ハウンド

釣ール

気が散る

 いつも周り道をしてまでこの家を通る人々の前で吠えてみる。


 人ではないから客観的視点というのがどういうものかは分からないけれど、嗅覚と聴覚でそんなトレーニングは必要がない。


 人は無い物ねだり。

 俯瞰力はいるのかもしれない。


 配慮があり、才能があり、幸福があり、運命があり、環境があっても人間は人間。

 人は人。


 繰り返すことすら現実的ではない謎の副産物。

 飼われている自分は熊の劣化動物でしかない。


 見えない気配はいつもと同じ。

 わかる臭いは第六感のある人間でも判別不可能。


 ここを通る気配と臭いの中で、隣家のインターホンを何度も鳴らしては昔のように触れることも察知されることもない誰かが自覚なくいつも通りの暮らしをしている。


 その家はもうあなたの場所じゃないとは言えないし言いたくない。


 主従関係や強制力のない関係なら人間でも構わなかった。


 一つ言えるのはその誰かはもう人ではないこと。


 ああ、そうか。

 こうやって風化していくんだ。


 木枯らしが吹く季節も、

 雨ばかり降る日も、

 何事もない日も…


 残った記憶を頼りに繰り返すことすらなく環境や景色となる。


 オオオオオオーン!


 誰かいるわけでもなく、なにかの予兆とかでも吠えてみた。


 あの方は気がついていない。

 自分もあの方からすれば景色なのだ。


 この感覚がなんなのかわからなかった。

 吠えた後のことが気になるからもうやめた。


 なんなのだろう。

 関係ないはずなのに。

 吠えずにはいられなかったこの衝動は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハウンド 釣ール @pixixy1O

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ