」
そう詠唱し治癒魔法を施すが、あくまでも治癒魔法は体に細胞がある生物に対応するもの……しかし、リガドの中にはそれは無い無生物。
「治癒魔法が効かない……ちきしょう!」
私は思わず眠っているリガドの土手っ腹に、思いっきり握り拳を叩きつける。
「——グハッ!」
「あ、スマン」
思いっきり腹を殴ったせいか、リガドを起こしてしまい、彼はブチギレた様子で、
「誰だァ!? 俺の腹を思いっきり殴った奴はァ!」
「あ、私」
「テメェかァ! このクソビッチ!」
「あぁん?」
「すいません」
「……なぁこのお前の右腕、治癒魔法やっても元に戻らねぇんだけど」
「——マジで!? どうすんの!?」
「私に言っても治らねぇもんは治らねぇんだよ!」
「えーじゃあ! 俺一生片腕しか使えない生活!? そんなん無理だぜぇ?」
一人絶望しているリガドに対し、私はひとつの賭けに出る。それは欠損した腕を無理やり失った腕の傷口にねじ込むこと。
それを思いついた私は、リガドの承諾を得ずに無理やり欠損した傷口に彼の腕をねじ込んだ。
「何やってんの!? 水島ちゃん! やめて! 乱暴にしないでぇ! そんなおもちゃみたいに引っ付くわけが——」
カチッ。
その音が聞こえると同時に、私とリガドは目を点にした。何故ならばバラバラになった人形の部品をくっつけるように、簡単に腕が元に戻ったからだ。
「あ、あれ? く、くっ付いた……」
「ふ、やっぱり私の読み通りだったな!」
「偶然でしょ、たまたまだよたまたま。こんな事俺にだって分かっ——グバッ!」
リガドの抜かした言葉を聞く前に、私はヤツの顔面をほんの少し本気で蹴り上げた。
「少しは感謝の念をもて、感謝の念を……んで、何があったんだ? この場所で」
※
「何だと? 七英雄機体を倒した!? しかも2体?!」
グレイカ王国から帰還した俺は、グレイカ王国であったこと、そして、槍使いのヴェルゴ? とかいう奴を倒していたことを海瀬に話した。
「あのー、七英雄ぅ? ちゅうやつはどんな奴らなんだァ?」
「……七英雄、それはモナリザというAIが創り出したAI達の最高戦力だ。そして、その七英雄達には使う武器がそれぞれ違う。君の戦ったヴェルゴは槍使い、そして、ゼッドは鎌使い。特にヴェルゴに至ってはレジスタンスの数々の実力者が殺されていてな、最近討伐隊を組み始めた頃だった」
「へ〜、じゃあ他は?」
俺の質問に海瀬は困った表情になった。
「あぁまぁある、だが七英雄の情報の全ては
1体目は刀使いのベルゼブブ、ベルゼブブは七英雄の中で屈指の剣術を誇っていると自慢していたそうだ。
2体目は剣使いのアザゼル、剣術ならベルゼブブと互角と謳っていたらしい。これで終わりだ。残り3体の情報はない」
「少なッ! ……そすかそれじゃあ俺は——」
そう言ってマイホームに帰ろうとした時、後ろにいた水島ちゃんが声を上げる。
「なぁ海瀬。一つ、AIの幹部と繋がっていると思われる奴から情報をもらった」
「なんだと? その情報とは……」
「近々AI共は私たち人類に大規模な侵攻を行う、てな」
「どんな奴がそんなこと? 確証はあるのか?」
「黒フードを被ったヤツだ。だが確証はねぇ……でももしそれが本当だとしたら」
「そうだな、備えはしとく必要があるな」
2人がそんな話していたが、正直俺はこの世界の人類がどうなろうが興味無い——あ! そうだ! 思い出した!
「おい海瀬! 俺ァグレイカ王国の奪還任務を遂行できたからよォ、水島ちゃんとパートナー組んでいいよなぁ?」
「あぁ構わない、こっちも咲を守ってくれる人材が欲しかったところだ、願ったり叶ったりだ。……そうだリガドくん、今日はもう仕事はやらなくていい、だが一つ君に頼みたいことがある」
「頼みたいことぉ?」
「あぁ、これから先、七英雄を倒した君には数々の困難な任務を受け持ってもらう。だからその任務で死なないよう、咲と私が君に体術、魔術、剣術を教えよう。拒否権はあるが、もし断れば咲とのパートナーになるのは諦めてもらう」
「チェッ条件付きかよ、俺人から物事教わんの好きじゃねぇんだよな」
俺が海瀬からの提案に渋っていた時——突然、隣にいた水島ちゃんが綺麗な上目遣いで俺に言ってきた。
「おねがい、私と一緒に稽古しよ? イヤ?」
ドクッと鼓動が高鳴る! これはまさか夜のお誘い!? この提案にのれば俺は水島ちゃんと!
「あぁ! やってやるよ! その稽古! でも俺に技術が追い越されても恨むなよぉー?」
「チョロッ」
水島ちゃんが何か言ってはいけないことを言ったが、ここは気にしないでおこう。
「それじゃあ稽古は明日の朝から、良いね」
「押忍!」
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