第10話 弱かった敵


今日は座学の授業らしい。


明らかに、見た感じ元兵士って感じのおじいちゃん先生が、これまた倉庫と思えるような場所で授業を始めようとしていた。


服装で授業をする訳じゃないが、他の同級生と一緒に歩いていた教師とは違う。


あちらの教師はどう見ても貴族にしか見えない男だったのに。


2週間で此処から追い出し、そのあとの人生に関らない人間なんてこの国の王族や貴族にとってどうでも良い人間なんだろう。


それでも、最低限の知識だけは与えようとしているだけ、少しは真面なのかも知れない。


本来なら、僕は1人で授業を受けるはずなんだが、今日は違っていた。


「塔子……なんでお前がいるの?」


「うっさいわね! この世界にきて眼病だか呪いにかかって目が真面に見えないのよ!」


すぐにスキルを解除したのに、手遅れだったか。


良く考えたら目は重要なパーツが沢山集まって出来ている。


そのパーツのどれかが破損しただけでも見えなくなるよな。


眼科医じゃないから良くわからないけど、あの僅かな時間で塔子の目の重要なパーツが腐るなり壊れたのかも知れない。


だが、見た目腐ってないから、俺のスキルだとバレていないようだ。


なら良い。


「塔子は聖女だろう? 目が多少悪くなっても、そんな酷い扱いはされないんじゃないか?」


「……そんな事無いわ……終わりよ! 終わり! この目ね、貴方が思っている以上に見えないの! こんな目じゃもう戦えないわ。だから扱いは貴方と同じなのよ……どう? 笑いたければ笑えば!」


この国、思った以上に扱いが悪いな。


塔子のジョブは聖女。


それが目が悪くなっただけで斬り捨てられるなら……戦いで傷を負った奴は簡単に捨てられるという事だ。


「わっはははっ!」


本当に笑ったわけじゃない。


ただ、笑ったふりをしただけだ。


「笑ったわね? 聖夜の分際で……この南条塔子をよくも……」


「ここには南条財閥もないから、お前なんかこわくない! お前、凄く性格が悪いから友達もいないんじゃないか? 大樹達が庇わないというなら、お前はもう一人だ! 金も無ければ、目も見えない。 お前の人生終わりじゃないのか?」


「煩いわね!」


「それでお前どうするの? 俺と同じという事ならもうじきに此処を追い出されるのだろう?」


「……修道院で見習い回復師から始めるか、一人で生きていくかよ!」


「そう、それなら良かったな。頑張って回復師になれば良いんじゃないか?」


「ううっ……ううっうえぇぇぇぇーーん」


泣きやがった。


しかし、氷のように冷たい女。


僕を自殺に追い込んだ奴らの一人なのに。


南条財閥という権力がなくなり、目が見えなくなったら、只の少女だな。


てっきり、それでもこいつなら、悪役令嬢にでもなるのかと思ったけど……そこ迄の根性は無いみたいだ。



イジメにあっている時は、恐ろしい存在に感じた塔子。


俺を複数の男子に押さえつけさせ、背中にカッターで文字を書いた女。


最初は庇おうとした癖に、最後は一番の悪魔になった女。


それが権力を失い。視力を失っただけでこれか。


解らない。


こんなに弱い奴が僕の復讐相手なのか……


『何でこんな奴が怖かったんだ』


なんだかスッキリしない。


「どうやら、授業をまともに出来る状態じゃないな……1時間休憩だ」


「あっ」


「ぐすんすん……どうせ、どうせ」


こんなのと一緒に置いていかれて……僕にどうしろって言うんだよ。

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