第70話 鎧化


「ふぅ~堪能したぞ」


「そうですか……」


魔王はどうやら別格らしい。


インキュバス並みの僕がヘロヘロだ。


「それじゃ、もう一戦交えるか?」


インキュバスの本能がそうせるのか……


体はもう限界なのに……


「やりますか!」


そう答えてしまった。


「それじゃ、また頑張ろうな!」


そう言うとリリネルは僕を押し倒し馬乗りになった。


「しかし、聖夜、お前は凄いな……魔王の私を相手に普通に出来るんだからな」


確かに言われてみればそうだ。


「リリネルさんが凄い美人だからですかね」


「そうか……そう言われると、その女として凄く嬉しいよ」


「それで、リリネルさんは魔王なんですよね」


「まぁな、とは言え亜夢に取り込まれたから、正確には昔の魔王が正しい」


「それで、本当に魔族と揉めたりしないで済むのでしょうか?」


「それは大丈夫だよ! 魔族は王族になると親類しかいない! 今の魔王はアモウスだと思うが、子供の頃に『リリネルおばさん』と呼んだからゲンコツを落としてやった事もあるんだ。本当の年齢は兎も角、私みたいな女におばさんは無い……そう思わないか?」


「本当に……そうですね」


リリネルに年齢の話はしないでおこう。


普通に考えたら数百歳位にはなっているだろうけど……


「まぁな、それに亜夢の中には魔王デウスの母や妻娘もいる。魔族に危害を加えないと解れば放置してくる筈だ。亜夢が敵にならないなら、それに越したことは無い。あの時の亜夢ですら、監禁するまで莫大な被害に及んだ……今の亜夢には怖くて手など出せんよ」


「ですが、幾ら亜夢が強くても体は1つですよ……」


「あのな……お前が抱いたルイスが居るよな。あれでも亜夢の中に眠っている中じゃ強い方じゃない。それでも、人間の数百位なら簡単に殺せる。それに人類側なら『勇者』も眠っている。そんな化け物と戦いたい奴なんていると思う?」


「居ませんね」


確かにそんな奴と戦いたいなんて戦闘馬鹿しかいない。


「そうだろう? 亜夢の君が主になった……もし魔王軍に入るならきっと『魔族軍統括司令官』簡単に言うとナンバー2になると思うが、なる?」


「なりません」


「まぁ、平穏に暮らしたい聖夜なら、そういうと思ったわ……あっちょっと亜夢……」


『もう充分楽しんだでしょう? 魔王だから出せとか? お兄ちゃんの為になる話しがある?とか言いながら、やってばかり……この色ボケ魔王……』


『待て、待つのだ、折角余韻に……聖夜、聖夜、またの指名……あっ』


「ふぅ~お兄ちゃんおはよう! お兄ちゃんってロリコンなのに熟女もイケるんだね……本当に節操がないなぁ~」


「べ、別に僕は、普通だよ」


「そう……」


「あっ、その目は信じて無いな」


「うん、だって亜夢にはお兄ちゃんの心が全部読めるから」


「そう……」


「うん、亜夢は化け物だから、心が読めるの……だけどお兄ちゃんからは嫌な感情がまったくないの……可愛いとか、綺麗だとか本当に照れちゃう……だからね」


「だから……」


「お兄ちゃんの敵は全部亜夢の敵だから……安心してね! み~んな、みんな殺しちゃうからね。お兄ちゃんはね平和に暮らせるよ!」


「あの……亜夢……」


「うんうん、大丈夫! 亜夢の中には竜人も居るし、魔王もいるからね……お兄ちゃんが亜夢にお願いするなら、王国だって滅ぼしちゃうし……欲しい女の子が居たら亜夢に言ってね。王女だろうが聖女だろうが全部手に入れてあげるからね」


これは……


「うん、解ったよ」


「うんうん、聖夜お兄ちゃんは亜夢を……うううん。亜夢だけを愛してくれれば良いんだからね」


「そうだね……」


『来夢……』


「ハイハイ~」


「って来夢……何故」


「あはははっ、私もね亜夢に取り込んで貰ったの」


「精神体みたいな物でも可能だったのか」


今現在の亜夢は、亜夢の首の横に来夢の顔が生えている。


「うん、亜夢に融合されちゃったの。だけど後悔は無いよ! これで聖夜くんとも生身で相手出来るからね」


「お兄ちゃん、亜夢が無理やりしたわけじゃないからね。来夢が自分から選んだ事だから」


「それなら、問題無いよ」


自分から選んだんならしょうがないな。


「それとね、お兄ちゃん……亜夢、もっとお兄ちゃんと一緒に居たいのだから……良いよね」



そういうと、亜夢と来夢だった姿が崩れ始めまるで肌色のスライムみたいになり……僕に飛びついてきた。


「うわぁぁぁぁぁーーー」


僕の服は簡単に溶けていき……


まさか、僕は亜夢に食われてしまったのか。


これが融合捕食。


だけど、亜夢は女限定で男は捕食できない筈。


体は溶けていない!


なんだ、これは……


銀色に輝く綺麗な鎧。


左胸には亜夢の顔が女神の様に彫刻されている。


見方によっては、某アニメの主人公たちが纏っているあれに見える。


「なんで叫んでいるのかな?お兄ちゃん。来夢ちゃんの能力に寄生があったから、亜夢がお兄ちゃんに鎧の姿で寄生したの……これならいつも一緒に居られるし、離れる事は無いよ! あっちの相手の時は体の一部は繋がっているけど、ちゃんと出来るから安心して」


「え~と、これは……」


「もう切り離せないよ! だけど、これでいつも一緒だね、お兄ちゃん。亜夢が寄生していれば、もう安心、魔王城でお昼寝していても周りに死体が増えていくだけだから、恐い物なんて無いよ」


「……」


「お兄ちゃんは亜夢が居れば他の女なんて要らないよね……尤もお兄ちゃんが気に入った子が居たら、すぐに取り込んであげるからね」


もう、されてしまったのだから仕方が無い。


これで、もう何も恐れずに暮らせると考えればこれで良いのか。


「そうだね、これからも宜しくね亜夢」


「うん!」


これは凄く幸せ……なのかな。


きっと、多分幸せな筈だよな。




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