第29話 自分勝手な愛と哀(天霧柊)
妹の襲来という突然の出来事でしばらく放心していた為、昼食は全く味がしなかった。
ソファに転がってスマホに目を落としているその妹は置いておき、一度寝室に戻って通話に戻る。
『んっ、おかえり。時間かかったね、何かあった?』
「…ちょっと妹が襲来したのと、お昼ご飯」
『妹さん?兄妹居るんだ』
「まあ…うん。年の離れた兄貴と、同い年の妹が」
『双子?』
そんな訳が無いだろうという事を思わず言いそうになったが、よく考えなくてもそういう発想になるのが当たり前だと考え直した。
「……いや、妹は義理。親の再婚でできたんだよ、まあ…なんだろ、関係が良いっては言えないけどね」
『…あれ、インターホン鳴って来たのが義妹さんだよね。一緒に住んでるんじゃないんだ?』
「今年から俺が一人暮らしだから、それで」
『…関係良くないのに一人暮らししてる義兄のところに来ることある?今年からって事はまだ離れてちょっとしか経ってないでしょ』
別に気にする事でも無いと思うが、他人の兄妹の話がそんなに興味深いんだろうか。
「ちょっと複雑な事情で、家に帰れなくなって仕方なくこっち来たんだって。リビングで不機嫌そうにスマホいじってるよ」
『……置いてもらって不機嫌なんだ』
「そりゃ、不本意なら仕方ない。それに、関係悪いのは俺のせいだし…」
『喧嘩でもしたの?』
「喧嘩っていうか、仲悪くなるキッカケを放置したのが俺だったってだけ。樋口さんが心配するような事では無いよ」
『…もしかしてこの話も地雷…?』
(家族とか友達とか大体の話が地雷だけど?なんなら最上の話ですら、できる限り外に漏らすつもり無いからそれすら地雷なんだよな…)
『そ、相談とか…私でも聞けることあったら聞くよ?』
「…相談相手は居るから良いよ…」
『……居るんだ』
「樋口さんは?兄弟とかいる?」
『私も、年の離れたお兄ちゃんと、二個下の弟が居るよ。仲は……。どうなんだろ、喧嘩とかしないし悪くは無いと思う、過干渉もしないし』
「……まあ、なんだろ。兄妹間のことは人に言えた物じゃないからあれだけど、仲良くしておかないと後悔するよ。俺みたいに」
『あはは…。気をつける』
ついでに言いたい。樋口さんもそうだけど、琴葉も最上も微妙に言ってる事の意味とか言いたい事がコッチに伝わってこない時がある。女の子とのコミニュケーションって時々物凄く難しくなる気がする。
そんな事を口走っても碌なことにならないのは何となく分かるので口には出さないが。
『…あっ…と、私そろそろ落ちるね』
「了解だけど、用事でもあった?」
『うん、ちょっとね。また明日…その、学校で話せたら良いな』
「普通に声かけてくれて良いけど…」
『……君からは来ないんだ』
「じゃ、また」
最後の呟きは聞こえなかったフリをした。
実際人によっては気付かないだろう小さい声だったし。
「…学校で俺から話しかけられる訳ねえだろって。言っても分かんないだろうから言わないけど」
彼女はどちらかと言うと素で善人よりの性格なんだろう、表面を取り繕うこと無く話しているとそんな気がする。
だからこそ俺は少しだけ、彼女の事が気に入らない。
(善人ぶってるつもりはないんだろうし、俺の考えすぎという線が大きいんだろうけど…俺のこと孤独な奴、みたいに思ってんのかな、樋口さん)
もしかしたら少しだけニュアンスが違うかも知れないが、何となく接し方が同級生とのそれじゃ無い様な気がした。
それも明日になれば多少分かるだろう、そう頭を切り替えて伸びをする。
パソコンと同じ机にずっと置きっぱなしにしていた小箱を手にとって寝室を出る。
居間ではソファに転がって寝息を立てている琴葉が居た。
「……今寝たフリしたよね」
「……………」
図星だった少女は大人しく顔を上げてソファに座り直した。
「…そんなに俺の事嫌い?」
思わずそんな事を口走った。
「……柊のこと“嫌い”なんて、言った事ないし…」
(……琴葉って俺の事名前で呼ぶんだっけ……?)
どうも呼びかけられた記憶が無いから分からない。それはそうと、確かに嫌いだと直接言われた記憶もない。
「………なら俺とは話したくない?」
「…別に。話す事無いし」
「そう言うと思ったけどさ…。俺は……。その、本当は学校始まる前に一回会うつもりだった」
「……なんで?」
俺はさっき部屋から持って来た小箱を琴葉に渡して、その隣に座る。
「…なにこれ?」
「……本当は、誕生日に渡すつもりだったよ。その後は、しばらく顔合わせ無いと思ってたから。でも…。渡しに行く勇気が無くて…」
俺と琴葉は誕生日が同じだ。そこでも双子と勘違いされやすい。俺は自分から兄だと言った記憶はないが、琴葉が自分を妹だと言うのでいつの間にかそういう事になっていた。
「……開けて良い?」
「うん」
プレゼントしたのはヘアアクセサリー。
確かポニーフックだとか言う、ヘアゴムに着けるアクセサリーだ。
琴葉は普段から長い髪をゴムで結っておく髪型が多いと勝手に思っていたので、そんなチョイス。
(目立ち過ぎることも無いし良いと思ったんだけどな…)
「……ありがと」
「…うん」
琴葉は少し口を開けて、何か言おうとしてまた口を閉じて。
そんな事を数回繰り返してから、プレゼントをバッグに片付けた。
しばらくバッグの前でしゃがんだままだった彼女の後ろ姿は、何を考えて居るのかわからなくて気不味い空気を拭えなかった。
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