第39話 治療
「塔子、悪いけど、リリアにヒールを使ってみてくれないか?」
「別に構いませんが……」
「聖夜様、私の顔はヒールのその上のハイヒールでも治りませんわ」
その話は奴隷商でも聞いた。
だけど、何か見落としがある気がする。
そもそも何も反応が無いのがおかしい。
聞いた話では酸で焼かれたのだから呪いの類じゃない。
それなら、何故治らないのか……検証してみた方が良いかもしれない。
塔子は聖女だし呪文じたい無料でかけ放題なんだからやらない選択は無いよ。
「塔子はこれでもジョブが聖女だから、お金も掛からないしやらない選択は無いよ」
「それなら、構いませんけど……」
「随分と酷い言いぐさですね」
「塔子、借りという事なら、僕にもリリアにもかなりあると思うんだけど? 協力ができないの? それならリリア、今日から綾子だけのお世話で良い……塔子は無視……」
「解りましたわ」
「わかったわよ、協力すれば良いんでしょう? 良いわ……ヒールを掛けてあげるわよ! はい、ヒール」
リリアの顔の焼けた部分が……あれっ、何も起こらない。
「塔子、本当に掛けたのか?」
「ちゃんと掛けたわよ」
何も起こらない。
僕はズボンを脱いだ。
「なにしているの?」
塔子はうっすらとは見えるから……その様子に少し驚いているようだ。
「塔子、悪いけど、今度は僕の太腿にヒールを掛けてくれるかな?」
「はいはい、解ったわ、はいヒール」
やっぱり何も起こらない。
これでわかった。
恐らく、古傷は魔法では治っているそう判断されるのかも知れない。
だったら、これでどうだ?
「聖夜様ぁぁぁーー何を……」
僕は自分の太腿の傷をナイフで切り落とした。
かなり深くえぐったから、もの凄く痛い。
「うっハァハァ……悪いけど、塔子またヒールを掛けてくれ!」
「わかったわよ……ヒール……これで良い?」
塔子は良く目が見えてないから動揺してない。
今度は光輝き、しっかりと治っていった。
やはり僕の考えは正しかった。
「リリア、もしかしたらその顔治せるかも知れない」
「本当ですか?」
「絶対とは言えないけど、やってみる?」
「あの……お願いします」
「それじゃ、色々と準備して来るから待ってて」
そう伝え、僕は宿を後にした。
◆◆◆
今、リリアは眠っている。
あのあと、僕は色々と薬屋に行って買って来た。
その中の1つ眠り草を使ったからだ。
この世界に麻酔は無い。
だが、この草は上手く使うと魔物を眠らせる事が出来て、その後、剣や魔法で攻撃しても起きない。
だから、これで代用させて貰う事にした。
「良いか、塔子、俺が良いって言ったらヒールを掛けてくれ」
「……わかったわ」
「聖夜、私も手伝う事はあるかな?」
完全に目が見えない綾子に手伝って貰うことは無いな。
「うん、特に手伝って貰うことは無いかな。ゆっくりしてて良いよ」
「そう……」
少ししょげているけど、仕方が無い。
本当に何もないんだから……
「ハァハァ……」
「聖夜!?」
「大丈夫だ……」
もうヤルしかない。
これから俺はリリアの顔を切り落とすんだ。
しかも、薄くではなく下の顔まで抉るように……
火で焼いたナイフをリリアの顔にあてがう。
そのままあてがい、おもいっきり削いだ。
「うぐっ」
頭皮との境から切ったので頭の頭蓋が見えた。
吐きそうになるのを堪えながらそのまま耳の方に引いてきて返すように上へ切っていく……頬肉が無くなり歯と周りの肉がむき出しになり、そのまま鼻と目の間を通して頭部へ……これで大丈夫だ。
「うっうげえぁぇぇえぇぇーー塔子、ヒールだ」
「わかったわ……ヒール」
盛大に吐きながらどうにか塔子に指示をだした。
◆◆◆
駄目だ……失敗だ。
リリアが起きたら、なんて伝えれば良いのだろう。
「う~ん……聖夜様!?」
僕はリリアに謝らないといけない。
「ゴメン……上手くいかなかった」
「……そうですか? 良いんですの……こんな顔になった私に優しくしてくれたのは聖夜様だけですから……」
「治してあげられなくてすまない」
「気にしないで下さい……鏡、鏡を下さい……私どんな顔に」
「はい……」
「嘘……これの何処が失敗なのですか?」
結局、僕の方法では完璧に顔を治せていなかった。
太腿の傷だって今見れば、周りと境がある。
リリアの顔も同じで顔の火傷だった部分と元から焼けて無かった部分に傷の様な線がある。
一番近い感覚だと、某宇宙女海賊みたいな感じだ。
「どうしても傷が……」
「何を言っているのですか? こんな綺麗な顔に戻してくれて、この位の傷なら、今迄と全然違いますわ」
「そう、それなら良かった」
喜んでくれて良かった。
「聖夜、その方法なら私達も治せるんじゃない?」
「もし治せるなら私も治して欲しいな」
皮膚と肉。
それと眼球じゃ全然レベルが違う。
「ゴメン、ヒールじゃ四肢欠損や眼球は治らないだろう? 無理だよ」
二人は落胆しているようだけど……本当の事だから仕方が無いよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます