前のエピソード――第34話　変わる日常

「疲れたぁ～ただいま」

「お帰りなさいませ　聖夜様」

「お帰りなさい」

「お帰り～」

疲れはしたけど、前と違って此処からの仕事は無い。

以前は此処からも介護があった。

介護しながら働いている人って……凄い。

本当にそう思った。

少なくとも僕は短時間ですら耐えられなかった。

「リリア、留守中変わった事は無かった？」

「はい、何も問題は有りませんでしたわ。　何時もの普通の日常です」

「そう、リリアご苦労さん……お土産に砂糖菓子を買ってきたから皆で食べよう」

「砂糖菓子、いつも本当にありがとうございます」

「聖夜、その砂糖菓子、美味しいの？」

「不味くない？」

この世界は前の世界よりお菓子の文化も遅れている。

ショートケーキの様なクリーム菓子も無いし、勿論アイスクリームも無い。

「ドーナッツみたいで美味しいとは聞いたけど？　まぁ食べてみて美味しくないって言うなら、俺やリリアが食べるから良いよ」

「そうですわ、砂糖菓子なんて豪華な物食べさせて貰える奴隷なんていませんわよ？　二人はもう少し、聖夜様に感謝するべきですわ」

「はぁ！？　私は奴隷じゃないわ」

「私も違うよ」

「違わないだろう？　顔にしっかりと奴隷紋を刻んでいるじゃないか？」

「これは……その私の所有者が聖夜ってことで奴隷って事じゃないわ」

「そうそう、奴隷じゃ無くて所有者が聖夜って解るようにしているだけだよね？」

こいつ等、何を言っているんだ。

「あのさぁ、目が見えないから、何もさせないだけで『奴隷』だよ！　一体、自分達の事を何だと思っているんだ！」

「……その、彼女とか？」

「あはははっ、友達以上彼女未満とか？」

何故、そうなる。

「何処に、二人を好きになる要素があるんだよ？　自分を虐めていた奴を好きになる訳ないだろう？」

「嘘よ……私を愛していなければ、こんな献身的な事出来ないわ。　下の世話もしてくれたし、まるで宝物みたいに体を清めてくれたじゃない？　しかも、裸の私を見ても、一緒に寝ていても手も出して来ない……これが愛じゃ無かったらなんなのよ！　別に照れなくていいの！　こんなに尽くして貰っているんだから……わ、私だって応える用意はあるわ」

「そうだよ……私感動しちゃった！　目が見えなくて困っている私を引き取ってくれて、献身的な介護までしてくれて……裸を見ても一緒に抱き着くように寝ていても手を出して来ない。本当に大切にして貰っている。そう思ったよ……だから、あはははっ、そろそろ私から誘おうと思っていたんだよ。聖夜なら、そのねしても良いよ？」

良くあそこ迄、嫌って虐めていたのに、こんな事言えるな。

僕は……

「何を勘違いしているのか解らないけど。心細いから同郷ってだけで手元に置いただけだよ。　好きじゃないし道具みたいなもんだから」

「あの聖夜、もう照れなくて良いからね。心の準備はもう出来たんだから！　もう彼女として扱って貰って良いから！」

「うんうん、本当にシャイなんだから～恥ずかしがらなくて良いから、今日の夜はしっかり楽しもうか？　私が教えてあげるよ……聖夜の気持ちは良く解ったから」

なに言っているのか解らない。

「そんなんじゃないからな……」

今夜は、二人から離れて寝よう……