第47話 どうでも良いから傷つかなかった。


「おめでとうございます! 聖夜様、聖夜様達のパーティ名が決まりました! そして聖夜様の字(あざな)もです!」


冒険者ギルドの受付でいきなりこんな事を言われた。


うん? パーティ名とかって普通は自分で決めるんじゃないのか? 字(あざな)とかもそうじゃないのか?


「それって、自分で決めるものじゃないですか?」


「良く異世界人の方は勘違いしているのですが、パーティ名も字も実力を認められた者が周りの冒険者から呼ばれる様になり、それがギルドで認められ呼び名となるのです」


「そうなんですか? それでどんな名前が付けられたのでしょうか?」


「聖夜様の字は怪物王子、そして……パーティ名はスパイダーです」


なにそれ、余りカッコ良くない名前じゃないか?


「どうして、そうなのですか!」


「え~と怪物王子は、その言いづらくて言えませんがスパイダーは手が6本で脚が2本だからです」


成程。


塔子をおぶって、綾子を肩車しているから手が6本。


歩くのは僕だけだから足2本。


合計8本だから蜘蛛なのか。


「それってやめて貰う事は出来ないのですか?」


「無理ですね! ですが、どんな字でも、名前がつく事は実力者の証ですから、素晴らしい事ですよ。おめでとうございます」


怪物王子にスパイダー。


なんとなくだけど、悪口にしか思えない。


特に怪物王子は多分、リリアが絡んでいる様な気がする。


正直言って喜べないけど、決まってしまったのなら仕方が無いな。


「……ありがとうございます」


不本意だけど、お礼位は言うべきだよな。


「それでは、遅ればせながら、今日呼び出したご用件はですね……王宮から呼び出しが来ています。早々と王宮の方にお願い致します」


「それ、行かなくてもよいですよね? 冒険者は自由な職業だと聞きました。王宮の方には『嫌だ!断る!』そう伝えておいて下さい!」


冒険者は形上は『何者にも縛られない職業』形上は貴族や王でも命令が出来ない筈だ。


そう聞いた。


「あの……ですね……確かにその通りなのですが、それはあくまで建前です。 王や貴族と揉めようとする冒険者なんてまず居ませんよ! 例えAランク冒険者パーティでも王宮から呼ばれたら喜んで馳せ参じますよ!? ていうか、拒否なんかしたら、ギルマスが真っ青な顔で説得に回ります」


「それでも、僕は困らないから……断ろうかと……」


「いや、止めて下さい! 本当に困るんです! そうだ、ギルマスに私から頼んでランク上げて貰いますから……ねっねっ」


冒険者ランクはA~Fまである。


今現在の僕のランクはE。


別にランクはあくまで目安だから『出会いがしら』に狩った獲物は購入して貰えるし、採取した薬草などの買取額が変わることは無い。


ただ、難しい依頼や指名依頼が受けられないだけだから、余り困らない。


「余り魅力を感じないな! EがDになっても、別に嬉しいと感じないし……出来たら拒否で」


「あのですね、冒険者は一つでもランクを上げるために頑張っているんですよ! ただ王宮に行くだけでランクが上がるなんて凄くラッキーですよ! 絶対に行くべきです」


「行くのは、僕だけでいいのかな?」


「はい、メンバーでとは言われてないですね」


なんだかんだ言っても『長い物には巻かれておけ』そう言われている気がする。


仕方ない、ここは取り敢えず王宮に行って……めんどくさくなったら、この街を出て他の国へ向かうか。


「解りました……仕方ないので王宮に行ってきます」


「そうして頂けると助かります……昇級の件はすぐにギルマスに伝えておきますから」


「解りました」


『冒険者の自由』なんてこんな物だよな。


◆◆◆


王宮に行く前に宿に寄った。


「という訳でちょっと王宮まで行ってくるね」


「「そう……行ってらっしゃい」」


「行ってらっしゃいませ! 聖夜様、王宮から呼び出されるなんて凄いですね」


散々、冷遇を受けた二人と違いリリアは笑顔だ。


まぁ、酷い目にあった人間以外にとっては『光栄な事』なのだろう。


特にリリアは元貴族階級だから、そう思うのも無理も無いな……


「ただ僕は余り王家の人間が好きじゃないんだ。 そこの二人もね。 取り敢えず行ってくるよ」


三人に見送られて王宮へと向かった。


◆◆◆


王宮につくとすぐに謁見の間に通された。


玉座に座っているのが、確か国王のドラド6世。 その横に立っているのがライア王女だ。


追いだした僕になんのようだ。


「よくぞ参られた聖夜殿。 実は聞きたい事があるのだ。 詳しくはライアから聞いて欲しい」


スキルやジョブについてバレたのか?


もしかして同級生の殺害も…….


いや、それならこんな待遇の訳無いな。


まずは聞いてみるしかないな。


「解りました」


「率直に聞きます! 此処を出てから、冒険者として活躍しているそうですが……大丈夫なのですか?」


「どう言う事でしょうか?」


話しを聞くと大樹達、同級生の殆どが、精神に異常をきたしているそうだ。


「それで、聖夜殿はその場に居たにも関わらず、普通に生活していると聞きました……もしかして精神を保つような隠しスキルでも持っていたのでしょうか?」


見当違いだけど……どう説明するか。


納得のいく答えが必要だ。


今回の話は見当違いだが、調べられたらホコリが出かねない身だからな。


「説明の為に服を脱ぐ許可を頂けませんか?」


「理由は解りませんが、それで何かの説明がつくのであれば、構いません」


僕は服を脱ぎ、パンツ一枚になった。


傷を治さないで良かった。


「どうですか? 凄い傷でしょう?」


「確かに凄い傷ですが、それと精神的な事となにか繋がりがあるのでしょうか?」


「この傷をつけたのは同級生です! 僕は日常的にいじめという名の拷問にあっていました……召喚された時僕は自殺した直後でした。それを女神が蘇生したのです」


「……」


「此処に来た時にはもう、僕の心は死んで居た。 だから同級生が死のうが生きようが僕には『どうでも良い』 どうでも良い存在が目の前で死んでもどうとも思わない。僕自身も死んでも構わない、そう思っていました……まぁ苦しんで死にたくはないですが……」


これは今ではもう変わっている。


これは、そう、この世界に来たばかりの僕の考えだ。


「それはどうでも良い人間が死んだだけだから、心は可笑しくならない。 自分自身も自殺を考える位だから異常をきたさなかった。そう言う事ですか?」


「そう言う事ですね」


「だったら、貴方は仲間を……」


「仲間じゃない……他人です」


「言い換えます。異世界人を見棄てたのですか……それは……」


「僕の能力は低くお城を追われた位ですよ? 助けに入っても死体が一つ増えるだけです。 助ける力があるなら兎も角、助ける力が無い僕が逃げ出すのは当たり前じゃないですか? 尤もあったとしても見棄てたかもしれませんけど?」


「貴方には人の心が無いのですか?」


「暴言吐いてもよいですか?」


「構いません」


「もし、ある人物が姫様を数名で毎日犯し続け、拷問をし続けたとします……期間は1年以上です。その人間が困っていたら助けますか?」


「私は……」


「助けないでしょう? 僕の傍に元貴族令嬢で顔を焼かれた存在がいます。貴族の間で起こった事なら王家だって知っている筈です。 ですが、貴族も王族も決して手を差しのべていない。他人なんてそんな物です。 まして僕にとっては嫌いな相手……決して助けたいとは思いません。 それともこの国には自分が死ぬ様な状態でも見ず知らずの方の為に命をかけて戦えなんて法律ありますか?」


「ありません……」


「でしょう? 僕は心の中で『魔族ありがとう! 僕の嫌いな奴らを殺してくれて』そう思っていたのかも知れません。ですが……思っていただけでは罪には問われませんよね? どうですか……」


「問えません……」


「僕にとって『どうでも良い』いや『恨みのある人間』が目の前で死のうとどうでも良いから……精神に異常をきたさなかった。それだけの事ですよ」


本当は、僕も何人か殺しているが、わざわざ言う必要は無い。


「そうですか、確かにその立場ならそうしても仕方がありませんね……ですが、それとは別にもし戦えるなら魔族と戦って貰う事は出来ないでしょうか?」


「無理ですね……目の見えない女二人を補助しながら僕が足を使って逃げながら戦う。俊敏な魔族と出くわしたら死ぬだけです。 あの洞窟で見たレベルの相手をしたら、逃げられずに死ぬだけです。 拓けた場所でしか戦えない僕らじゃベテラン騎士にすら勝てませんよ……多分」


多分、これから強くなれるかも知れない。


だが、敢えてそれを言う必要は無い。


「そうですか……それなら私から何を言う事もありません……もう下がって構いません」


「態々御足労頂いてすまなんだ……もう会う事もあるまいが、下がって良いぞ」


二人とも結構窶れているな……僕にはもう関係ないけどね。








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