第18話 ベタ塗りの日々は彩られる

「やっぱり、そうか…。私も同じ。しかも、男子ってこういう…他と違う、特別な感じの子が好きって人多いみたいで、かなりモテてたから余計に」


 余計に女子からの扱いは悪かった…と言うのは言葉にしなくても伝わると思う。


「最上の場合、髪色関係なくモテそうだけど」

「それ言ったら天霧も…って思ったけど、前髪伸ばして顔も隠してたか、私もそうすれば良かったかな…」


 後半は思わず漏らした本音、天霧は気にした様子もなく話を続けた。


「…てことは、やっぱモテたの?」

「自分で言うのもアレだけど、校内一」


 真顔で言ってやると、天霧は思わずといった様子で笑った。そんな顔も見惚れるほどに愛らしい。


「ふっ…凄い自信」

「卒業アルバム参照だから、間違いないと思う」

「なるほど、信憑性高いな」


 校内アンケートでそんな結果になったのを学級委員に聞かされた記憶がある。


「それに、卒業式の日に八人くらいに告白されたし」


 思わず愚痴のように漏らしたが、天霧は「あれ、じゃあつまり…」と呟いた。


「全部断ったの?」

「同じ高校行く人も居たけど、断った」

「それ、気不味くない?」

「どうでも良いよ。興味ない」

「あのさ、そのイジメって君の場合…髪色とか関係無い…事もあったんじゃない?好きな子にイタズラしたいけど周りが同調して止めるに止められなくなっただけの奴とかも居るんじゃ…」


 言われてみると、大和のはまさにそうだったのかも知れない。

 けれど、私からすれば「だからなんだ」と言ってやりたい所だ。


「そうだとしても、私が傷付いたのを知ってて謝りもしない人の告白を受けようとは思わない」

「…それはそうか」


 謝られてすらいないのだから、先にそっちの話をしろよ…と思うのは当たり前じゃないだろうか。

 私は寧ろ、天霧にそんな経験がないのか気になった。


「天霧は、そういうの無い?」

「告白された事は無い」

「…意外」

「六年イジメられて三年ボッチだったんだから、意外な訳が無い」


 中学校での三年間、多少なりとも友人関係があった自分がまだマシだったのかと思えてしまうくらいに、彼は陰に潜んで生活していたようだ。


 それでも似たような立場だった以上は気の利いた言葉も思いつかない。


 しばらく部屋の中に二人が食事する音だけが鳴っていた。

 食べ終えた後のゴミを片付けた後でスマホに視線を落とした時、不意に天霧の誕生日が近い事を思い出した。


「あ、そうだ…。入学式前に、二人で何処かに出掛けない?引っ越し祝いとか誕生日祝いも兼ねて」

「良いよ。どこ行きたいとかある?」


 聞き返されてぼーっと少しだけ考えた後、思わず「あっ…そう言えば」と声を上げた。


「私、この辺りの土地勘全く無いからなんとも言えない」

「それは俺もだよ、流石に」

「じゃ、明日二人で散歩。そしてお互いの誕生日プレゼント買いに行こ」

「それ良い、賛成」


(…あれ、何気なく誘ったけどこれデートなんじゃ…?)


 とは思ったものの天霧がそんな事を意識してる訳が無いのはこの数時間で何となく分かっているので、私は口には出さずに「近くに何のお店あるかな…」なんて話ながら彼の側に座った。


 同じスマホの画面を眺めて、偶に彼も指を添えてくる。


 ふと、スマホに落としていた視線を上げて、天霧の顔を見た。


 白くなっている前髪で翡翠色の片目が隠れているが、端正な顔立ちは嫌でも分かる。

 前髪の黒い部分はサイドに流され耳にかけているので、今隠れているのは翡翠色の目の部分だけ。


「…ん?」


 小さく首を傾けた美少年はすぐ隣に、というか肩が触れるゼロ距離に居る。

 互いに寄りかかり合いながらこんな事をしてるのは完全にカップルなんじゃないかと再度思い直した。


「天霧って肌綺麗だね」


 咄嗟に思い付いた言葉を出すと、彼は「あぁ、いや」と小さく呟いた。


「俺、異様に肌弱いからスキンケアはかなり気を使ってる」

「…遺伝子的な奴?」

「髪の方も多分そう。最上は?」


 聞き返されて、少し自分の頬に触れる。


「化粧もスキンケアもしない。お姉ちゃんは結構気にしてるけど」

「髪色は生まれ付き?」

「白いのは家系的なのらしくて……父方の曽祖母も生まれ付き白髪だったみたい。先祖返りって言うの?アルビノとは違って肌は強い方だし、運動もできる方」

「…不思議な家なのか」

「実際、昔はちょっと霊とか呪い?とかに関わる職業の人だったらしいし、本当に不思議側の人かも」

「呪いとか実在するのそれ?」

「私は霊感あるよ、実在はするんじゃないかな、知らない人が多いだけで」


 なにそれ怖っ…と呟き眉をひそめた。


「因みにそれ本当の話?」

「親に聞いただけだから、どうだろ」

「あ、いや、霊感の話」

「本物かどうかは検証のしようがないから分かんないけど、それらしい物を見たのは一回二回では無いかな」

「……俺そういうの苦手」

「ホラー映画とかも?」

「…無理」


 少し恥じらいながら、かけてもいない眼鏡を直そうとして…そっと手を下ろす。


(なにその反応、可愛い)


「映画館探そ」

「探さなくて良い」

「あ、近いよ」

「近いの…?行かないよ?」

「今からホラーは…ある。よし行こ?」

「行かないって」

「強制、行くよ」

「えぇ…」


 半ば強引に部屋の外へ連れ出すと、なんだかんだと笑いながら一緒に映画館に向かった。


 私も天霧も外出する上でおかしい格好はしてなかったけれど、二人共コンプレックスを一切隠さずに並んで外に出たせいで、周りからの視線を一身に受ける事になって……途中で帰って来た。

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