第12話 無色透明に色彩を
もんじゃ焼きを堪能した後、今度は俺が最上に誕生日プレゼントを送る番。
「…んー…っと邪魔にならないアクセサリーとかにしたいんだけど…。一応、これが良いみたいな要望ってある?」
「天霧が特に決めてないなら、一つ」
「おっ、なに?」
「それは着いてからのお楽しみ」
「…一応俺がプレゼントする側なんだけどな」
「安心して、友達居ない天霧にそんなの期待してないから」
「……そうだけどさ…」
(もう少し言葉選んでくれても良いんじゃないのかな)
相変わらず、すれ違う人にはガン見されるし、小声で何言われてるか分からない。
でも最上の機嫌は良さそうなので、できるだけ気にせずに顔を上げる。
学校でもこう居られる気は全くしないが。
百貨店に入ると、特に寄り道もする事なくアクセサリーのコーナーに向かった。
「勝手なイメージだけど、女の子って…」
「長々と寄り道して目的の所に行くまでに無駄に時間をかけるイメージ?」
「…言い方が悪いけど、大体合ってる」
「何処に行っても視線が気になるお年頃だから、外に居るよりも早めに家に帰って寛ぎたいと思うだけ。天霧もその方が楽でしょ」
「お年頃って…。いつもじゃないの?」
「前までは家に居るほうが嫌だった。外では隠そうと思えば隠せるし」
ということは、一人暮らしになってから家に居たいと思う様になったという事だろう。
「天霧、これ」
「……ブレスレット。こういうのってつけっぱなしでも大丈夫なんだ」
「素材によるけど、これは大丈夫」
「…二つ?」
「こっちは天霧のだって。私も天霧もイニシャルってSでしょ」
「……あ、これペアのやつか」
そんな訳で、俺はブレスレットを左手首につけた。
ふと、最上が右手につけているのを見て何となく呟いた。
「利き手につけると邪魔になりそうじゃない?」
「私左利きだけど」
「…あれ、そうだっけ……?」
言われてみると、いつも向かい合って座っている時に同じ方向の手を伸ばしていたかも知れない。
「気付いてなかった?」
「…まあ、流石に今知った…」
「それもそっか、まだ4回目だし」
「…4回…って、何が?」
「会って話すのが、4回目」
そう言われて、記憶の中にある最上と会った回数だけを指折り数える。
一回目の時は初めて俺から話しかけた時。
二回目はその翌日。
三回目が………昨日、最上が引っ越して来た日。
四回目が今日だ。
「…本当だ、馴染み過ぎてそんな感覚無かったな」
「昨日今日と、朝からずっと一緒に居るから、そうもなるよ。どうせ、これからもほぼ毎日顔合わせるんだから、気にしなくて良いと思うけど」
「まあ少なくとも三年は続くか」
「どっちかが退学しなければね」
「怖い事言わないで」
最上はともかく俺は少し可能性がありそうだから余計に怖い。
「ま、帰ろ」
「待って、スーパー寄ろう」
「良いよ」
「夜なに食べたい?」
「天霧が得意な料理とか」
そう言われて少し考えてから、家に居た時に良く作った料理を上げた。
「麻婆豆腐かな。辛いのいける?」
「人並みには」
「じゃあ大丈夫、俺辛いの苦手だから」
「なら、なんで麻婆豆腐なの?」
「母さんが好きだから、作る頻度が多くてさ」
百貨店を出た時、そんな話をしながら顔を見合わせて笑った。
外出先で人目を気にせずに誰かと笑い合う経験なんて無かったから、周囲に居た名前も知らない人達がどんな目で俺達を見ていたのかは分からない。
(…本当クールだな最上って)
いつも通り小さく微笑む程度だが、俺を含めた色んな人達の視線を釘付けにしているんだろう。
こうなりたい…とは思わないが、最上と居ればもう少し人目を気にせずに笑える様になるのかな、とは思ったりする。
結局は俺の気の持ちようだが、高校に通う上で最上との関係が変化していく可能性だってある。
俺達の関係に“括り”は必要ない、と最上は言っていた。
確かにその通りかも知れない…けど。
(初めて……というか、唯一無二って言える相手ではあるんだよな…)
自分の境遇や心情について包み隠さずに言葉として出せる相手、というのは最上以外には居ない。
今までも、一度たりともそんな人が現れる事なんて無かった。
高校に入る前に会えたのは本当に幸運としか言いようが無かった。
卒業式のあと、躊躇いながらでも話しかけた過去の自分と今こうして隣を歩いてくれる最上に内心で感謝しつつ、それを言葉に出せない事で少し自己嫌悪を覚える。
「…天霧?」
「えっ、なに?」
「考え事?」
「……いや、ちょっと…。なんでもない」
「…なんでもない人の間じゃなかったけど。ま、話せる機会があるならそれで良いけど」
実際そこまで気にしてるわけでは無さそうだ。
「…もうすぐ学校始まるけど、天霧って中学校で部活なにやってたの?」
「サッカー部入ってはいたけど、所属してただけで試合とかは全く出てないよ」
「運動できるの?」
「足は下から数えた方が早かった。最上は?」
「美術部で、水彩絵描いてたけど」
「センスありそう…」
「私よりも上手い人がすぐ側に居たから、正直やる気起きなかったけど」
「またお姉さん?」
「私がお姉ちゃんに勝てる事なんて、告白された回数くらいだよ」
(自慢なのか自虐なのか分からないから、反応に困るんだよそれ…)
☆あとがき
次話から第一章の後編、最上星雫の視点でここまでのお話を振り返って行きます。
視点が違うだけでお話自体は繰り返しみたいになってしまいますが、お楽しみ頂けたらと思います。
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