第30話 青い春を告げるのは温かい月明かり(最上星雫)
天霧には夜ご飯も必要ないとは言っておいたけれど、まさか本当に20時過ぎまで付き合わされる事になるとは思ってなかった。
よりによって大和に幼馴染だと言う事をバラされたり、弥生さんが入学前に会った事を覚えていたり。
幸いというべきかその時には私が天霧といた事には気付いてなかった様だが、私に声をかけてきたのは服屋で撮影していた時に私を見た覚えが有ったからなんだそうだ。
やっぱり目立つ見た目だと面倒事を引き込むことになってしまうらしい。
ほか、話せそうな友人が出来そうに感じたりはしたものの、どうも下心が見え隠れして気になる。
あわよくば付き合いたいとか、こいつに群がる男共をつまみたいとか思ってるんだろうな…と。
実際どうかはさておいて、そんな事を邪推してしまうので、やっぱり時間とともに早く帰りたいという気持ちが肥大化していくばかりだった。
それはともかく、昼過ぎからずっと団体ではしゃいでいたので、流石に解散ということになった様だ。
仲が良いのは構わないが、参加してない人が二人だけという状況を果たして覚えているのかどうか。
取り敢えず解散ということなのでさっさと帰路につこうとした時。
突然、ぽんっ…と肩に手を置かれた。
思わず悲鳴を上げそうになるくらいには、本当に背筋が凍った。
漏れそうになった言葉を飲み込み、息を吐く。
「…なに、解散でしょ?」
「帰り一人だろ?送っていくよ」
大和のそれが単純な親切心であったとしても、他の誰かであっても断る。
何故なら、何かの間違いで天霧と鉢合わせする可能性が高いから。
「……私はいい」
「よくないだろ。ていうか、ちょっと話したから…」
「私は話す事無い」
「なら聞いてるだけでいいから」
私はさっさと場を離れたのに、皆に挨拶してから駆け足で隣に戻って来た。
(…なんならあの場で一回フッた事言ってやれば良かったかな…)
「…俺、あの後ずっと考えてたんだ。本当に好きなら先に言う事があるだろって言われて…」
「………」
大和は先回りして私の前に立つと、真剣な表情で頭を下げた。
急な行動に私は動揺した。それに、彼はさっきまではしゃいでいた人とは全くの別人に見える。
「本当にごめん。俺、昔自分がやってたことから目を反らしてた。言われるまで、俺がどう思ってようと嫌われて当然の事をしてたって自覚なかったんだ」
私が大和と向き合う気がない理由が分からなくて。
だから自分を見つめ直した事でそれに気付いて、その上でわざわざこうして頭を下げに来た。
大和の事は昔からよく知っている。
とくに小さい頃は良い思い出が沢山あるし、素直な人間だったのは分かってるつもりだった。
「謝って済む事じゃないのは分かってる。でも俺、ちゃんと星雫と向き合いたいんだ」
態度、言葉、感情。誰がどう見て、どう聞いたって彼の言葉は真剣そのものだった。
打算無く、ただ本当に好きな人との関係の修復がしたくての行動。
何だかんだ言って、素直で実直な人間である事は知っている。
本気で私の事を考えようとしてくれている。
取り戻せない物、やり直せない時間を自覚して、この先進んで行く時間で私と向き合いたいと。
こんな事で今更心がなびくのは、きっと心の奥底から本気で嫌いじゃ無かったから。
「…分かったから…。顔上げて」
(…興味が無いって一蹴できるほど浅い関係じゃないし…)
頭を上げた大和の表情を見て、私は言葉に詰まった。
拒絶できないのは、未練があるからなのか、それとも他に理由があるのか。
自分でもそれが分からなくなってきた。
(…人の事は言えないんだろうけど、顔が良い奴はどうしてこう、ズルいんだろう)
しばらくの沈黙、再度歩き始めて数分経ってから大和はまた口を開いた。
「…そもそも、小さい頃から一緒に居て、高校に入ったら急に一人暮らしとか…心配なんだよ」
一人暮らし、そう言われて一瞬だけ違和感を覚えた。そんな感覚は全くと言って良いくらいに無かったから。
そして気が付いた。
(…やばっ、学校出てから天霧に連絡入れてない!あ…いや、べつにやばくはない…?一緒に住んでる訳じゃないんだし…)
報告義務があるわけでもないのに勝手に焦って勝手に安心してる自分をたしなめて、一旦眼の前の事に意識を向け直す。
「親切な隣人さんとか居るから大丈夫…」
「ちょっ、それ一番大丈夫じゃないやつだろ!絶対に下心で近付いて来てるって!」
「…それ言ったら大和も似たような物でしょ」
「俺は表立って言ってるだろ。てか、マジでそれ気をつけた方が良いって!」
「…それはいいけど、何処までついてくるつもり?」
「え、それは家まで…。ていうか、その隣人に一言言うくらいまで…」
「この夜中にそんな失礼な事しないで、人の交友関係を何だと思ってるわけ?」
というか、これ以上面倒くさい状況にしたく無いから、天霧と会わせる訳にはいかない。
それはそうと、家に着いてしまった。
部屋から天霧が出てこない事を祈りながら、大和に向き直る。
「…ここまででいいから、帰って」
「……正直、部屋入って話したいんだけど。星雫の所に居るって言えば親も気にしないし…」
「流石に帰ってくれない?」
「中学であんま話せなかったんだから少しくらい」
(これでやましい気持ちがあるんならさっさと突き飛ばすのに…)
「…あの…!」
ふと、私達が来た方角と同じ所から女の子の声が聞こえた。
釣られる様に振り向くと、月明かりと街灯に照らされた、思わず息を呑むほどに美しい長い髪の少女がレジ袋片手にこちらを見ていた。
(……私とか弥生さんより、万人受けしそうな人。こんな子リアルに居るんだ…)
「…出入り口の前で騒がないで下さい、近所迷惑ですから」
至極真っ当な意見を言われ、私は黙り込み、見惚れていた大和は我に返った。
「あっ、とごめん。ちょ…マジで一旦入ろう」
「何さり気なく……って……はあ!?」
呆れた様な表情のまま、長い髪の美少女は私達の横を通り過ぎると、当然の様に私の隣の部屋…天霧の部屋に入って行った。
それを見て、私は思わず声を上げて閉まろうとするドアに掴みかかった。
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