第36話 99点


「聖夜、照れなくて良いんだからね! この世界には南条財閥は無いから、その普通に手を出してくれてもいいわ……そのお世話になっているから」


そう言うと塔子ははにかむようにしてこちらを見ている。


「そうそう、彼女のつもりで扱ってくれて良いよ! そうだ聖夜って童貞だよね……私がリードしてあげようか?」


綾子も同じだ。


ハァ~


確かに顔は良いし、スタイルも抜群だ。


もし、僕がいじめにあう前にこんな言葉をかけられたら、きっと顔を赤くしたに違いない。


だが、過酷なイジメにあった僕は、この先は兎も角今は抱きたいとは思わない。


二人は確かに美少女と言ってよい位可愛い。


だが、僕はこの顔の裏にあるまるで般若のように歪んだ顔を知っている。


僕の背中にカッターで文字を書いた塔子。


同じく、大河と共に暴力を振るってきた綾子。


笑いながらそれをした彼女達を心から愛せるもんじゃない。


「揶揄わないで良いから、とっとと寝て」


「照れなくて良いからね」


「そうそう、ほら一緒に……」


「塔子、綾子今日からは二人で寝て、もしトイレに行きたければ呼んでくれれば僕かリリアが対応するから」


僕が彼女達を手元に置いているのは『懐かしさ』と『寂しさを紛らわす為』だ。


異世界で一人で生きていくのが怖かった。


だから、嫌いな相手でも一人で生きていくよりマシ。


そう思い受け入れただけだ。


『孤独』の怖さは仲間外れにされていた僕は良く知っている。


だから、多分、いや絶対に『愛』なんて物じゃない。


「それで、聖夜はどうするの?」


「寒いんだから、一緒にひっついて寝た方が良くない」


「いや、僕はもう一つのベッドでリリアと寝るから」


「なんで!? その子顔が焼けているんでしょう?」


「だったら、目が見えなくても私の方が良いんじゃない?」


「傷って言うなら僕の体には沢山の傷がある。ご丁寧に皆んなしてつけてくれたからな! 良いからもう寝てくれないか?」


「なんだかゴメン」


「ゴメンなさい」


「解れば良いんだ」


そう伝えて僕は二人をベッドの方に連れていった。


◆◆◆


二人との話し合いが終わった。


リリアは傍で聞いていたが一切口を開いて来ない。


多分、奴隷だからと遠慮していたのかも知れない。


「あの、聖夜様、私と寝られるって本当ですか?」


「ああっ、ゴメン、リリアが嫌だっていうなら床で眠るけど? 今迄四人で寝ていたのが2人と2人に別れて寝る。それだけだよ」


なんだかリリアの顔が赤くなった気がした。


「そんな、ご主人様である聖夜様を床で寝かせる事なんて出来ませんわ! ですが……その私と寝るのが嫌じゃありませんの?」


多分、顔の事を気にしているのだろう。


確かにリリアは顔半分が焼け痣になっている。


他の人が見ればきっと醜い。


そう思う筈だけど……虐めで色々と感覚や感情が狂っているのか僕にはそう思えない。


正直に伝えるのも難しいし……どう伝えようか。


「リリアは99点」


「99点? なんの点数ですの?」


「凄く綺麗で可愛くて、性格も良いから本来なら100点満点の女の子だよ。だけど、顔が焼けているから1点マイナスで99点。ちなみに辛口だからアイドル、この世界じゃ歌姫っていうのかな? そんな女の子でも60点しかつけたことは無い。ちなみにライア王女が40点位で、あの二人は30点位かな……本当は人に点数なんてつけちゃいけないんだけど、敢えていうなら、そんな点数になる。 僕にとって顔が焼けているなんてそんな物だよ」


「そんな……私顔が焼けてから、怪物令嬢と言われて誰からも愛されなくなりましたわ……家を追い出された時に助けようと動いた方や『困ったら僕の所においで』なんて以前から優しかった方が、私を見た瞬間に手のひらが返り『近づくな化け物』そういうようになりましたの……奴隷商でも見られたでしょう? 『怪物令嬢』の表札、奴隷というより半分見世物として、あそこに置かれていたのです。 売れない商品だからと満足にご飯も貰えませんでしたわ」


そう言われれば、何か書いてあった気がしたけど、余り気にして無かったから気がつかなかったな。


自分の美的感覚がおかしいのだろうか?


焼けた顔半分の痣よりも、僕はどうしても、リリアの綺麗な部分だけをつい見てしまう。


綺麗な金の髪は風で流れるようにサラッとしている。


目はブルーアイで肌は白く透き通る程綺麗だ。


体は華奢そうだが、出る所はしっかり出たスレンダーな体型。


これ程綺麗な少女は芸能人を入れても見た事が無い。


並んだらきっとハリウッドの女優でもパチモンに見える位綺麗だ。


「そう? 確かに顔に火傷はあるかも知れないけど、それでも僕はリリアは凄く可愛いし綺麗だと思う」


「そうですの……そこまでおっしゃられるなら私も女として、しっかり伽の相手も……痛っ、なにしますの?」


僕は軽く、リリアの頭を叩いた。


「そういうのはまだ良いから……ほら、もう夜も遅いし寝よう」


「……解りましたわ。ですが、私は何時でも聖夜様を受け入れる準備は……」


「早く寝ようか?」


「わ、解りましたわ」


変な気を起こしそうだったから、僕はリリアに背を向ける形でベッドに横になった。





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