第23話 擦り付け

緑川に魔物が群がっている。


体を食われているが、一向に動く気配はない。


やはり絶命していたようだ。


グチャグチャグチャ。


肉を食い千切ぎられていく緑川を見て、最早何とも思わない。


祐一と典子の時は罪悪感があった。


今回は自分の手を汚したのに、後悔の念も罪悪感も無い。


多分、心がマヒして来たのかも知れない。


さっき迄と違い何とも思わない。


だが、それより恐ろしい真実に気がついてしまった。


恐らく、魔物を狩るより同級生を狩った方がきっとレベルが上がる。


ゴブリンやスライムは魔物として下っ端だ。


だが、同級生はどうだ?


魔族相手の切り札。


そう考えてみたら、同級生は弱いが『魔族の幹部』に匹敵する存在なのかも知れない。


だからこそ、倒した後のレベルアップが半端ない。


今の僕のレベルは……



聖夜

LV 16

HP 230

MP 190

ジョブ:ジャームズマン(ばい菌男)

スキル:翻訳、アイテム収納(収納品あり)空気人間 お葬式ごっこ ばい菌 亀人間 下級人間 腐る目 物隠し 風評 要求と罰


緑川を殺しただけでレベルが2も上がっている。


大河を殺した時が一番凄かったが……たった4人殺しただけでレベルが16になった。


実際に魔物を狩ってもこんなにレベルアップはしない筈だ。


復讐が出来て更にレベルがアップするのなら……こんな美味しい話は無い。


とは言え、そんなに時間は無い。


期間は3日間。


それに毎日基本的には洞窟の外に戻る必要がある。


もう三人殺した。


三人は戻らないから騎士がおかしく思うかも知れない。


恐らく、ある程度人数が減れば実習が終わるかもしれない。


そこ迄が勝負だ。


さて、また、奥まで行ってみますか。


しかし『空気人間』って凄いな。


本当に魔物から、見えてないように思える。


恐らく、同級生も同じように僕が見えていないのかも知れない。


尤もこちらから手を出せないからお互い『不干渉』状態だ。


今の僕にとって、此処はお化け屋敷と一緒。


魔物は居るけど手を出して来ないんだからな。


暫く歩いていると数体のオーガに追われている奴らが目に入った。


なんだ、此奴らこっちに走ってくる。


「聖夜……ハァハァ悪いが後は頼んだ」


何故、僕が居るのが分かったんだ。


「上手く隠ぺいのスキルを使っていたようだけど無駄よ! 邦夫はシーフだからね……悪いけど擦り付けさせて貰う……えっ」


そうか、空気人間のスキルを使っていても『見る事が出来るジョブ』もあるのか。


馬鹿じゃないの? 


邦夫は兎も角、恵子はまだ俺の横だった。


面倒くさいから足を引っかけて転ばした。


「馬鹿じゃないの? 擦り付けられると解って逃がすわけないじゃない? よいしょ」


僕は転んだ恵子の足を掴かみ吊り上げた。


長い黒髪が逆さになった事で地面につくが、恵子はこんな状況なのに、パンツを見られたくないのか、スカートが捲れないように掴んでいる。


「きゃぁぁぁーーなにするのよ!」


「こうするんだよ!」


僕はそのまま、恵子を走って来ているオーガに放り投げた。


「きゃぁぁぁぁーー助けて、助けてーーっ! ゴファッ……嫌ぁぁーー助けて……助けてーーっ」


「おーい、恵子が転んだけど、邦夫は見捨てるのかーー?」


「あっあっ恵子……今行くぞー! 聖夜手伝えよ! 同級生だろう」


僕が恵子を転ばして放り投げた所を見て無かったようだ。


多分、もう手遅れだ。


オーガに殴られ、恵子の顔は潰れていた。


これで生きている方がおかしい。


「解った! 僕が惹きつけるから、邦夫は走って恵子の所に行って担いで逃げなよ」


「わ……わかった」


邦夫と恵子はつき合っていたから、助けに入るよな。


だが、悪いね……恵子はもう死んでいるよ。


逃げた邦夫が戻って来て、僕の横を通り過ぎようとした瞬間、顔が驚きの声に代わる。


「うわぁぁぁぁーー恵子ぉぉぉぉーー」


「馬鹿だな、オーガに捕まって生きている訳無いじゃないか? あれ、どう見ても顔が潰れているよな?」


「うっうっ、恵子……恵子、恵子恵子ぉぉぉぉーー」


「恵子一人じゃ可哀そうだから、邦夫も死んであげたら」


僕は同じく邦夫の足を掴みオーガの方に放り投げた。


「なっなっ何するんだよぉぉぉーーゴフッ、ブハッ」


一体のオーガに直ぐに棍棒で殴られていたが、あれはもう死んだな。


馬鹿な奴。


邦夫に僕は見えたのかも知れないが、オーガには僕は見えてない。


自分達が助かる為に僕を犠牲にしようとするからこうなるんだ。


しかし、この洞窟オーガもいたんだな。


事前に聞いた時には、ゴブリンやスライム等弱い魔物ばかりだと聞いていた。


だが、オーガ迄いたんだ。


これは黙っておこう。


運が良ければ、あと数人は被害者が見込める。









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