第21話 対極のモノトーン、間に挟まる黒と白
「…凄っ、なにあれ…」
「やっば何あのカップル」
「どっちも顔良すぎ、良いなぁ…。それに比べて…はぁ…」
(そんな気はしてたけど、そうなるよね…)
ちゃんと格好を整えた自分が天霧と街に出たこうなるだろう…というのは嫌でも予想できた。
予想できた、というより想像していたという方が正しいだろう。
でも現実は私が思うよりも強烈で、すれ違う人だけでなく、その声を聞いて振り向く人々全てが私達に注目する。
これが芸能人であれば「うわ、凄い!あの人こんなところで見れるんだ!」とか納得の行く範疇か、場合によっては「あ、あの人いつも居るよね」くらいの雰囲気になるのだろうけれど、私達はそういった表に出る人間では無い。
どちらかと言うと表に出るのを嫌うタイプの二人が、過去を克服する為に素顔(髪色)を晒して歩いているのだ。
「……居心地わる…」
天霧は思わずと言った様に独り言を零した。
気持ちは凄く分かる。
けれど、正直こんな好奇の視線には慣れてしまっている。
どちらかと言うと私は天霧が隣りを歩いている方が心臓に悪い。
「天霧は、他人の視線は苦手?」
「…苦手だよ。怖い」
「怖い?」
(…本当に誰なの?天霧の自己肯定感を底辺にまで落としたのは…)
「怖いよ。だって目が合った次の瞬間には罵声を吐かれた経験の方が多いし…」
どうやらイジメられていた時の経験から、人と目を合わせるのが嫌で、同時に視線を向けられるのも苦手になったらしい。
「それでよく、私には話しかけよう思ったね」
「あれは……なんだろ、後ろ姿が寂しそうに見えたから…。正直、しゃがんでる最上の後ろでひよってたよ」
「…寂しそう…?」
「あ、いや…そう見えたってだけの話、実際どうかは…」
「…実際、その通りかも」
「えっ…?」
あの時はというよりも、ずっとそうだった。
天霧に話しかけられる前も後も、家の中に居ると家族からハブられている感じがして孤独感を覚えていた。
だから家には居たくなかった。
「天霧が話しかけてくれなかったら、あの捨て猫と同じだった」
「…保護したつもりは無かったんだけど…」
「私は保護されたつもりで隣りに居るけど」
「部屋隣りなのは偶然だし…」
「その偶然も含めて、天霧が話しかけてくれたから、こうして一緒に歩いてるの」
歩きながら、コートのポケットに入っていた天霧の手を握って肩を寄せた。
「だから…。ありがと」
「…どういたしまして」
どう反応したものかと苦笑いを浮かべた天霧。私はいずれ言葉にしたかった感謝を伝えられて少し心が落ち着いた。
「私これでも、天霧に会ったお陰で救われてる気持ち、結構あるよ」
「…それはお互い様…。というより、もしかしからちょっとした運命なのかな」
「ふふっ、ならその運命は今後どうなるかな?」
「ん…。どうだろ、高校でも注目されるってことだけは分かるけど」
「それは私も知ってる」
私達の関係は絶対に何かしらのトラブルの火種になるだろう。
天霧は敢えて言葉にしなかっただけで、それも何となく察していると思う。
ふと、目に入った看板を指差した。
「天霧、あのお店入ろ…」
「ん、良いけど。何かあった?」
「天霧へのプレゼントもう決めてたから、それ」
「…えっ…。あっ……くふっ…なるほどね」
彼はお店を外から見た時に少しの困惑を見せたあと、小さく吹き出して笑った。勿論、その反応も私の予想通りだった。
きっと彼からすれば、ずっと気になっていた物だろうから。
「…服屋ってことは…パーカーね」
彼の答えに、私は笑顔で頷いた。
「正解」
「ずっと気になってたんだけど…」
「これは好きで着てる、自分に一番似合ってる服装だと思ってるし…。天霧と、一緒に選びたいなって」
「良いよ、なら俺も最上に合いそうなやつ探してみるかな」
(天霧は…ファッションセンスは、割と有りそう、かな。少なくともパーカーに一辺倒の私よりはマシかも)
肩を並べて服屋に入ると、丁度入り口近くに居た店員さんが「いらっしゃ……」と挨拶の途中でこちらを二度見した。
そして、私の視線を知ってから知らずか近くに居た他の店員さんに声をかけながら私達を指さして「あのカップルヤバくない!?」みたいな事を話している。お仕事中ですよ。
「…最上?どうかした?」
「なんでもない。テンションが高い店員さんを見つけただけ」
「…そう…?」
周囲の私達以外のお客さんだったり店員さんだったりからの視線を感じるせいか、瞳だけでキョロキョロと周りを見る天霧の袖を引いて歩を進める。
「昨日調べたんだけど、ここファッション誌とかで使われる撮影のスタジオが併設されてるんだって。モデルさんを見かけることも少なくないらしいよ」
「モデル…って今どんな人が有名なの?」
「今は、
「…へえ…。あの人?」
そう聞かれて天霧と同じ方向を見る。
丁度話題に上がっていた併設スタジオで、実際に公開撮影を行っているモデルが居た。
「うん……あの人がそう」
「えっ、合ってんの?」
「私も生で見たのは初めて。この街に住んでるのかな」
漆黒とも言えるほど艶のある、腰まで伸びた黒髪を揺らして、撮影とは思えないあまりに自然な笑みを浮かべる彼女はまさに絶世の美少女。
どんな相手でも魅了しそうな物だが、天霧は「珍しい物を見た」程度の反応ですぐに視線を移した。
「見ないの?」
「えっ、気になるなら…近くに行く?」
「その場合、撮影より注目されるけど」
「ごめん、それは普通に勘弁して欲しい」
「ま、天霧はそうだよね。なら、パーカー見に行こ」
「うん」
冗談として言っては見たが、実際にそうしたら冗談では済まなくなりそうなので私も踵を返した。
今は大人気モデルよりも、隣に立つ美少年の方が優先度が高いから。
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