第25話 これじゃ休めない
「本当に潜らなくても大丈夫なのですか?」
「まぁな、お前を庇うと俺にも立場があるから庇えないが、お前は俺が知る限り一般人と変わらない。取り敢えず、実習に参加した事で義務は果たしている。どうせ、城に帰ったら幾ばくかのお金を貰って追い出されるんだ。怪我しないようにしていた方が良いんじゃないか?」
全員が全員悪い人間じゃないんだな。
「そうですね……考えておきます。ところでテントの同級生のお見舞いをしても良いですか?」
「ああっ、別に構わない」
さてと、どうしようか。
まずは、テントの中を見てからだな。
テントの中に居たのは男二人に女一人。
此処に居る三人は虐めに参加していただけで『周りに引きずられた』だけの存在だ。
僕のスキルばい菌は1人にしか使えない。
誰にするか? 微妙だ。
「皆、大丈夫か?」
「聖夜~お前、俺達を~ハァハァ笑いに……きたのかよ……」
「ふん……どうせ、ざまぁ見ろとか思っているんだろう……」
「こんな姿になった私を……ハァハァ嘲笑いたいの……ハァハァ」
思ったより重症だ。
よく考えたら、此処は剣と魔法の国。
治せるのなら魔法かポーションで一発だ。
前の世界のように外科や内科みたいな治療をするわけがない。
つまり、この世界では、病と違い怪我限定なら治るものは簡単に治る。
治らないものは恐らく魔法やポーションでは治せないものなのかも知れない。
この三人は……包帯が巻かれて毛布が掛けられているが、恐らくは四肢欠損レベルの怪我をしている。
本来なら盛り上がっている筈の毛布がへこんでいる場所がある。
このまま死ぬか。
命が助かっても、恐らくは過酷な人生しかない。
「いや、僕は君達と違って、そこ迄性格は悪くない。同級生が怪我したと聞いてそのお見舞いにきただけだ。邪魔したね」
それだけ言ってテントを後にした。
◆◆◆
さっきの騎士がまだいたので、三人について聞いてみた。
「あの三人はこれからどうなるのですか?」
「やはり気になるか? この実習が終わったら放り出されるお前なら解るんじゃないか? 口には出せないが大体、その想像であっている……」
やはり思った通りだ。
それなら此処で殺す必要もない。
あの三人は僕の虐めに加わっただけ。
その程度の人間に危険を冒してまで殺す必要は無い。
「そうですか……」
「まぁな、お前の場合はもし怪我した場合はあの三人より扱いは酷いから気をつけろよ」
なんだか、この騎士は随分と優しい感じがするな。
「あの、他の騎士に比べて随分対応が違う気がするんですが」
「この国には騎士が2種類あってな、騎士爵を持っている貴族に連なる騎士と騎士爵を持たない騎士がいるんだ。俺は騎士爵を持ってない騎士。まぁ少し偉い兵隊だと思ってくれ、庶民に近い存在だから、お前の苦労も解かる。尤も何も出来るわけじゃねーけどな」
確かに、前に聞いた事がある。
「そうだったんですね」
「おう、おっと上官がこっちに来た。そら、あっちに行け」
僕を嫌っているのはもしかしたら騎士爵を持っている騎士なのかも知れない。
「ありがとうございました」
そう伝えてこの場所を後にしたが……
駄目だ、此処で僕は休むわけにいかない。
テントが幾つかはられているが、勿論個人用でなく数人で使うものだ。
自然と他の同級生と過ごす事になる。
仕方ない。
今夜は毛布でも借りて、離れた適当な所で休み、明日も洞窟に潜ろう。
此処に居たら『他の同級生』にあって碌な事にならない。
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