第26話 ベタ塗りの日常の始まり(最上星雫)

 周囲の視線は、自分でも驚くほど気にならなかった。


(…だって、天霧以外にどう思われてようがどうだって良いし。寧ろ天霧に「堂々してて凄いな、格好良い、見習いたい」って言われたいし…。その上で私は「天霧はそのままで良い」って……甘やかしたい…)


 登校して早々に、帰ってから天霧とイチャイチャする妄想をしながら教室に入る。

 まだほとんど人は居ない。


 少しずつ増えていくが、人が増えるに連れてその人皆が皆私のことを見て陰に言葉を吐き出している。


 何を言われてるのかなんてどうでも良い、それより嬉しい事と面倒な事が同時に押し寄せて困っている。


(…天霧がクラスメイトだから、自然に話せるのは嬉しいけど…。よりによって大和まで同じって…。しかも天霧と席となりだし、出席番号順だから仕方ないんだけど、だとしても羨ましい…そこ代わってよ…!)


 ふと、誰かが教室に入ってきた時、教室内にどよめきが起こった。

 私は釣られる様に振り向いて入り口に目を移す。


(あ…。あの人、確か…前に見たモデルの…)


望月もちずきミサ?…あれ本物かよ…」

「凄っ、マジでクラスメイトになんの?」


 クラスメイト達の声を聞いて、彼女は少し微笑んで対応した。

 それから丁度、私の隣の席に着いた。


「…可愛い」

「……?」


 人の顔を見るなり、挨拶もなしに突然「可愛い」って何を考えてたらそんな事になるんだろう、私は何も言えずに眉をひそめるだけだった。


「あ、ごめんなさい!弥生やよい紗良サラです。よろしくね、えっと…」


(…本名、全然違うんだ…)


「…最上星雫」

「セナちゃん!」


 至近距離まで近付いて来た彼女は、目を輝かせてこっちを見ている。


(っ!?…距離の詰め方どうなってんのこの人…。さっきまでのちょっと大人しそうな雰囲気は何処に…?)


「その髪天然だよね!ハーフとか?それとも…」


 こちらの言葉を待つこともなく色々と勝手に話を進めていく。


(あ、苦手なタイプだ。関わりたくない方の…。自分が目立つ側の人って自覚ある癖にそれの二次被害とか考えてない大和と同じタイプ…)


「はあ…。あんまり、髪の話はしてほしく無い」

「えっ、どうして?可愛いのに…。勿体無いな…。あ、あっ…え?セナちゃんと同じだ…」

「…?」


 彼女が何を言ってるのか少し分からなくて、望月さんと同じ方向に目を向けた。


 丁度、教室に天霧が入っていた所だった。ついでに、いつの間にか大和も席についていた。

 私は彼にウインクしてから、すぐに前に向き直る。


「すっ…ごいイケメン来たね…。美形っていうか…」

「…も…弥生さんってモデルやってるんでしょ?あのくらい見慣れてないの?」


 思わずそう聞くと「弥生さんって呼び方…距離遠いな……」と少し不満そうに呟いてから質問に答えてくれた。


「あのレベルは滅多に居ないよ〜。俳優さんとかでもあそこまでは中々見ないでしょ?常にメイクしてるテレビでそうなんだから、素顔であれはやばいって。ガチ美少年って感じ!」


(…テンション高いなこの子、話聞いてる限り結構な面食いなのかな)


「てかその隣もかなり…。でも私は白メッシュ君の方が好みかな…。セナちゃんは?」

「は?なんでこっちに振るの?」

「えー良いじゃん、どっちどっち?」

「……メッシュの方」

「だよね!好み合うな〜!」


(だよね!じゃないし、天霧に色目使わないでよ…?)


 自分の中で、さっきの落ち着き払った雰囲気を返して欲しいという気持ちが膨れ上がるのを感じる。


 それは周りも同じなのか、私に絡む弥生さんを見て意外そうにしているクラスメイトが多い。


 ふの、教室の前側のドアが開いた。


「おはよう新入生、全員揃ってるな。私とはさっき顔を合わせた人がほとんどだろう。詳しい話は入学式のあとになるが、一旦自己紹介をさせてもらう」


 教卓の前に立ったのは、スラッとしたスタイルを強調する様なスーツを着た女教員。

 多分そんなつもりは無いのだろうけれど、顔が良い事とボディラインが結構しっかりしてるからそう感じる。


「竜堂周だ、一年一組の担任を努めさせてもらうから、一年間よろしく頼む。今年初めてクラス担任を任されたから、至らないところはあると思うが、一緒に精進していけたらと思っている」


(格好良いなこの先生…)


「ね、ね、先生めっちゃ美人。堂々してるし格好良くない?」

「…ま、今回は同感かな」

「だよね、だよね!」


 小声ではあるがテンションの高さは伝わってくる。

 もしかして顔が良ければソレで良いのだろうか。


「君たちにも後で自己紹介はしてもらうが、その前に入学前の説明をさせてもらう。資料は貰ってると思うが、まあ念の為にな」


 その後は竜堂先生の話を聞いて、入学式に向かった。

 ずっと弥生さんが隣りに居るせいでとにかくうるさかったけれど、大和や天霧とは全く別の方面で私に対して偏見無く接してくれるのは嬉しい。


 それはそうと、とにかく面倒臭いしちょっとうざいしうるさいけれど。

 外見以上に人に好かれやすいタイプの性格なのだろうとは思った。


 少し心がかりがあるとすれば、天霧は弥生さんの好みにかなり寄っており、近くに行った時に「やっば超格好良い大好きかも!」とか言ってとにかくテンションが上がっていたこと。


(…天霧は私のだし…)

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