第20話 とても純朴で純粋な不純物
翌朝、朝からシャワーを浴びていたら『朝食出来たよ』との連絡があったので身嗜みを整えてから隣の部屋に入った。
「おはよ」
「おはよう、最上」
「…そのうち合鍵作ろ」
そう言ってから、流石に早計だと考え直して訂正しようとした。
「そうだな、一々出迎えるの大変か」
(……警戒心とか実家に置いてきたのかな)
こたつの上に並ぶフレンチトーストには固形バターとメープルシロップ。
少しのフルーツとブルーベリージャムが盛られたヨーグルト。
ミニトマトとハム、ベビーリーフのサラダ。
「…朝ご飯オシャレ過ぎ、なにこれ?」
「あ、朝は米派だった?」
「気にしないけど…」
世の女の子が妄想する美男子の理想形みたいなことをしている、年齢高校生未満の男子が眼の前に居ることに驚いてるだけで、朝食は米とかパンとか気にしない。
早朝から衝撃的な光景を目にしたけれど、昨日から結構な頻度で驚いてる事に変わりはないので、大人しく腰を下ろす。
「…甘。美味しい」
「あのさ、一つ気になったんだけど」
「なに?」
「髪切るときって具体的にどうすんの?」
「お風呂場にレジャーシートを引いて、椅子置いて、ケープを羽織る」
「あ、お風呂…。髪ってそのまま捨てて良いの?」
「可燃ごみ」
「へえ…」
「私の部屋来なよ、用意してあるから」
「お、準備が早い」
朝シャンしたついでに、掃除してから用意してきた。換気もしたし、準備は大丈夫。
「…一応聞くけど、髪型どうしたいとかある?細かい要求聞けるような腕はないけど」
「んー…無い。煩わしくならなければ良いかな」
「なら、私勝手にやるけど」
「それで良いよ。食器片付けたら行くから」
「手伝う」
「洗うの俺じゃなくて食洗機だし」
「…ま、一応」
「一応ね」
天霧は少し眠そうにふにゃっとした笑みを浮かべた。
元々軽い雰囲気で接することの多い天霧だけれど、今日は昨日までよりもう少しだけ雰囲気が柔らかい。
朝からこれだけキッチリとご飯の用意をしていたりするのに、話しているとそのアンニュイな服装や空気感が蠱惑的な魅力を醸し出してくる。
控え目に言葉を選んでもなお、雰囲気がエロい。
(…本当に同級生なのこれ…?)
何度目かの同じ疑問を感じながら、顔には出さずに食器を片付ける。
その後、二人で隣の部屋に移動。
そしてお楽しみの時間が来た。
私のやりたい様に天霧の髪を整えられる時間。
お風呂場に行くと、天霧がシャンプーに目を向けた。
「あ、これ俺と同じだ。通販だよね」
「そう。何気に、私達って共通点多いかも」
「だからこうして馴染めてる訳だし」
「それもそっか。はい、その椅子座って」
「うん」
私は霧吹き片手に自分の時よりも気合を入れて、白黒ツートンの髪に視線を落とした。
◆◆◆
(…会心の出来なのか、素材が良過ぎるだけなのか分かんないな…)
「おー…器用なんだな」
「…どうだろう」
「えっ、良いと思うけど」
そういう意味で「どうだろう」とは呟いてないけれど取り敢えず無事に散髪完了。
超弩級の天然厨二病美少年が完成しましたとさ。
「…てか、こう見ると結構バッサリ切ったな」
「元が長すぎただけじゃないかな。ま、九割九分私の好みだけど」
いわゆる、ハーフアップバングと言われる前髪を横に流して額を見せるスタイル。
しかも、元々前髪だけでも鼻より下まである位に長かったから、目に掛からない様にバッサリと短くした。
結果として天霧のご尊顔を惜しみなく曝け出している。
「まあそうか。おまかせにしたもんな」
「天霧の場合どうやっても似合いそうだけど」
「髪型関係なく色の方に目が行くか…」
(そういう意味じゃないって…。てか、やっぱりルックス良過ぎ…)
お風呂場を出て洗面所の鏡の前で髪を弄る天霧の後ろを通って、椅子を回収、レジャーシートを畳んで切った髪を片付ける。
「あ、悪い」
「いいよ、一応気になる所とかある?」
「いや、特には」
「じゃあ私が聞くんだけど」
「うん、何?」
「天霧って週に何回ヒゲ剃る?」
「…いや、まだ生えてない」
「…ふーん…」
スキンケアに気を使ってるのは聞いたけれど、妙に肌が綺麗だったから質問した。
他の男子がどうなのか知らないから何とも言い難いが、少なくとも身近に居た大和は中学校に入ったばかりの頃から気にかけて顎を触るようなクセがついていたから、そのくらいから皆気にするものだと思っていた。
「…シェーバーとか買っておいた方が良いのかな…」
「気になってからで良いんじゃない。個人差あるだろうし」
「……まあ、そうかな…。あ、そうだ、俺着替えてくるよ」
一度天霧が隣の部屋に戻ったのを確認してから、私も自分の寝室に入ってドアを閉める。
ドアに背を預けたまましゃがみ込み、いい加減隠せる気がしなくなって来た顔の熱を解放した。
(顔あっ…つ……)
何故あの男はアレだけきっちりと鏡に映った自分を見ても尚、美形であることを自覚しないのだろうか。
覚悟はしていたけれど、これからあの美少年と二人で出かける事になっている状況に、改めて胸の鼓動が早くなるのを感じた。
外見よりも性格に惹かれて仲良くなったのに、気が付いたら抜群のルックスを振り撒かれて息をするようにトキメキを感じている。
「…はあぁ〜……」
一応、身に覚えのある感情ではある。
(大和のときはここまでじゃ無かったのにな…)
その後の事も相まって、正直高校で会いたくないし顔も見たくないくらいだ。
小さい頃に大和へ抱いた時よりも、もっと大きく、それでいて曖昧さのない純粋な想い。
こうしたいとかああしたい、こうされたい、こうして欲しいという感情が強く芽生えている分、ある意味でとても不純な想いにも感じるけれど。
「……完全に天霧に惚れてるな、私…」
それが分からない程、自分の感情に鈍感じゃない。
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