2-24 都内連続猟奇殺人事件

 

 いくらショッキングな出来後でも、しばらく時間を空けることさえできれば、–––十分に心を労り休むことができれば、–––いくら痛ましい事件でも、それがせめて一度切りのショックであるならば、–––病んだ精神を徐々に回復させる事はできるだろう。

 しかし、連続して日常的にその光景を見続ける事が常態化してしまったらどうなるだろうか?

 精神が完全に壊れてしまうか。もしくは人間性を喪失させ、狂人化して適応するかのどちらかであろう。

 彼らは後者であった。彼ら三人は目覚めてしまったのである。



⬛︎東京都、東部周辺にて


 リュウジ–––「よお、アンタ。そうアンタだよ。なあなあ、いい顔してんじゃん。負けたよ。イケメンだよ、アンタはさ。‥‥あ? そっちの気はねーよ。待てよ。羨ましいじゃん。欲しいじゃん。‥なあなあ、おいてくなよ。待ってくれよ。なあ、行くならさ。‥それだけ置いていってくれよ」


 キョウヤ–––「俺さ、芸能事務所のスカウトなんだけど。君さ、カッコいいね。ちょっと話聞いてもらっていいかな。そこの路地裏に来てもらいたいんだけど。そうそう。あの有名なアイドル事務所ね。一目見て、ビッビッと来たんだよ。君はすごいよ」


 マコト–––「ヒャッハー。その首よこしな!」



⬛︎東京都、北部周辺にて


 リュウジ–––「お前らさ。遊んでんの? こんな時間まで? マジで言ってんの。そんなに遊んじゃってんの? ずっと? ずっと? マジで? いいよな〜。お前らだけ楽しそうに飲んでさ。俺なんかさ。社畜よ、社畜。営業利益を上げられなかったら文字通り即刻クビの身分よ。‥待てよ、置いてかないでくれよ。俺にもソイツをを飲ませてくれよ。羨ましいよな〜。幸せそうでいいよな〜。‥‥なあなあ、その頭くんない?」


 キョウヤ–––「よお、いつかぶりだな。俺のこと覚えているか? 悪いな。これからお前ら殺すけどよ。でも、どうせ殺るんなら、お前らみたいなクズがいいと思ってな。‥ハハハ、そうだよ。喧嘩売ってんだよ。お前ら、なんてチームだったけ? あー、あの糞ダセー雑魚チームか。あのゴリラ元気か? あの尻軽女、まだ店に来てるぜ。来るなって言ってんだけどよ。どこでも問題起こすバカ女だよな。あ? 行くぜ、そこにあいつもいるんだろ? ついて行ってやるよ。またあの廃ビルだろ? いいぜ、‥‥‥ぜひ招待してくれよ。でも、前回とは話は変わってくると思うぜ」


 マコト–––「ヒャッハー。お前らの悲鳴は何色だァ! その首よこしな!」



⬛︎東京都、各所にて


 タツヤが背負って持って行くバックパックは、最初は普通サイズのものだったが、数日経つと頭が二つ余裕で入るほどの大型になり、やがて手にもスポーツリュックを持ってナンパに出かけるようになる。(スポーツリュックは生首三つぐらいは入れられる。)

 こうなると果たして彼はナンパを目的に出かけているのか。首を狩るのが目的で出かけているのか分からなくなる。とにかくナンパをするのには少々異様な格好だった。


 そして、今日もタツヤは新調したばかりの小綺麗なスーツと、いつものバックパックと、ちょっと寡黙でオシャレな生首を身につけて、ホストクラブ『キングダム』から都内各所へ向かって張り切って飛び出してゆく。

 彼は帰りには荷物をパンパンに膨らませて、キングダムに戻ってくるのだろう。

 



           ⚪︎



『某大手掲示板にて』


名無しの権兵衛:

お前らマジで今東京へ行くな。ヤバいことになってるぞ。


名無しの権兵衛:

被害者これで何人よ。分かっているだけで500人は確実に越えたって話だぜ。


名無しの権兵衛:

その情報古い。多分もう1000人近くなっているんじゃないか?


名無しの権兵衛:

ヤバいヤバいヤバい


名無しの権兵衛:

あの首狩り殺人鬼、都内ならどこでも出没するらしい。


名無しの権兵衛:

令和の首強盗。1000人斬りの悪魔。ネーミング大賞はどっちだ。


名無しの権兵衛:

凶器は手刀とかマジありえん。


名無しの権兵衛:

ギミック付きの義手だって話だ。


名無しの権兵衛:

連日ニュースになってるのになんで出歩こうとするの? 家にいたら?


名無しの権兵衛:

お前みたいな引きこもりと違うんだよ。最初は若い男だけが狙われるって噂だったけど。30代のサラリーマンや、配達や、コンビニなんかでもみさかえなくなっているらしい。


名無しの権兵衛:

コンビニなんか防犯カメラあるだろ?


名無しの権兵衛:

いい加減、警察どうにかしろよ。


名無しの権兵衛:

犯人が特定できないらしい。


名無しの権兵衛:

噂があるぜ。なんか持ち去った顔に変えて犯行するんだって。


名無しの権兵衛:

どういうこと?


名無しの権兵衛:

バカなWe Tuberたちが、首狩り殺人鬼を追う企画を始めて、みんな殺された映像あっただろ?


名無しの権兵衛:

見た見た。グロい。マジで首が飛んでく。


名無しの権兵衛:

見た見た。グロい。マジで首が飛んでく。


名無しの権兵衛:

あの話には続きがあって、その殺されたはずのWe Tuberの一人が街中に現れたらしい。確かピンクの髪の。


名無しの権兵衛:

あの一番顔のいい奴。


名無しの権兵衛:

そうそう。なんかそいつの顔した奴が、街中で女に付き纏っていたみたいで、その女も元々そのWe Tuberのファンだったみたいで気味悪がっちゃって、しかも話しかけても「ウー」とか「アー」とか言わないの。


名無しの権兵衛:

ゾンビだったんじゃね。


名無しの権兵衛:

見た見た。グロい。マジで首が飛んでく。


名無しの権兵衛:

で、女が悲鳴を上げて、止めに入ったそこいらにいた奴らがみんなやられたんだって。首を飛ばされてな。女だけが無傷で生き残って、殺したのはあの有名人だったて話だ。


名無しの権兵衛:

俺が聞いた話だと、ヒャッハーとか言って襲ってくる若い男だって話だぜ。一瞬で二人の首を刎ねて、持って行ってしまったらしい。


名無しの権兵衛:

なんで捕まえられねーんだよ。早く捕まえてくれよ。来週東京に出張なんだけど。


名無しの権兵衛:

ふざけんなよ。都内に行けねーじゃねーか。服買いに行きたいのに。


名無しの権兵衛:

行方不明になってしばらくするとソイツと同じ顔をした奴が殺人鬼の化け物になってるって話だ。


名無しの権兵衛:

生皮剥いで被害者の顔を仮面にしてるって話を聞いたぜ。


名無しの権兵衛:

何のホラーだよ。


名無しの権兵衛:

俺にもずっと連絡つかないダチがいるんだけど。ヤバいかな。


名無しの権兵衛:

そいつ、街で見かけたら絶対声かけんな。お前もやられるぞ。


名無しの権兵衛:

見た見た。グロい。マジで首が飛んでく。


名無しの権兵衛:

また新しい被害者のニュースだ。ブクロのチーム。一気に10人以上増えたぞ。マジで洒落にならん。


名無しの権兵衛:

ヒャッハーとか叫びながら襲ってくる奴の映像も出てくるぞ。


名無しの権兵衛:

あれ? こいつの顔、見たことあるんだけど。高校で一緒だった便所でタバコ吸って退学させられた奴に似てるな。


名無しの権兵衛:

おいおいおい。やり口がだんだん大胆になってないか。


名無しの権兵衛:

もう隠す気ねーな。


名無しの権兵衛:

メチャクチャ足はえー。やっぱ、こいつ人間じゃないだろう。


名無しの権兵衛:

現代に蘇った鬼とか妖怪とか言われても信じるぜ。米軍基地から脱走した科学兵器説もあるけど。


名無しの権兵衛:

何だよ、あのジャンプ力。一瞬で画面から消えたぞ。


名無しの権兵衛:

ニュース番組で出没パターンから犯人像を検証してるけど、やっぱり快楽殺人っぽいな。


名無しの権兵衛:

他に動機があるのかよ? 映画とかにあるだろう。イカれたコレクターだよ。狩った首を眺めているんだよ。コエー。


名無しの権兵衛:

マジで1000人斬りでも目指しているんじゃないか。


名無しの権兵衛:

見た見た。グロい。マジで首が飛んでく。

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