第3話 恐怖の美魔女
私がこの『チームキャサリン』にジョインしてからしばらくたった頃、私はあることに気付いた。
この人たち、特に美魔女の櫻子さんは超不思議ちゃんだ。日々彼女の行動をみているとその異常さは嫌でも目につく。
まず彼女は誰よりも朝早く出社し、いつも同じ場所に陣を構える。そして鉄壁のバリケードを築き上げるのだ。一体…何時間かけてるんだろ?
フォルダーケース、よくわからない板のようなもの、ノートパソコン、加湿器そしていつも使っている鏡に時計。いつも同じ場所にきっちりとセットアップしている。
「何かお手伝いしましょうか?」
毎日重たい荷物を抱えセットアップ、解体を繰り返す彼女の手助けになりたいと申し出たある日のこと。
「そんなぁ~、優秀な勇者さまにこんなことさせられないですぅ」
「いえいえ、勇者じゃないですし…。みんなでパパっとやれたら、早いじゃないですか?」
荷物に手をかけようとしたその瞬間、事態は急変した。
櫻子さんの顔色が変わったのだ。私、何か変なことを言ったのだろうか?
「私の仕事を取る気?」
「えっ?」
ドスの効いた声で、この部屋の温度が一気に下がった。彼女の目が憎しみに染まっていくのがわかる。こ、怖い…。
「そんなつもりは…」
「そうよね。あなたにできるわけないものね。フッ」
櫻子さんはにこやかに微笑み、自分の作業に没頭する。もちろん目は笑っていない。
な、なんなの?
結局私はその日からただの傍観者になった。大変そうでも、彼女が好きで行っている行為を邪魔しないことこそ正義だと悟ったのだ。
他にも気付くことはたくさんある。『チームキャサリン』は、各々が個人プレイなのだ。誰が何をしていても関係ない。チームでやる仕事も暗黙の了解なのか、各自自分のことだけ進めていく。
だから穴が多く、その穴を埋めたり調整する役目が必要だった。
それが私に課せられた仕事だと気付くのに時間はかからなかった。
「櫻子さん、この案件みなで意識合わせしませんか?」
「それって必要?」
ある日またもや私は櫻子スイッチを押してしまった。
「えっと、確認したらみなさんちょっとずつ違うことを言っていたので」
「それってプロとして、その人が理解ができず、できが悪いと言うことでしょ? そのために他のみなさんの貴重な時間を5秒でも使うなんて、その5秒が無駄ですよね。わかります?」
「無駄って…」
そんなやり取りも、なんとか櫻子さんをなだめ会議の場に引きずり出してみるも、話を聞かずパソコンを怖い顔で見つめている。今、そんなに忙しかったかしら?
「櫻子さん、どう思います?」
私はたまらず彼女に話をふってみた。
「え、今夜のディナーのことですか?」
「いえ、違います。新しい魔法についてです。もう一度説明しますね」
「けっこうです。そんなクダラナイことを議論するなんて、みなさんお暇なんですね。私、それにビックリなんですけど。うふふ」
「……」
こうして、話を聞かず自分の言いたいことだけを言い、トンチンカンなやり取りが続くのだ。
はぁ…。なんなんだ?
この人、マイペースにも程がある! 絶対協調性にかけるって、通信簿に書かれるやつだ!
気付くと私の鼻から、つーーーーっと温かいモノが流れていた。
「やっだぁ~。鼻から赤いものが飛び出してますわ。鏡をご覧になって。勇者を目指した方って、血の気が多いって聞きますけど、本当なんですね。うふふ」
私は慌てて鼻を拭きながら、途方にくれるしかなかった。
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