第二章 高校入学編

第25話 無色透明な日常の始まり(天霧柊)

(…最上の制服姿良いな…)


「…じゃ、私先に行くから」

「ん…。忘れ物ない?」

「そんなに持ち物無いし、大丈夫でしょ」

「それもそっか。じゃあ、いってらっしゃい」

「すぐに天霧も、来るんだけど…。行ってきます」


 並んで歩いて登校すると碌な事にはならなそうだと。

 そんな彼女の判断から、俺と最上は時間をずらして登校する事になった。


(…最上はまあ…。俺が一人で出歩くよりは心配ないか…。最上にとっても不安なのは寧ろ俺の方だよね)


 あの後も何度か二人で外に出歩く事はあったものの、やはり人からの視線には慣れそうもない。


 無理に克服する必要はないと最上は言ってくれたけれど、この髪色や瞳を隠すこと無く学校へ行くのはそれこそ三年ぶりだから、不安や心配が多いのは当然だ。

 最上もそれは同じだけれど俺と違ってどこか堂々と、吹っ切れている様子だった。


 最上が登校してから、俺も遅刻しない程度にタイミングを遅らせて登校をする。


 そもそも学校から近い立地を選んでいるので、同じ制服姿を見かけることも少なくない。


(…だから俺に目を向けるのはやめてよ…。他に同じ服装の人なんて幾らでも居るんだから…)


 徒歩で十分も掛からない道を歩くのに酷く憂鬱な思いのまま足を進める。


 校門に立っていた教師から凄い形相で睨まれた気がしたけれど、流石に勘弁して欲しい。

 事情は知っていて貰わないと困る、寧ろ面接の後に「そんなの気にするな大丈夫だ」と言われたからこの高校を選んでる事を知っていて欲しい。


 校舎に入ると、ホワイトボードにクラス割りの一覧が貼られ、その前では上級生、恐らくは生徒会やその関係者達が対応をしてくれた。


(…普通に一組…。最上のも見とけば良かったかな)


「おっ、お前…天霧か。ちゃんと来たな、感心感心」


 二階に行く階段の踊り場で、俺の名前を読んだ女性教員。

 面接の後、俺に声をかけてくれた竜堂りゅうどうあまねという先生。

 始めてみた時から、スーツが似合うスレンダーな美人教師という印象。


「おはようございます、竜堂先生」

「ああ、おはよう。なるほど、面接の頃とは本当に見違えたな…。これは確かに、口を出したくなる奴は多そうだ」


(…前見た時も思ったけど、この人背高いな…)


 見下ろされて、頭に手を置かれる。美人な教師にさり気なくボディタッチされるというこの状況は見る人が見れば羨ましいと感じるかも知れない。


「ま、何かあったら私に言うと良い。可能な限りは対応させてもらうからな」

「…ありがとうございます、心強いです」

「素直にそう言えるのは良い事だ。ほら、行くと良い。一組なら似たような奴も居るからな」


 何気なく竜堂先生にそう言われて一組の教室に向かう。似たような奴、というのはつまり最上の事だろうから、俺は少しホッとした。


 教室に入ると、一瞬にして視線が全てこっちに移ってくる。

 思わず息をつまらせそうになるが、視線の一つに最上の物があった事に気付いて心が落ち着いた。


 こっちを見て、小さくウインクする最上。返しでサインはできなかったけど、彼女は気にせず席に座っている。


(出席番号は1番だっけまあ良いや。”あ行“って大体一桁だもんな…。てか、最上の隣の女の子…どっかで見た気がする…?)


 席に座り、取り敢えずダメ元で隣に声を掛けようとすると…隣の人は俺を見てすら居なかった。


 俺よりも背の高い男子で、その視線は最上の方に向いている。

 俺の席が廊下側の1番前。

 ここからでは顔が確認できない。


 と、そこで彼以外の男子が向ける視線は俺よりも最上の方に向かってる事に気付いて、内心少し落ち着いてきた。

 冷静に考えて、クラスの半分以上が最上の方に目を向けてるのだ。

 ほう考えると俺はそこまで気にしなくて良いのかも知れない。


(…最上様々だよ、救世主はすぐ近くに居る物なんだな…)


 ふと、隣の男子は今になって俺の存在に気付いた。


「おっと、悪いもしかして声かけてきた?」

「あ、いや、まだ…」

「そっか良かった。あ、俺磯谷いそがや大和ヤマトな、よろしく」


 爽やかに笑うと、周囲の女子が沸いた…ようか気がする。


(…高身長な爽やかイケメンか…。俺もこうだったら少しはイメージ良かったのかな…)


「あ、えっと、天霧柊…」

「天霧か、珍しい髪してるな。それって地毛だよな?」


 当たり前の様に自然に聞いてきたので、頷くしかできずに居ると「そっかー…」と小さく呟いた。


「あっちに銀髪の子居るでしょ、俺あの子と幼馴染なんだけどさ…」

「…へえ」

「一回フラレてるんだ」

「……えっ?」


(…まず幼馴染とか居たんだ…。てか、最上が言ってた同じ高校に行く人…って、この磯谷君なのか…な…?)


「えっ…と、その、フラレる前は仲良かったの?」

「彼女のアノ感じ見て、人と仲良く出来そうな奴に見える?」

「…見え、ない」

「だろ?」


 正直、俺は本当に偶然、話が噛み合って仲良くなれただけ。

 自分が普通寄りの精神だったら彼女と仲良くなっていたとは思えない。


(…そうじゃなくても、最上の第一印象からして、いたずら好きでからかってくるタイプには見えないし…)


「でも、そういう所も魅力の一つなんだよな…」


 かなり欠点に寄ってるとは思うが、口には出さずに少し話題を切り替える。


「あ、磯谷君は、あの子と幼馴染だから…。その、俺の髪…見ても何とも思わないんだ」

「まあそうだなー…。星雫の事があるから、そういう人も居るってのは分かってるし。あ、てか天霧って目の色も違うじゃん、凄え、オッドアイって初めて生で見た」


(…え、なんなのこのコミュ強。怖っ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る