2-6 悪夢①
「いやーーー! タスケテーーー!」
ここはタツヤの自宅である。
タツヤは今、のんびりシャワーを浴びるなどしているが、リビングでは騒がしくしている生首が放置されていた。
「タ・ス・ケ・テェェーーーー!」
生首は若い男のものだった。それが必死に叫んでいる。
「殺される。殺されちゃうよ。ユリナーー、タスケテーーー!」
ケンヂである。
「キミキミ、大丈夫だよ」
「えっ」とケンヂ(生首)は、話しかけられた先を見ると、気づかなかったが隣にはおっさんの生首が並んでいた。ヤマニシである。
「もう殺されているからね」
と言い、ウインクするナイスミドル。
「イヤアアアアアァァァーーーー!」
生首のおっさんを見て、ケンヂは叫ぶしかなかった。
そこへシャワーから出てきたタツヤがやって来る。
(君、ちょっとうるさいよ)
などと文句を言ってくるフルチンタツヤの背後には、都内を見渡せる圧倒的な眺望あった。
タツヤに続けてヤマニシも諭すように言う。
「そうだよ、君。ここがいくら都内の一等地のマンションで、防音がしっかりしているとは言え、度が過ぎると苦情が出てしまうよ」
ケンヂは目覚めた時、自分が見知らぬ部屋にいることが分かった。ここが高級なマンションの一室だと言うことは分かったが、情報はそれだけだ。まったく状況が理解できていない。すぐに逃げなくてはと思った。それで手足を動かしてみようとしたが、––––なかった。
いや、手足どころか体をすっかり失っていることに気づいた。あまりにも悲惨な自分の状態に驚いて、絶望の叫びを上げ続けた。叫びながら夢なら覚めてくれとも思ったが、いくら叫んでも覚めることはなかった。
それどころか、隣には自分と同じ生首がいて、目の前には首のない男が立っていた。
もはや限界だった。ケンヂは気絶する。
(アレレ、寝ちゃダメじゃないか。コレ使えるかなー」
「タツヤくん、普通の人の反応はこういうものだよ。一旦、時間を置かないといけないね。後で私がゆっくり彼に話をしよう」
目覚めたばかりケンヂは混乱している。とてもじゃないが、外出させていい精神状態ではない。そんな事は簡単に分かりそうなものだが、
(えー、ナンパに行くよ。せっかく、コレを拾って来たんだし)
相変わらずのタツヤである。
「ウンウン、やっぱり。君はそうだろうね」
ケンヂは薄れゆく意識の中でそのような言葉のやり取りを聞いた。
訳が分からない。自分はホストクラブへ出勤する為に、快晴の空の下、さっきまで歩いていたのじゃなかったろうか。
あの時、誰かに後ろから呼び止められて、振り返って‥‥。
––––ああ、そうだ。空へ飛んだんだ。どこまでも果てしない真っ青な空に。まるで天国へ飛び立った気分だったのに。それから地面に真っ逆さまに落ちて行って‥。まさか、嘘だろ。あのまま地獄にでも落ちたのか。
これが悪い夢ならば、このまま意識を失ってしまえば、もう一度、意識を取り戻した時に覚めるだろうと思った。
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