第40話 死んでも良い人間


「聖夜様、おはようございます!」


顔の中央には大きな傷がある。


だけど、もう怪物令嬢とは誰も呼ばないだろう。


顔半分焼かれた顔は治り、中央に切り傷のような傷があるだけだ。


だが、元が美人だからこそ、それでもこれは目立つ。


「おはよう……」


「聖夜様、まだ顔の事を気にしているのですか?」


「まぁな」


「気にする事は無いのですわ。 元は化け物みたいな顔でしたわ。 ですが、今はただ顔に傷があるだけ、この程度の怪我なら普通にその辺りにもいますわ」


この世界は確かに前の世界より物騒だ。


女冒険者ならリリア以上に傷がある子もいる。


普通と言われれば、確かにもう普通だ。


「そうか、リリアが良いならそれで良いや」


「そうですわ。元から聖夜様はわたしの顔なんて気にして無かったのですから……聖夜様が気にしない以上これで充分なのです」


「そうだな」


顔が治ってからリリアは良く笑うようになった。


それだけで、今迄以上に可愛らしく見える。


これが本当の癒し系の笑顔だと思う。


塔子と綾子は……パチモンだからな。


中身を知っていると、どうも癒されない。


「ええっ、本当に綺麗にして貰ってありがとうございました」


「どう致しまして」


本当に含みの無い笑顔……癒される。


「聖夜、笑顔なら私も自信がありますよ」


「私だって愛嬌があるって言われてたよ! ほらね?」


二人が必死に笑顔を作ってくる。


確かに凄く可愛いのかも知れない。


だけど、僕にはそれが可愛いと思えない。


だって『その笑顔は僕を傷つけて遊んでいた時に』も見せた笑顔だからだ。


目が見えない今の彼女達にそれを言うのも……良くないよな。


「二人も充分可愛いよ」


そう二人に伝えた。


塔子たちは急に明るくなったが……


それは彼女達が目が見えないからだ。


だって、目が見えたら僕の覚めた顔が見えただろうから、決して笑顔にはならないだろう。


さて……残るは、リリアの義母と義姉だ。


情報は実はもう手に入れている。


奴隷を購入する時には、その身元についての説明書がついてくる。


特に貴族絡みの事は把握しておかないと大変な事になるからしっかりと書いてあった。



◆◆◆


リリアの顔を傷つけ追い出したのはドルマン女男爵、そしてその娘マドレーヌ。


そしてその後の人生に関与したのは金貸しのザブラン。


追い出した後もリリアが真面に働けないようにドルマン女男爵は圧力をかけ邪魔をし続けた。


そして、高利貸しのザブランに更に追い詰める為に高利で金を貸させた。


それが真相なのだと思う。


普通に考えておかしいだろう?


嫌な言い方だが、あの顔のリリアは『価値が無い』


お金を貸し奴隷にして売っても利益が出ない。


果たしてその状況でお金なんて貸すだろうか?


いや、貸す訳が無い。


だったら、プロの金貸しが何故金を貸したのか?


リリアを不幸にする為以外に考えられない。


恐らくはこの件も裏でドルマン女男爵が糸を引いていたに違いない。


奴隷商人の関与も疑ったが、しっかりした書類を出している以上恐らくは押し付けられたのかも知れない。


果たして誰から手を付けたら良いのか……


やれる所からやるしか無いな。


「ちょっと出かけてくる」


◆◆◆


僕は今、酒場月の光亭に居る。


ターゲットは二人。


嫌いなエールをちびちび飲みながらその瞬間を待った。


居た。


恰幅の良い男、此奴が多分、此処の店主だ。


「もしかして、貴方が此処の店主のリッチモンさん」


「ああっ、そうだけど? それがどうした?」


「いや、この辺りじゃ最高のコックと聞いたから見てみたかったんです……いやぁ本当に腕が良さそうだ」


「そうか!? 此処のお勧めはシチューだ! ゆっくり食っていってくれよ」


「ありがとうございます」


僕はお礼を言いながら手を差し出した。


握手のつもりで手を出す店主に『ばい菌』のスキルを使った。


これで此奴は死ぬ……


「それじゃ忙しいんで、悪いな」


「いえ、あっ、あそこに居るのが綺麗と評判の女給さんかな」


「がははっ、綺麗かどうか解らないが此処には彼奴しか前からいないな、まぁ醜い奴もいたがな……綺麗というなら彼奴だ」


「そうですか! いや何もかも評判通りの店ですね」


「そうか、それじゃ本当に悪いな」


「いえ、引き留めてすみませんでした」


これで、店主のリッチモンは死ぬ。


「お姉さん、エールのお代わりくれる!」


「はい、ただいま」


僕はしっかりとその女給の目を見ながら『腐る目』のスキルを使った。


「あっやっぱり良いや、これエールの代金、あとチップね」


「良いんですか?」


俺は見えるようにエールの代金とチップを置くと月の光亭を後にした。


なぜ、こんな事をしているのかって?


リリアから話を聞いた所半値以下のお金でこき使われていたそうだ。


これはドルマン女男爵が絡んでいるかどうか解らない。


だが、通常支払う金額の半分でこき使っていた。


そして女給もリリアを虐めていたのなら……どっちみち良い奴じゃない。


『死んで良い奴だ』


あれ……そう考えたらまだ身近に殺して良い奴居たな。


◆◆◆


「もしかして、また奴隷のご用命ですか?」


「また見せて貰えるかな?」


「お金に余裕が出来たから、色々とみて見たいんだ」


「畏まりました、今案内させて頂きます」


奴隷商人の近くに行き手を軽くぶつけ『ばい菌』を使ってみた。


やはりそうだ……レベルが上がったのなら複数人に使えるかも知れない。


そう思って試してみたが……その通りだった。


暫く奴隷商人と一緒に奴隷を見て回った。


「ちょっと好みの子が居ない。また顔を出しに来るよ」


「またのお越しお待ちしております」


これで良い……奴隷商人もすぐに死ぬ。


此奴も、本当の所は解らない。


ドルマン女男爵の息のかかった人間じゃないかもしれないがリリアを『晒し物、見世物のように扱い』『碌に食事を与えなかった』その事実があるのなら『死んで良い人間』だ。


復讐する範囲はこの位までで抑えた方が良いかも知れない。


あとはドルマン女男爵、そしてその娘マドレーヌ、金貸しのザブラン。


その辺りを処分して終わらせよう。







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