第11話 熱くなるのは季節の流れ

「…あ、これ可愛い…。天霧って身長いくつ?」

「166だけど、一応まだ伸びてる…と思う」

「170届きそう?」

「無理そう。兄貴は180有るのに」

「ならもう少し伸びそうじゃない?」

「いや、うちで身長高いの兄貴だけだし…。父さんも170ちょっとだから」

「そっか、でも服は選びやすいかも。これとか…あ、似合うかも…。グレーか…濃い青系かな」


 思ったよりもノリノリで服を選んでいる最上を見ていて、何となく気が付いた。


(…家族とか友達とこうやって出掛けたこと無いのかな。俺もだけど、いつもよりテンション高い)


 普段はかなりクールな印象を受ける彼女だが、今日はなんとなく「可愛らしさ」が表に出てきている。


「…天霧、私じゃなくて服を見なよ」

「いや、最上にはやっぱり淡い色合いの方が似合うかなって」


 どうしても最上には白系の服を着ているイメージが抜けないから、咄嗟にそんな事を言った。


「……本当にそんな事考えてた?」

「最上は友達とこんな感じで出掛けた事ないのかなって考えてた」

「天霧はそれ、人のこと言えるの?」

「言えないから、言わなかったでしょ」

「…無いよ、友達と出掛けたことは」

「居なかったわけじゃないんだよね…?」

「天霧よりは居たかもね。本当に友達って言える相手かは別として」

「…そんな事言ったら、俺と最上も友達って言えるか微妙だけど」


 俺がそう言うと、最上は俺にパーカーを一枚渡して来た。


「別に友達とかそんな物に縛られなくて良い。私達の関係に“括り”なんて必要ないでしょ?それのせいで私達は孤立してたんだから」

「括り…ね」


 言われてみるとそうかも知れない。


「うん、天霧それ試着して」

「えっ?あ…うん。分かった」


 最上に言われた通り、近くの試着室に入る。


 羽織っていたコートと渡されたカーキ色のパーカーを交換して着る。


「…最上、これで良い?」


 試着室を出てそう聞くと、彼女の服もいつの間にか今の俺と同じ色のパーカーに変わっていた。

 最上は俺のことを見て小さく頷くと、直ぐ側に居た店員さんに声をかけた。


「彼のタグも外して貰えますか?」

「かしこまりました」


(…ってことは、自分のも今着替えたんだよな)


 店員さんに服のタグを切って貰ってから、レジに向かう。

 彼女はスマホでさっさと会計を済ませると、俺の手を取って出口に向かった。


(…店員さんニッコニコだったな…)


「ペアルックとか着てみたかったのか?」

「“天霧と”同じ格好で歩きたかったの。誰でも良いわけじゃない」

「…俺口説かれてる?」

「からかわれてはいるかもね」


 上品に笑う最上、見惚れそうになって思わず目を逸らすと、俺よりも最上の事を見てる人たちが居る事に気付いた。


(…さっき撮影してた人たちか…)


 どうやら撮影を終えたらしいモデルさんやらスタッフさんやらが店の外に出てきた時、偶然俺達の事を見つけようだ。

 なんとなく話しかけられるのは嫌だったので、俺は最上が握ったままの手を引いてそっと抱き寄せ、足早にその場を離れた。


「…何かあった?」

「いや、ちょっと話しかけられそうな雰囲気あったから」

「なにそれ、私との時間を邪魔されたくなかったの?」

「…そう、かな」

「私も、天霧と居るときに邪魔が入るのは嫌かも。ま、それは良いとして…次どこ行くか決まってるんでしょ?」

「うん、お昼予約してあるから。先にそっち行こう」


 そうして予約していたお店に入り、席に案内される。

 粉物を主にしている、いわゆるお好み焼き店。


「私もんじゃ焼きって初めて」

「…今度プレート買って家でもやる?お好み焼きはフライパンでもできるけど。もんじゃやるなら鉄板の方が良いし」

「お店よりは具材の自由度は高そうかな。天霧がやるならハズレは無さそうだし」

「買いかぶりすぎ…」


 店員さんが持ってきた具材と生地の素を少し眺めてから、それらを俺の方に寄せる。


「少なくとも私よりはマシだから、プレート買うのは有りかもね」


 具材を先に軽く炒めて、その具材でドーナツの形をした土手を作り、その中に生地を入れて焼いていく。

 最上は興味深そうに見るだけであまり手を出そうとはしない。


(一応受け皿もらっておいて正解だったかも)


「天霧は知ってた?もんじゃ焼きってお好み焼きより歴史古いんだって」

「……そこの差あんまり考えた事ないけど」

「確か、もんじゃ焼きが先で広まる内にお好み焼きに枝分かれしたんじゃ無かったかな」

「へえ…どこから持ってくんのその知識…。はい、あーん」

「えっ…あー…ん。んっ、カリカリだ」

「熱くない?」

「大丈夫、美味しい」


 そんなやり取りをすると、近くの席から盛大な舌打ちが聞こえて来た。

 聞こえた方向を見れば、男所帯だったり女子会だったり。


「…聞こえるようにやられてんのかな」

「見る人によっては羨ましいでしょ、今の私達は」

「それは分かるけど…」

「放っておきなよ。見てるだけで理解されたら、私達は苦労してないんだから」

「…最上のそういうクールで強い所、俺も見習わないとな…」


 何となく呟くと、最上は小さく笑って「見習わなくて良いかも」と返してきた。


「天霧は今くらい、自信無さげな方が丁度いいよ。自信家な男の子で碌な人に会った事無いから」

「…最上は、そういう相手に苦労してそうだな」

「だから、天霧はそのままで良い」

「……一応、最上は自分が自信家な方って自覚はあんのな」

「顔と才能は褒められて来たから。家族と私を嫌いな人からはボロボロに言われてたけど」


 俺はむしろ家族からはあまり言わない様にされていたが、周囲の人達から徹底的に言われた側だ。

 似た境遇でも、詳細は違う。


 それでもよく分かり会える存在である事に変わりはない様だけど。

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