第一章後編 (最上星雫side)
第13話 旅立ちの前に、君がくれた物
「ま、待って星雫!」
(……もう八回目だし…)
校門前で親や在校生、先生方と一緒に写真を撮っている卒業生達の中をさっさと立ち去ろうとした私を強引に引き止めて来た一人の男子。
周囲の注目を引いた事すら気にせず、私の事だけを見つめてくるのは、校内でも女子人気の高かった私の幼馴染の
私にとっては嫌悪の対象でも、周りから見れば顔と性格がいい文武両道の優等生だ。
「俺、お前と同じ高校受けたの知ってるよな。昔みたいに一緒に登下校したかった。お前のこと好きなんだ、俺と付きあっ…「止めて」…え?」
自分語りをしだした彼の手は、私の肩を掴む力が強くなって来た。
煩わしく思い、その手を払って彼の話を中断させた。
「本当に好きなら、他に言う事あるでしょ」
「……え…?な、なに…?」
本気で困惑したような表情の彼を見て、私はため息混じりに踵を返した。
これ以上話すことはない。
例え、私が望む言葉を彼の口から聞けたとしても、付き合う気は毛頭ないが。
(……誰のせいで三年間本音と本性を隠して生きる事になってると思ってるの…?)
彼とは幼馴染だ。
幼稚園に入るよりも前から、ずっと。
誕生日は一日違い、同じ病院で産まれて隣の家で育った。
小さな頃は、私の髪や瞳の色を綺麗だと言ってくれた。私はそう言ってくれる彼のことが好きだったけれど、成長するに連れて彼の態度は変わって行った。
小学校に入ったばかりの頃から、二人で居ると周囲から揶揄される事が多くなったのが原因なのは分かっている。
今になって思うと、そんな物は気にしないで一緒に居てくれれば良かったのに…と思わずには居られない。
半端な物ではなく、ちゃんと学力があって運動神経抜群で、皆が認めるくらいに顔が良い。
中学年になった頃からそんな彼が、クラスの中心に居る彼が主犯格になったのだから、周囲は当然のように増長していく。
何を思ってそうしていたのかは、私にはもう分からない。
中学校に入ると同時に、私は髪と目の色を隠して生きるようになった。
そして、彼の態度は途端に変わった。
それまでと顔ぶれが変わったからなのか、私とクラスが別々になったからなのか…私の変化に何かを感じたからなのかは分からないが、成績だけでは無く態度まで優等生になっていた。
そうなった所で、私の彼を見る目が変わる訳ではない。
(……でも、恋人は欲しいな…)
校門を出た時、漠然とそんな事を思った。
大和みたいな自分の事ばかりを優先するんじゃなくて、私の事もちゃんと考えてくれる人。
(できれば、私が本気で好きになれる人と高校で出会えたら良いな…なんて妄想するのは、私じゃなくてもするよね?)
3月初日に行われた卒業式の翌日、私は両親を説得して一人暮らしをさせて欲しいと頼んだ。
一番大きな理由は、告白を断っても結局は隣の家に住んでいる訳だから彼の望む通りにはなってしまうのが嫌だったから。
一人暮らしがしてみたかった、という感情は当然ある。
幸い、両親は私よりも私の双子の姉の方に興味があるから特に話し合いもなく了承された。
姉は私と違って優秀だから、中学校も受験して入った。高校も自宅近くの偏差値の高い所に入学する。
その姉も若干ではあるが、私を見下している節があるので、家から居なくなったら清々するだろう。
(…それに、お姉ちゃんは大和の事好きみたいだし)
それから少しして、思ったよりもお母さんは私の一人暮らしに乗り気になった様で、お母さんはさっさと私が住むアパートの部屋を借りて引っ越しの準備を進めてくれた。
そんなに家に居てほしく無かったのかと少し寂しい気持ちになった反面、当たり前かと納得もした。
だって、片や優秀で誰もが認める天才気質な姉。
片やその劣化版のような妹。
加えて双子でありながら、あまりにかけ離れた…それどころか血縁の誰にも似ておらず覚えのない容姿をしているのだから。
表向きは良親を気取っていても、私は姉との扱いの違いに顔をしかめることしかできなかった。
そんな生活から離れられる事を考えると清々するが、この容姿とは今後も付き合っていく事になる。
ある日、両親が家に大和が来ると姉に話していたのを見て、多方面からの視線が痛くなることを理由に家に居たくなかったから外に出ていた。
自宅からかなり離れた場所の公園にいると、何処からか歌声が聞こえてきた。
少し辺りを見回して、近くの中学校で行われている卒業式の合唱だろうと気付く。
私は自分の時とは違うその歌に耳を傾けていた。
(…そう言えばさっきコンビニあったな…)
そう思ってコンビニへ行き、軽食を買って公園に戻った。
その時にはもう歌声は聞こえて来なかったが、公園を散策していた時にその端っこで捨て猫を見つけた。
(これって犯罪になるんじゃ無かったっけ…)
自分は捨てられた訳では無いが、何となく猫たちの心情に寄り添って、さっき聞こえてきた歌を歌っていた。
そうしていると、不意に足音が聞こえて来た。
隣にしゃがんで来た制服姿の少年。
恐らくは、さっきの卒業式に参加していた卒業生の一人だろうと思う。
チラッと視線だけで様子を見ると、長い前髪の奥に隠れた瞳は捨て猫に向いているのが分かった。
「…君の?」
聞かれて、首を横に振る。
もしかすると、私の歌が聞こえて来たからこっちに来たのかも知れない。
……この出会いが、自分の日常を彩ってくれる事になる事も知らずに、私は歌の続きを口ずさんだ。
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