第13話 塔子の土下座
大樹と大河。
どっちも憎いし選べない。
だから、先に絡んできた方に復讐をする事にした。
塔子とは仲が良かったが、塔子の目が見えなくなってからは構ってこない。
それは他のクラスメイトも同じだ。
ある意味、塔子はついていたのかも知れない。
今現在、異世界人という事で他の同級生は凄く良い扱いを受けている。
そして男も女も異性からチヤホヤされている。
話によれば貴族令嬢との将来的にはお見合い。
なんて話もあれば、外に出ればエルフやダークエルフもいる。
その為、塔子に興味を持たない。
性格は凄く悪いとはいえ、塔子はそこそこ美人だ。
もし、そう言う環境じゃなければ襲う人間も多い筈だ。
それに……今現在の塔子は以前のような『美しい姿』じゃない。
以前のお嬢様の状態じゃないから手入れをしてくれる存在は居ない。
目がまともに見えないから、自分で身なりを整える事も出来ない。
浴室に近い施設はあるが、利用価値が無くなった塔子の世話をメイドはしないから、まともに体も洗えない。
僕は入り口まではついて行ってあげたが、上手く洗えず、半分ずぶ濡れ状態で出て来た。
今の塔子なら、この王宮で働いているメイドの方がまだましだ。
先行って、色々な出会いが待っている同級生にとって、わざわざ塔子に絡む必要もないし、また好かれたいなんて感情も無いだろう。
僕は塔子の事を頭の中で『美しいホームレス』そう呼ぶ事にした。
良く見れば確かに美人。
だが、上手く体も洗えず、手入れが出来ていないから『汚い』
体から、雑巾が腐った臭いを薄めたような臭いがしてくる。
今の塔子を『抱きしめたい』そう思う奇特な人は少ないだろう。
まぁ、少なくとも前の世界の衛生的な生活を送っていた者はそうだ。
ゴブリンやオーク、スラムの人間は知らんけど。
それだけじゃない。
今の塔子の目は黒目が白く濁ったような感じになっている。
アニメとかで見れば、白目の女の子って可愛いのかも知れないが、実際に見ると……結構、エグイ。
魚やの魚の目……それが結構近いのかも知れない。
◆◆◆
「聖夜、悪いけどトイレに連れていって……」
「なんで、僕が……」
「此処で漏らされて困るのは貴方よ」
最近、少しだけ不覚にも塔子を凄いと思ってしまった。
こいつ、こんな状態でも、まだ……へりくだらない。
何も出来ず、美貌すら失った筈なのに『凛としている』
凄くムカつく反面、関心する。
此処は廊下だし、別に塔子が漏らしても困らない。
だが……
「そうだな、連れていってやるよ」
「そう、ありがとう」
わざと負けたふりをしてやる事にした。
トイレから塔子の「終わったわよーー!」という声が聞こえてきた。
もう毎回だから、少し慣れた。
しかし、見当違いか?
塔子と一緒に居れば、彼奴らが絡んでくる。
そう思っていたのにな……
だが……チャンスが来た。
向こうから、大河と綾子が歩いてきた。
此処で、もし此奴らが絡んで来なかったら……
此方から絡めば良い。
「よっ、ブサイク聖夜! こんな所で、あれ?」
「なんだ、臭い家畜になった塔子さんまで居るじゃないですか? あっ家畜に『さん』なんてつける必要もないか? 塔子ぉ~」
「なっ……」
塔子の奴がしょげているし……チャンスだ。
「あ~あ、嫌だ嫌だ! 露出狂パンチラ女に! 半グレモドキじゃないですか? 塔子の方がまだましだよ! 行こう!」
「おい、ブサ聖夜……今の俺達に言ったのか!」
「そうだよ? だってそうだろう? 他の奴は兎も角、僕はいう資格があるだろう」
「てめーこの野郎!」
やった。
大河が掴みかかってきた。
スキル:ばい菌
感覚でスキルが発動した感覚があった。
バキッ
「痛いじゃないか……」
俺の頬を大河が殴ってきた。
一つ勘違いしていた事があった。
同じスキルは一回に一つしか使えないが、他のスキルはどうやら使えるらしい。
「馬鹿じゃないの? 生意気な事言うからよ! あ~あキモイ」
良く考えたら、此奴を助けなければ……酷い事に成らなかったんだよな。
綾子の目を見つめる。
「なに、その目ムカつくんだけど?」
「聖夜ぁ~なんだ、その目はぁぁぁぁぁーー」
そう言うと大河が僕を蹴ってきた。
スキル:腐る目
ここで、頭の中に大河、綾子の選択が出て来た。
大河はもう、ばい菌を使っている。
それなら、対象は綾子だ。
綾子を選んだ。
痛みで蹲る僕を大河が蹴り続け、綾子もそれに加わった。
「痛いっ、やめやめろうーーっ!」
痛さから頭を押さえて蹲った。
頭の中に一つのスキルが浮かんだ。
スキル:亀人間
そうか、あのスキルはこれか。
良く虐められている時に……
『わははははっ亀みてーー』
『手も足もでねーの本当亀みてーだな』
そうか、虐められている時に体を庇って土下座のポーズをとって頭を抱えたあのポーズ。
これか……
凄いな、全然痛くもかゆくもない。
「ちょっと、止めてよ……もう良いでしょう?」
「なんだ、塔子偉そうに! 此処には南条財閥もねー異世界だ! 目もまともに見えないお前に指図される意味ねーよな! それにお前臭いし、聖夜にお似合いのゴミ女」
「そうそう、塔子……頼むなら頼み方があるでしょう?」
「わかったわ……これで良いの?」
嘘だろう……塔子が僕の為に土下座?
「これで良い? 違うでしょう」
「私達が悪かったわ、ごめんなさい……」
「わははははっ、あの塔子が土下座!」
「本当にプライドが無いのね」
「……これでいいんでしょう」
塔子の頭を綾子が生き掛けの駄賃として踏みつけて二人は去って行った。
「塔子……お前」
「煩いわね! 普段世話になっているから、仕方ないじゃない……こんな事しか私は出来ないわ」
塔子が人に頭を下げた所なんて見た事が無かった。
それを……僕の為に……
わけがわからねーよ……
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