第23話 鷹が鳶を産む事はない

 もんじゃ焼きのお店を出た後、私達は百貨店に向かった。


「…んー…っと邪魔にならないアクセサリーとかにしたいんだけど…。一応、これが良いみたいな要望ってある?」

「天霧が特に決めてないなら、一つ」

「おっ、なに?」

「それは着いてからのお楽しみ」

「…一応俺がプレゼントする側なんだけどな」

「安心して、友達居ない天霧にそんなの期待してないから」

「……そうだけどさ…」


 百貨店に入ると、特に寄り道もする事なくアクセサリーのコーナーに向かった。


「勝手なイメージだけど、女の子って…」

「長々と寄り道して目的の所に行くまでに無駄に時間をかけるイメージ?」

「…言い方が悪いけど、大体合ってる」

「何処に行っても視線が気になるお年頃だから、外に居るよりも早めに家に帰って寛ぎたいと思うだけ。天霧もその方が楽でしょ」

「お年頃って…。いつもじゃないの?」

「前までは家に居るほうが嫌だった。外では隠そうと思えば隠せるし」


 という話は、一度天霧にしていた気がする。家に居ても居ないのと変わらないから、家に留まっている時間が好きじゃなかった。


(…あ、これ良い)


「天霧、これ」

「……ブレスレット。こういうのってつけっぱなしでも大丈夫なんだ」

「素材によるけど、これは大丈夫」

「…二つ?」

「こっちは天霧のだって。私も天霧もイニシャルってSでしょ」

「……あ、これペアのやつか」


 シュウ星雫セナのイニシャルが同じSなのでその刻印が入っていたブレスレットを選んだ。

 単純に同じ物を身に着けたいという願望もあるけれど。


「あ、その…」

「ん?」

「ごめん、実はもう一つ買いたいものあって…」

「良いけど…」


 天霧が立ち寄ったのはヘアアクセサリーのコーナー。

 一体何の用があるのか知らないけれど、そんな寄り道の後、私達は夜ご飯の為にスーパーに寄ってからアパートに帰った。



 ◆◆◆



 夜ご飯も終えてお風呂も入って、昨日と同じ様に寝室で朝を迎える。

 …というのが少し寂しくて、私は天霧の部屋で彼に寄り添って一緒にこたつに入っていた。


 お風呂から上がってきたばかり彼は寝室から戻って来ながら眼鏡をかけると、座椅子に腰を下ろしてノートパソコンを開いた。


「…これなにしてるの?動画編集みたいな奴?」

「ん、みたいな奴。知り合いの配信者に頼まれてて、配信切り抜いて動画作ってる」

「天霧ってこういう事も出来るんだ」

「…父さんが兄貴に教えてた奴を見てたら覚えたんだよ。子供の頭って知らない内に色々吸収してるから」

「…天霧の家族って何やってる人なの?」


 そう聞くと、彼は一度手を止めてマグカップを手に取った。

 少し考え込む様に天井を見上げる。


「父さんはマジで何でも出来るハイスペな人、一応大企業の代表やってて、今は兄貴に引き継ぎをしてるところ。俺が4歳の頃までは母親が居なくて…」

「居ない?」

「俺を産んですぐに亡くなったんだって。で、まあ俺も兄貴も小さいからって父さんは再婚して、同い年の妹ができた。その妹からは今も昔も嫌われてるけど、兄貴が仲良いから気にはしてないかな…」


 そう言う彼の瞳は少し暗かった。

 きっと、このままでも良いと思っている反面、嫌われたままの状況を良く思っていない気持ちもあるんだろう。


「その妹は頭良いから、近くの偏差値高いところ行ったけど。俺と違って色々優秀だし努力家な奴だよ。兄貴はまあ…。父さんと大体同じかな、大して努力してないのに何でも出来るタイプのハイスペ」


(…天霧も結構しっかりハイスペックの血は継いでそうだけど)


「…その、妹さんのお母さんは?」

「んー…苦労人って感じの人。具体的に何があったかは知らないけど、子供産んでしばらくは女手一つで育ててたって感じみたいだし、父さんと結婚してからも父さんに何度説得されても仕事続けてるし。傍から見てるといつか体壊しそうで心配になる」

「天霧の事で、何か言う人は居ないんだ」

「言わなくなっただけ。昔はまあ…特に兄貴と妹には色々言われたかな。結局今でも本当に偏見無く話してくれるのは最上しか居なくてさ」


 彼は再度ノートパソコンのタッチパッドに指を置いた。

 邪魔をするつもりは無いけれど、今はもう少し私の事を意識して欲しい。

 そう思っても流石に言葉にはできないので、彼の肩に頭を寄りかけるだけで我慢する。


「…私が居れば十分でしょ?」

「あんまり、最上一人に依存はしたくないんだけどね。」


(…依存してくれて構わないんだけどな…)


 なんて本音は置いておき、彼が編集している動画の一部に目をつけた。


「…これ女の人?」

「性別は公開してないから知らないけど、声的には女性じゃないかな」


 彼がそう言うので、丁度その人がしていた配信をスマホで開いて流す。

 顔出しはせず主にゲーム等の配信をしているようだ。


「最近の人って配信するのに皆VTuberみたいなスタイルでやると思ってたけど、この人そういうのも無いんだ」

「うん、本当に声と喋りとゲームセンスで配信成り立たせてる人、割と珍しいと思う」


(そのチャンネルの運営手伝ってる側の天霧も結構珍しいでしょ…。というかこの人と日常的に話してるのかな…)


「天霧、この人と仲良いの?」

「いや、俺も配信やってる姿とチャット上以外ではほぼどんな人か知らない。俺が趣味でアニメーション映像作ってるのを見たらしくて、こういう仕事依頼してきたってだけだから」


 さり気ないカミングアウトだったが、それはつまり絵を描けるし映像制作もできると言う事だろうか。


「…趣味で?」

「将来そういう仕事につきたいとは思ってないし、マジで自己満足の趣味。アニメーション以外で動画編集ってやる気無かったからこういう仕事も受ける気は無かったんだけど、小遣い稼ぎには良いのかな…と。まあ、その金は全部兄貴に管理してもらって、自由に使える分を少し手元に残してもらってる感じだけど」


 前よりモチベ低いし…みたいな事を呟いているが、以前は人に見せられるだけの物は作っていたし、そこから繋がりを作れるだけのクオリティもあったと言う事。


(…やっぱり天霧もハイスペ側じゃん…。蛙の子が蛙なら、鷹の子供はそりゃ鷹だよね)


 鳶が鷹を生むということわざがあるが、その逆は中々起きないらしい。

 方向性は違くとも優秀であることに変わりはないようだ。

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