2話 生意気なメスガキ

 真夜中の荒野に響く爆発音とキノコ雲。私達は武器を持ち、仲間の救援がある場所へ軍用ジープで向かう。

 

 ※

 

「撃て! 撃て! とにかく撃ちまくれ! 魔力は枯渇していい! とにかく撃て!」

 

「隊長! 敵が多すぎます! ここは一度退却した方が!」

 

「いやここで退却でもしたら、人類の未来はどうなると思ってんだ! この地域さえ奪還すれば、あの技術を使うことが出来るんだ! 退却してはならん!」

 

「ですが隊長! ここは人命を優先するべきです!」

 

 畜生! ここは退却すべきかなのか? クソクソ! 救援はまだなのか!?

 

 ここに着くまで同行していた40人もいた仲間は今見る限りは20人ほどに減っている。一方で敵の数は500以上……こんなの勝ち目なんてあるのか?!

 

 退却を考えている間にも、俺の耳に聞こえてくる仲間達の悲鳴や叫び声。

 

「——退却! 退却だ!」

 

 俺は仲間達にそう命令し、俺ともう一人はすぐさまジープに乗り、エンジンをかけ、仲間達が全員乗るのを待つ。

 

「全員乗ったな!? よし、撤退するぞ!」

 

 俺はすぐさまアクセルを踏み、猫から逃げるネズミのように車を走らせる。しかし、車を走らせた所でヤツらは尋常ではない速度で追いかけてくる。

 

「後ろから追ってくる木偶を一体でも止めろ! 俺の魔力の半分をやるから少しでも奴らを足止めしろ!」

 

 俺はそう命令し、仲間達は俺の魔力を使って、ライフル銃から小規模の魔法でAIロボットの足止めに徹する。

 

 追いつかれればアイツらのようにされるか、無惨に殺されるかの二択、そんな残酷な二択なのならば抗ってやる。

 

『隊長! 前方から何か巨大な生命体が接近してきます!』

 

 前を走っていた仲間からそう連絡が来た。そして、俺は目の前のモノを見て絶望した。

 

「——ッ!? あの異様な赤い一つ目は!? エルゼ・ガーディアン!?」

 

 前からはガーディアン、後ろからはAIロボットの化け物……挟み撃ち……ここまでか!?

 

『おい! 五十嵐いがらし! 前を走っている仲間共々前の化け物と後ろのAIを引き付けて、ギリギリのところで左に避けろ!』

 

「——ッ!? まさかお前は! 分かった!」

 

 この絶望的な状況下でトランシーバーからアイツの声が聞こえ、俺たちはその言葉通りに化け物を引き付け、紙一重で左に避けた。

 

 すると、エルゼ・ガーディアンはその巨大な体を地中から地上に姿を現し、巨大な口を開け、目の前にいたAIロボットを食い散らかす。

 

 それに対抗するように、ロボットも魔法を組み込んだ銃でエルゼ・ガーディアンを攻撃する。

 

 しかし、その戦力差は天と地の差で、AIロボットは無惨にエルゼ・ガーディアンによってバラバラに食われた。

 

「やった! 助かった! このまま拠点に戻るぞ!」

 

 俺達はこの時助かったと思っていた。だが、それは違った、束の間の幸せだったのだ。

 

「た、隊長……ま、まだAIロボット《ヤツら》の残党がこっち来てます! ……魔力も底を尽きました」

 

「なん……だと」

 

 やはりここまでか……。

 

 何もかも諦めかけたその時だった、突如、後ろの方からAIロボット《ヤツら》とは違う車が現れた。

 

 ※

 

「おい! みっともねぇなぁ五十嵐!」

 

 私は目の前でヒィヒィと自分の命を諦めている男たちにそう言った。すると、アイツらは生意気な事に、

 

「テメェは!? 水島みずしま!?」

 

 とか言ってきやがった、さん付けろよなぁ……まぁ面白ぇ、狩りができるぜ。

 

「おいおいせっかく救援に来てやったのに「さん」付けしねぇとかどういう教育受けてきたんだァ!」

 

 私は言いながら車のボンネットに乗ると、鞘から刀を取り出し、構える。そして、自分に身体強化の魔法をかける。

 

 フィジカルブースト。

 

 心の中でそう唱えると、私の体全体に体が熱く豪炎のようにほとばしる程に力が湧き上がってくる。

 

「今日の私は気分が良い!」

 

 私は風の抵抗を限界まで弱めるために体をしゃがませる。そして、私の頬に風で流れてきた砂粒が当たった瞬間、ボンネットを蹴り電光石火の如く、五十嵐たちを追っている木偶の坊達の体をバラバラにたたっ斬った。

 

「絶好調!」

 

 ※

 

 水島に助けられた俺達は、すぐさま近場にある拠点にもどり、負ってしまった傷を癒す為に休憩する。

 

「今日の死者数は26人か……スマねぇ、俺が不甲斐ないばかりに……6人も死んだのか……情けねぇ、早く決断しとけば! こんなにも死人は出なかった!」

 

「隊長、あの状況は仕方ないことです、また立て直してあそこの地域を奪還して、先代が残したあの技術を使いましょう!」

 

「……そうだな」

 

 情けなくなった俺が仲間達から励まされている時だった。あの女がまた俺たちの目の前に現れた。

 

「おい! 五十嵐とその御一行さん達! 助けてやったんだから出すもんあるだろ?」

 

 そう言って現れ、勢いよく机に足を置く彼女は、水島咲みずしま さきだった。

 

「水島……お前「助けてやったんだから金か食料をくれ」て言ってんのか?」

 

 すると、水島は当たり前だろ? と言わんばかりの顔をしていた。

 

「おい! 水島ァ! テメェ自分が強いからって貴重な金や食料を求めんのは少し違うんじゃねぇのか?!」

 

 水島の態度に怒りを覚えた仲間がそう言う。すると彼女は「あぁ?」と不機嫌そうに声を上げ、魔法も使ってねぇのに瞬間的な速さで反抗してきた仲間の顔面を殴り飛ばした。


「雑魚の分際で私にゴタゴタ指図すんな、あと「水島さん」な?」

 

 水島はまるで獣のような眼光で俺達に向けて言った。クソガキのくせに舐めやがって……。そう思っていたのも束の間、俺と同じように思った仲間達が彼女に対し激昂し始める。

 

「おい女ァ! テメェ少し面と体が良いからって調子乗んじゃねぇぞ!」

 

「何お前らキモッ。そうやって女を体と面だけ見てるヤツらまじ、オッエー」

 

 水島は俺たちに向かって吐くようなモノマネをして挑発してくる。

 

「あぁもう良いや、コイツ犯して調教させてやる!」

 

「おいお前ら落ち着け、相手はガキだぞ?」

 

 俺がそう言っても、仲間達はさっきの戦いの疲労が原因なのか怒りの度が限界になっていた、仲間達は俺の話を聞きやしない。

 

 一触即発の状態の中だった、その時、テントの扉が開き、ある男が仲間と水島の暴走を止める。

 

「おい君たち、そう大声出すな。ガーディアンが来たらどうするんだ」

 

海瀬うみせさん!」

 

「なんだよ、海瀬邪魔しに来たのか?」

 

「咲、お前も落ち着け、金と食料は大丈夫です。腹を満たせるくらいの食料をくだされば私たちは満足です」

 

 海瀬さんはこの場の雰囲気を和ませる為にそう言うと、不機嫌そうな水島を連れて、隣のテントの方に帰って行った。

 

 ※

 

「なんで邪魔すんの? 助けてやったんだから金くらい取っていいだろ!」

 

 アイツらの態度にムカついていた私に、海瀬はまるで私を諭すようにこう言った。

 

「咲、お前のお母さんは『助けた人から金を取っていい』と言っていたか?」

 

 コイツは先月死んだばっかりの母親のことを言ってきやがった。

 

「なんでお母さんのことを話に出すんだんだよ! いまお母さんは関係ねぇだろ!」

 

「……なぁ咲、いづれお前は一人になる。そんな時、そういう態度でいたら周りに人は寄り付かないぞ、人間は1人じゃ何も出来ない、人間は仲間と助け合うからこそに存在の意味を持つ、だから亡き母が残した『弱気人間を助け、強者となりなさい』という言葉を守れ、そうすればお前が探している兄も見つかる筈だ。咲が生きていく道はそれしかないんだ」

 

「チッ、分かった」

 

「それでいいんだ」

 

 ※

 

 次の日の朝のこと。海瀬さんと一緒に今後あの地域をどう奪還するかの計画を立てることになった。

 

「海瀬さん、今日の奪還計画はどうするんですか? 俺達の仲間はAIロボットのヤツらに26人も殺された。もう俺たちは動けそうにない。……だからここは一旦本拠地に戻って」

 

「——いや、ここは私達の部隊が行く。貴方たちは本拠点に戻っててくれないか?」

 

「海瀬さん……アンタ死ぬつもりか? 勝てるわけがない、フィジカルの天才の咲がいたとしてもあの数のAIを相手にするのは無謀にも程がある!」

 

「無謀といったな五十嵐くん、残念だがこの世界に無謀という言葉は無い、この世界に「挑戦」という言葉が存在する限り、無謀や不可能があるはずが無い」

 

「……海瀬さん、俺を連れってください。せめてもの戦力として俺を連れってくれ。アンタの言葉に感動した。だから頼む」

 

 俺が海瀬さんにそう頼むと、周りにいた仲間達は「やめてください」と止めに入ってくれた。そして、もちろんの如く水島も俺を下に見るような目付きで、

 

「五十嵐、もしかしてお前、自分が少しでも戦力になれると勘違いしてる? 正直いうとアンタが加わった所でノミが参戦したみたいなもんだから意味ないよ。雑魚なんだから帰りな。あと私の変な重りになると嫌だし」

 

「まぁ咲、そうは言うな。今は質よりも量が必要なんだ。よし、五十嵐くん、君も同行してくれないか?」

 

「わかりました」

 

「決戦は夜だ! AIによって荒廃した我が国を取り戻すぞ!」

 

 海瀬さんのかけ声ともに俺達は声を上げた。

 

 ※

 

 そして、決戦の時はすぐさまやってきた。朝のような熱さはなく、そのかわり体がヒヤリとするような冷気が私を襲う。今日の夜空には光の粒が沢山あった。そんなことを気に留め、私達は狩りを行う動物のように慎重に目的地にたどり着く。

 

 そして、私は魔法が組み込まれた拳銃を持ち、私と同様に海瀬は魔法が打てる機関銃、五十嵐と同行している奴らも魔法が使えるライフル銃を持った。

 

 私は敵に察知されないように、岩陰に隠れる。

 

 第一目標は町にいるAIを殲滅しこの地域の奪還。

 

 第二目標はこの地域にいる大将的存在のAIを真っ先に殺すこと、大将を殺して、マスターコアを壊せば、その町にいる化け物は機能を停止する。

 

 簡単、私ならできる。私の鼓動が高鳴る中、海瀬からのテレパシーが聞こえてきた。

 

『今だ! 奇襲だ!』

 

「了解!」

 

 私は岩陰から出る瞬間に、身体強化の魔法を唱え、鞘から刀を抜く。そして、こちらの敵意を感知できてない人間に化けたロボットの頭部に、銃弾をお見舞いする。

 

 目の前にいたAIロボットが倒れると、気持ちの悪い事にその周りにいたAIロボット達はすぐさま、こちらへ視線を向ける。

 

「人間を感知! 人間を排除す——」

 

 ロボット達がこちらへ襲ってくるタイミングで、私はロボット達の胴体を横真っ二つに切り裂いた。こいつらをやるのに3秒もかけさせない……しっかし、多いな、あとめちゃくちゃこっち見てくるからキモイんだよなぁ。

 

「オエー!」

 

 ※

 

 海瀬さんからのテレパシーを聞いた俺とその他の奴らは、一斉にAIが占領した地へ突入する。

 

 撃て! 撃って撃って撃ちまくれ! 人類の未来の為に!

 

 俺は無我夢中で奴らに、装填された魔法弾を浴びせる。魔法弾が射出されると共に、爆発による突風と火柱が立つ。

 

 良し! おせている! 俺達の未来が取り戻せる!

 

 そう俺は浮かれていた……次に俺が気づいた時には、俺の胸をAIロボットの手が貫いていた。

 

「う、嘘だ……ろ」

 

 大量の出血とともに俺は倒れた。

 

「五十嵐くん!」

 

 ※

 

『五十嵐が殺られた……仲間もどんどん殺されている、もってあと20分ぐらいだ。頼んだぞ咲』

 

「——ッ……了解!」

 

 その知らせを受け、色々な感情が交差する中、私はそれらを押し殺して、町中にいる化け物達の攻撃を避けながら、周りにいる敵を殲滅していく。

 

 カチャッカチャッ。

 

「チッ、弾切れか!」

 

 弾切れになった拳銃をロボの顔面に投げ、視界を奪った一瞬を見逃さずに、木偶を一刀両断する。

 

 クソ、どこにいる? この木偶の坊達の大将は!

 

 私が必死こきながら大将を探していた時、目の前に突然明らかにデカい、この木偶の坊たちの親玉のような奴が降ってきやがった。

 

「よう小娘! よくも好き勝手にやってくれてるな!」

 

「超ラッキー……テメェを殺せばよぉ! この木偶の坊達は止まるし、この地域を奪還できる! 一石二鳥だよなぁ!?」

 

「何を言うかと思えば! そんな戯言俺に通用すると思うか? やはり人間は猿と同じ知能指数のようだな! 壊してみるがいい私のマスターコアをな!」

 

 私より数倍大きい木偶の坊はそう言うと、両手から鋭利な剣を生やす。

 

「『人間は猿だ』とか言っておきながら、殺意マシマシなの笑えるんですけど! やっぱり木偶の坊は考えることが違うなぁー!」

 

「調子に乗るなよ! 猿風情が!」

 

 私の挑発に対し、みっともないことに巨大な木偶の坊は怒り狂った様子になった。笑えるw、怒りの沸点低すぎw 雑魚かよw。

 

 ちょっくら仕掛けますか!

 

 私は周りを囲んでいた邪魔な木偶の坊達を回し蹴りで蹴散らし、そして、勢いよく踏み込みを入れ、スタートを切った。

 

 私がスタートを切ると、デカブツはその大きな剣を大振りに私の方へ突き刺す。が、そんな遅い攻撃を私は余裕で避けると、相手の剣は地面に突き刺さり、抜けなくなった。

 

「どこ当ててんの? 目がないのかなぁ? ロボットのお病院行ってお目目でも交換してもらったらァ?」


「ガキがあ!」

 

 デカブツは突き刺さった剣を抜こうとする、そして、剣を抜くこと諦めたのか、デカブツはもう一本の剣でわたしに攻撃してこようとする。当たるわけないのにねw。

 

 私は思いっきり足に力を入れ、相手の鋼鉄のような腕に蹴りを入れる。すると、相手の腕はそこら辺にあるチリが風で飛ぶように、デカブツの腕は吹き飛んだ。

 

 片腕を失った奴は何故か腕を失った事に悶絶していた。痛覚とかないのに……。

 

「遊んでる暇とかないから、このまま殺しても良いよね?」

 

「ちょっと待っ——」

 

 腰を抜かして何か遺言を残そうとしていたので、私は遠慮なくマスターコアがあると思われる胸部に、魔力を纏わせた刀を突き刺した。

 

「人をたくさん殺してきた奴なんかの遺言に価値なんてある訳ないじゃん」

 

 マスターコアを破壊したせいなのか、私に襲いかかろうとしているロボット達の機能が停止した。

 

「ふぅ! これで一件落着! ……これで一歩人類の未来を取り戻せたよお母さん……」

 

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