第22話 魅力的で誘惑的、そんな君の瞳

(…元々の雰囲気が大人びてるから、ちょっと年相応なイメージも有りかな。いやでも、やっぱり濃い寒色系が捨てがたい…)


「…あ、これ可愛い…。天霧って身長いくつ?」

「166だけど、一応まだ伸びてる…と思う」


 思っているよりも小さかった、というよりは私が小さいから天霧が大きく見えるだけだろう。

 私150も無いし、成長止まってるし。


「170届きそう?」

「無理そう。兄貴は180有るのに」

「ならもう少し伸びそうじゃない?」

「いや、うちで身長高いの兄貴だけだし…。父さんも170ちょっとだから」

「そっか、でも服は選びやすいかも。これとか…あ、似合うかも…。グレーか…濃い青系かな」


 正直色々着せたいけれど、ここで時間をかけて天霧に面倒な人だとは思われたくないから、できるだけ即決で行きたい。


 一度天霧の胸元に掲げてから、天霧がジッと私を見ていた事に気付いた。


「…天霧、私じゃなくて服を見なよ」

「いや、最上にはやっぱり淡い色合いの方が似合うかなって」


(……あんまりじっくり見られると…恥ずかしいんだけど…)


「……本当にそんな事考えてた?」

「最上は友達とこんな感じで出掛けた事ないのかなって考えてた」

「天霧はそれ、人のこと言えるの?」

「言えないから、言わなかったでしょ」

「…無いよ、友達と出掛けたことは」

「居なかったわけじゃないんだよね」

「天霧よりは居たかもね。本当に友達って言える相手かは別として」

「…そんな事言ったら、俺と最上も友達って言えるか微妙だけど」


(……あっ、これ良い。絶対似合うし…私も好きなタイプだ)


 そう思える一着を見つけたので、天霧に手渡して話の続きをする。


「別に友達とかそんな物に縛られなくて良い。私達の関係に“括り”なんて必要ないでしょ?それのせいで私達は孤立してたんだから」


 それは本音の一つ。

 ただ私としては彼には今よりも私のことを知って欲しい、それに友達という視点以外から私のことを見て欲しい。


「括り…ね」


 噛みしめるように呟く彼が何を思って居るのかは分からないが、私の気持ちが伝わってないことだけは分かる。


「うん、天霧それ試着して」

「えっ?あ…うん。分かった」


 彼を試着室に押し込み、私はその隣に入る。

 さっさと彼に渡した物のアンダーサイズ版に着替えて、近くを通った店員さんにタグを外して貰う。


 丁度、天霧も出てきたので店員さんにもう一度話しかける。


「彼のタグも外して貰えますか?」

「かしこまりました」


(……予想通り、凄く格好良い…。もう少し深緑に近いのも良かったかな)


 店員さんに服のタグを切って貰ってから、レジに向かう。

 スマホですぐに会計を済ませて、天霧の手を取って出口に向かった。


(…ここの店員さん皆テンション高いな……)


「ペアルックとか着てみたかったのか?」

「“天霧と”同じ格好で歩きたかったの。誰でも良いわけじゃない」

「…俺口説かれてる?」

「からかわれてはいるかもね」


 自分で言ってから、素直じゃないな私…なんて思って少し笑ってしまったけれど天霧は何かに気付いて私の事を抱き寄せた。


(…こういう事は、平然とやるんだよね…。女の子との距離感を分かってるんだかないんだか…)


「…何かあった?」

「いや、ちょっと話しかけられそうな雰囲気あったから」

「なにそれ、私との時間を邪魔されたくなかったの?」


 私のこういうところは、面倒な女だと言われても文句言えない様な気がしているけれど、天霧は特に気にする様子はなく、曖昧ながら頷いた。


「…そう、かな」

「私も、天霧と居るときに邪魔が入るのは嫌かも。ま、それは良いとして…次どこ行くか決まってるんでしょ?」

「うん、お昼予約してあるから。先にそっち行こう」


(…私今、さり気なく一緒に居る時間が好きって伝えたつもりなんだけど…そこにツッコミは無しなんだ)

 果たして気付いているのか居ないのか、真相は彼の心の中にしか無いが、いずれ分かったら良いな…なんて思いながら、少し心強さを感じる彼に身を寄せた。


 しばらく歩いて、予約していたお店に入り、席に案内される。

 粉物を主にしている、いわゆるお好み焼き店。


「私もんじゃ焼きって初めて」

「…今度プレート買って家でもやる?お好み焼きはフライパンでもできるけど。もんじゃやるなら鉄板の方が良いし」

「お店よりは具材の自由度は高そうかな。天霧がやるならハズレは無さそうだし」

「買いかぶりすぎ…」


 店員さんが持ってきた具材と生地の素を少し眺めてから、それらを天霧の方に寄せる。


「少なくとも私よりはマシだから、プレート買うのは有りかもね」


 天霧がもんじゃ焼きを丁寧に作っているのを眺めて、ぼんやりと──

(…天霧と付き合ったら他の男と付き合えなくなりそう…)

 ──なんて、まるで自分が付き合う未来があることを前提に考えてしまって内心悶えたり。


「天霧は知ってた?もんじゃ焼きってお好み焼きより歴史古いんだって」

「……そこの差あんまり考えた事ないけど」

「確か、もんじゃ焼きが先で広まる内にお好み焼きに枝分かれしたんじゃ無かったかな」

「へえ…どこから持ってくんのその知識…。はい、あーん」

「えっ…あー…ん。んっ、カリカリだ」

「熱くない?」

「大丈夫、美味しい」


 気休めにそんな会話をすると、近くの席から盛大な舌打ちが聞こえて来た。

 聞こえた方向を見れば、男所帯だったり女子会だったり。


「…聞こえるようにやられてんのかな」

「見る人によっては羨ましいでしょ、今の私達は」

「それは分かるけど…」

「放っておきなよ。見てるだけで理解されたら、私達は苦労してないんだから」

「…最上のそういうクールで強い所、俺も見習わないとな…」


 天霧のそんな呟きに、私は「見習わなくて良いかも」と返した。

 だって、今こうして眼前に映る天霧はとても魅力的だから。

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