第11話 過去 イジメ①
いつも、いつも、僕はいじめられていた。
小さい頃からそうだ。
『竜崎聖夜』この名前のせいだ。
『なんで、あんたが竜崎聖夜なのよ!』
『わたしの聖夜様が汚れるから、名前変えてよ』
これが小さい頃のまわりの反応。
とくに女の子からは嫌な顔をされる。
アニメやマンガ好きな女の子なら皆が憧れる主人公『竜崎聖夜』
その名前と同じだから『最初は嫌われる』だから、僕は謙虚に生きてきた。
最初は嫌われていても、謙虚にしていれば普通に過ごせるようになった。
尤も『ブサイクな方の聖夜』とか『ブサ聖夜』そう言って弄られるのは避けられない。
その暴言だけで済んでいた。
少なくとも中学までは。
だけど……それも、中学までで終わり。
高校に入ってから……西山学院高校に入ってから……いや、あの時から全てが崩れたんだ。
◆◆◆
『いや、止めて下さい!』
今となっては只のクラスメイト。
こんな女見捨てれば良かった。
『うるせいな! 俺と付き合えば良いんだよ! これでも俺は有名人なんだぜ! なぁ』
『それは知っています! ですが、私は大河くんの事を何も……』
『だから、これから知っていけばいいんだよ!』
『嫌ぁぁぁーー』
流石に廊下で女の子のシャツの中に手を入れ胸を揉むのは可笑しい。
だが、誰も助けない。
今、思えば気の迷いだった。
『やめてあげなよ!』
『なんだぁお前! いい所なんだ。邪魔をするなよ!』
『助けて! 聖夜くん』
『なんだ!? お前が、あのブサイク聖夜か、ぷっははははっ。どう考えてもお前の彼女じゃねーよな! 黙っていろよ!』
彼女でもない。
ただの他人……だったら、見捨てればよかったんだ。
だが、この時は違った。
『僕がブサイクかどうかなんて関係ないだろう? 女の子が嫌がっているんだ止めてやれよ』
『うるせーこの野郎!』
ガツッ。
『痛い!』
『これでわかっただろう? とっとと消えろ!』
『解った……ほら行こう!』
『うん……』
『待てよ! 綾子は置いていけ』
『大河、なにやってますの!』
『塔子……?』
『いいから行きなさい! ほら』
『そうそう、ここは僕たちに任せて。大河は今日はむしゃくしゃしていただけなんだ。僕からも注意するからほら行きな』
『大樹くん、塔子さん……ありがとう!』
大樹くんや塔子さんが関わってくれたならもう大丈夫だ。
良かった。
『ありがとう』
この時の僕は何も知らずに、大樹や塔子に感謝したんだ。
◆◆◆
それから数日後。
何だよ! これ……
僕の机に大きく悪口が彫られていた。
『勘違い野郎』なんだこれ。
他にも、ブサイク、豚、馬鹿等、暴言が沢山彫られている。
そんな状態なのに、周りの人間は何も言わないで普通に会話している。
なんだよ……これ。
誰がやったんだ。
いや、誰がやったのか大体わかる。
恐らくは大河だ。
だから、僕は大河を睨んでいた。
『何見ているんだ! あん?』
『大河くんだろう? これをやったのは!』
『だからどうした? お前が俺に濡れ衣を着せたからだろうが』
『濡れ衣?』
『恋人同士でイチャついていたのを勘違いして俺を悪人に仕立ててよぉーー怒って当たり前だろうが!』
『恋人……何をいって……』
僕の方に、大樹くん塔子さんと綾子さんが近づいてくるのが見えた。
これで、助かった……
『貴方が悪いのよ。聖夜くん! あとで詳しく話を聞いてみれば、大河くんと綾子さんはつき合っていたのよ! あなたは、その邪魔をしただけ! 恋人同士でイチャついていただけだったわ』
『塔子さん、それは可笑しいよ! 彼女は助けを……』
『それは勘違いだったんだよ! そうだよね、綾子さん!』
『そうよ! 二人で……イチャついていたら、聖夜くんが急に怒鳴ってきて……ううっ』
違う! その証拠に綾子さんは泣いている。
なんで皆して嘘をつくんだよ。
『大樹くん……それなら、なぜ綾子さんは泣いているんだよ! 僕は認めない』
『バーカ。それは俺とつき合っているからのうれし泣きだよな! 綾子』
『そうよ……』
『嘘はつかないでよ』
嬉しい人間が、悲しい顔で泣く訳ないよ……
『いい加減にしろ! そうやって事実を捻じ曲げた結果で人がどれだけ迷惑するか考えろよ!』
『ちゃんと私が綾子から聞いた事だわ』
『恋人同士の話に顔を突っ込むなよ。バーカ』
『……』
駄目だ。
僕は黙ってその場を去るしかなかった。
◆◆◆
そのあと、綾子の事を緑川先生に相談したが『嘘つき呼ばわり』されて終わった。
それだけじゃない。
僕が綾子に付き纏っているのを大河が助けた事にされた。
やがて、僕はクラス、いや学校中からの嫌われ者になった。
僕が正しい事は沢山の人間が知っている。
だが、権力者の子供で教師すら逆らえない。
『大樹や塔子が大河が正しい』と決めつけたから。
真相を知っていても……僕が悪い事にされたままだ。
だから『僕が悪者』だ。
それでも……僕は、悪くない。
そう言い続けてきた、だがそれは無駄だった。
彼等を敵にした僕はいつの間にか『何をしてもよい存在』として扱われ、学校中が敵に回った。
そして、一番浮かばれないのは……
『あのさぁ、聖夜くんさぁ、その顔で私とつきあえるとおもったの。ねぇ大河!』
『本当にキモイな。その顔で、馬鹿じゃねーの』
綾子は大河と本当につきあいだしていた。
黒髪の地味なかわいい子だったのに……この見下すような目、まるで別人に思える。
ミニスカートを履き、ブラが見えるようなシャツを着ていて髪も茶髪になっていた。
そして、あの日のように大河がシャツの中に手をいれているが……嫌がってない。
それ処か笑顔で笑っている。
『僕は何をしたんだろう』
そのあと、給食の時間、僕の給食にチョークの粉をいれた綾子の姿を見た時、心からそう思った。
そして、その虐めすら……まだ始まりにすぎなかった。
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