第7話 6:4のツートンカラー

「おかえり。レシートは?」

「あ、はいこれ」


 コンビニから戻ると、少しラフな格好に着替えた様子の最上がキッチンでお湯を沸かしていた。

 相変わらずのパーカーではあるが。


 催促されたのでレシートを手渡すと、一度部屋に戻って財布を持ってきた。


「こっちのプリンは俺の奢りな」

「…いいの?」

「注文されてないし、勝手に二つ買ってきただけだから」


 部屋の中は外より暖かかったのでコートとキャップを脱いで、眼鏡も片付ける。


 彼女がカップ麺にお湯を入れてる間に、俺は弁当をレンジで温める。


 ふと、最上がずっと俺の方に目を向けてる事に気が付いた。


「…どうかした?」

「……その髪…」

「あっ…」


 今日一日気にならなかった…というか、今始めて帽子を取ったせいで忘れていた。


 何を言うべきか困って居ると、最上はほんの少しだけ笑みを浮かべた。


「私とお揃いだ」


 そんな言葉で、急に胸の奥が軽くなった気がした。


「…そう、かも。これ、中学では隠してたんだ」

「目の色も?」

「…うん」

「ウィッグ?」

「いや、ヘアカラー」

「私はウィッグとカラコンで隠してた」

「…えっ…?」


 部屋の中は少しの間、静寂にレンジの回る音だけが響いた。


「…あの公園で天霧と会った時、私ウィッグ着け忘れてて…フード取ってから気付いた。でも、天霧が何も言わなかったから…私が思うより同年代の人って大人なのかと思って、結構悩んだけど着けないで生活する事にしたの」


 まさか自分と同じ様に、あの出会いをキッカケに似たような悩みを抱えていたとは思わなかった。

 そして、俺と最上は結局同じ結論を出した。


「…俺も似たような感じ。最上が普通にその髪色を気にせず歩いてるのを見て…自分が気にし過ぎてるのかなって思ってたんだけど……そっか、隠し忘れてただけか」

「天霧は、自分の髪色ソレを気にしてるから、私に何も言わなかったんだ」

「まあ…そう。俺としては、気付かなかったから堂々としてたのかって驚いてるけど…。そっか最上も中学では隠してたんだ」

「その為に短くしてたし」

「なるほど、納得」


 互いに間違って認識していたことを少し笑い合い、レンジが鳴ったので弁当を持って俺もテーブルにつく。


「天霧は、なんで中学で隠してたの?」

「小学校の六年間丸々イジメられっぱなしだったかは。この髪と目の色のせいで」

「やっぱり、そうか…。私も同じ。しかも、男子ってこういう…他と違う、特別な感じの子が好きって人多いみたいで、かなりモテてたから余計に」


 余計に女子からの扱いは悪かった…と言いたいのだろう、奇しくも以前に自分の中にあった疑問の答え合わせができてしまった。


「最上の場合、髪色関係なくモテそうだけど」

「それ言ったら天霧も…って思ったけど、前髪伸ばして顔も隠してたか、私もそうすれば良かったかな…」


 後半は小さな呟きだったが、その言葉から察するに…。


「…てことは、やっぱモテたの?」

「自分で言うのもアレだけど、校内一」


 真顔でそう言うので、思わず笑ってしまった。


「ふっ…凄い自信」

「卒業アルバム参照だから、間違いないと思う」

「なるほど、信憑性高いな」


 校内アンケートとか、そんな奴を作ったんだろう、クラスは違うが同級生がやってるのは見た。


「それに、卒業式の日に八人くらいに告白されたし」


 それなのに俺と普通に話してる、と言うことは…だ。


「全部断ったの?」

「同じ高校行く人も居たけど、断った」

「それ、気不味くない?」

「どうでも良いよ。興味ない」

「あのさ、そのイジメって君の場合…髪色とか関係無い…事もあったんじゃない?好きな子にイタズラしたいけど周りが同調して止めるに止められなくなっただけの奴とかも居るんじゃ…」


 最上は少し目を丸くして、なるほどそうかも…と小さく頷いた。だが、返って来た言葉は至極当然と思える事だった。


「そうだとしても、私が傷付いたのを知ってて謝りもしない人の告白を受けようとは思わない」

「…それはそうか」


 謝られてすらいないなら、先にそっちの話をしろよ…と思うのも当たり前だろう。


「天霧は、そういうの無い?」

「告白された事は無い」

「…意外」

「六年イジメられて三年ボッチだったんだから、意外な訳が無い」


 さっき駅前で逆ナンされたりはしたけれど、あまりに暇すぎて適当に目に入った奴に声かけたんだと思っている。

 強引さとかは無かったし、なによりもお世辞がかなり適当だった。


 いや、そんな事はこの際どうだって良いか。

 食べ終わったゴミを片付けてソファに戻ると、最上が不意に提案してきた。


「あ、そうだ…。入学式前に、二人で何処かに出掛けない?引っ越し祝いとか誕生日祝いも兼ねて」

「良いよ。どこ行きたいとかある?」


 聞いてみると、最上はぼーっと少しだけ考えてから「あっ…そう言えば」と声を上げた。


「私、この辺りの土地勘全く無いからなんとも言えない」

「それは俺もだよ、流石に」

「じゃ、明日二人で散歩。そしてお互いの誕生日プレゼント買いに行こ」

「それ良い、賛成」


 そう言うと、最上は「近くに何のお店あるかな…」なんて話ながら俺の側に座ってスマホを点けた。

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